2001年9月版

‐ 政策の手遅れで景気後退はどんどん進む ‐

【本年度は戦後3回目のマイナス成長となる可能性】
 4〜6月期の実質GDPは、前期比−0.8%(年率−3.2%)と予想通りの大幅なマイナス成長となった。内容を見ると、個人消費が家計統計とは逆にプラスになったのがやや意外であるが、残りは設備投資、住宅投資、公共投資、純輸出が予想通り揃って減少している。(以上図表1参照)
 この4〜6月期の実質GDPは、前年度平均実質GDPに比べ、−0.5%の水準にある。7〜9月期以降プラス成長に転じるシナリオがまったく描けない現状から判断すると、本年度の実質GDPの平均水準が前年度を下回る可能性が高い。本年度の成長率は、政府見通しの+1.7%どころか、前年度実績の+1.0%をも大きく下回り、戦後3回目のマイナス成長となるのではないか。
 「痛みを恐れず改革する」と小泉総理は叫んでいるが、まだ改革に着手しないうちに「痛み(マイナス成長)」が全身に走っているのである。

【頼みの米国経済も回復は遅れる】

この状況を、輸出増加という「他力本願」で脱出することは出来そうもない。このホームページの「最新コメント」欄 "米国の景気回復は来年になる" (2001.9.12)に詳しく書いてあるように、世界同時の成長減速を引き起こしている米国経済は、来年にならない限り回復の動きは出てきそうもない。
 米国は目下グロース・リセッション(成長しながらの景気後退)の状態にあるが、その主因であるIT関連設備のストック調整は、来年まで続くと見られるからである。
 そのうえ、金利引下げの影響で立直り、景気を下支えている住宅投資と耐久財消費も、雇用情勢が急速に悪化しているため、いつ崩れるか分からない。もし個人消費や住宅投資が減少に転じると、米国経済もこの先マイナス成長となり、調整の幅と時期はもっと深く長くなるかも知れない。
 9月11日早朝に発生した米国の同時多発テロの経済に対する攪乱的影響も心配される。

【IT関連製品の調整で生産の下落は続く】

7月以降の国内の指標は、相変わらず冴えない。7月の鉱工業生産は、予測指数の-2.3%をやや上回る-2.8%の落ち込みとなった。8月の予測指数は+4.3%、9月は同-3.0%と乱降下する形となっている(図表2参照)。仮にこの予測通りになったとしても、7〜9月期は前期比-1.9%と3,4半期連続のマイナスとなり、前年同期比では実に-8.9%の落ち込みとなる。
 グローバルなIT関連製品の在庫調整、設備調整を反映して、落ち込みが最も激しいのは電気機械であり、次いで一般機械である。IT革命自体は長期的に見てまだまだ続くので、極端な悲観は当たらないが、在庫調整は年内一杯続き、設備調整は来年までかかると見なければならない。その間は、生産下落が鈍化することはあっても、底を打つことはないのではないか。

【設備投資と輸出の減少が大きい】

IT関連製品の調整を最も強く反映しているのは、言うまでもなく設備投資と輸出である。4〜6月期のGDP統計の実質設備投資は、図表1に見るように、前期の-0.9%に続いて-2.8%(いずれも前期比)とかなり大きく下がった。図表3に示したように、一般資本財出荷も、前年比で見て4〜6月期の-0.5%のあと、7月は-8.5%と大きく下落幅を拡大した。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)を見ても、6月以降前年水準を下回っている(図表3参照)。季調済み前期比で見ても、4〜6月期に-6.7%と減少したあと、7〜9月期の見通しも-5.1%の減少を続ける。6〜9月の先行指標であるから、年度内の設備投資下げ止まりは期待薄である。
 他方輸出も、引き続き減勢を辿っている。実質輸出の前期比は、1〜3月-4.7%、4〜6月-4.8%に引続き、7月も前月比-5.5%となっている。

【7月の個人消費と住宅投資は一時的な持ち直し】

 弱い需要動向の中で、7月にやや持ち直しを示したのが個人消費と住宅投資である。
 7月の消費水準(全世帯)は、図表3に示すように、前年比マイナス幅が縮小したが、これは季調済み前月比で見ると+1.4%の増加となる。
 勤労者世帯も7月の実質消費は前月比+2.7%の増加となっている。ただしこれは、所得の増加によるのではなく、消費性向の上昇によるものである。暑さの為にエアコンなどの購入が増えたことが主因のようだ。また図表3に示すように、乗用車新車登録台数も7月8月は前年水準を大きく上回って伸びた。
 他方、新設住宅着工戸数も7月は年率122.7万戸と4〜6月平均の114.8万戸を6.9%上回った。中心は分譲マンションである。
 このような個人消費や住宅投資の動向は、所得の回復に裏付けられていないだけに、持続性には不安がある。

【今の自公保政権にこの景気後退が防げるか】

 個人所得の動向を左右する雇用、賃金の情勢を見ると、生産の下落傾向を反映して引続き悪化している。7月の完全失業率は、5.02%と既往ピーク(前月の4.29%)を更新し、遂に5%台に達した。男子だけ見れば、5.21%と言う高水準である。
 7月の常用雇用(事業所規模5人以上ベース、全産業)も、前年比-0.2%と8ヶ月連続で前年水準を下回った。解雇を免れた人々についても、所定外労働時間は図表3に示したように-5.2%と5ヶ月連続で前年水準を下回り、そのマイナス幅は月を追って拡大している。
 以上のような深刻な景気後退を防ぎ、また米国の同時多発テロの攪乱的影響を未然に防止するため、日本銀行は日銀当座預金に8兆円強のアイドル・バランスを積むという超金融緩和を実施している。しかし広義マネーサプライの方は、図表3のように8月は前年比+3.4%という緩やかな増加にとどまっている。
 金融面からこの景気後退を防ぐことは不可能である。一刻も早く補正予算と来年度予算をあわせた15ヶ月予算を組み、民間のビジネス・チャンスを拡大する景気刺激的な構造改革を前倒しに実施するのが最善の策である。果たして今の自公保政権に、それが出来るか。