2001年6月版

‐ マイナス成長が始った ‐

【過剰在庫の発生で生産は少なくとも秋頃迄下落を続ける】
年初来の景気後退は、いよいよはっきりした姿をとり始めた。本年1〜3月期の実質GDPは-0.2%(年率-0.8%)のマイナス成長となったが、4〜6月期は更に大幅なマイナス成長となる可能性が高い。4月の鉱工業生産指数の実績は、予測指数の前月比-0.8%を上回る-1.7%の下落となり、出荷指数は更に前月比-2.5%の大幅下落となった。 出荷が生産を上回って下落したため、在庫指数は前月比+2.1%の上昇となり、在庫率指数は109.9と前月比3.3ポイント上昇した。これはマイナス成長に陥った平成10年の水準に近い(図表1参照)。従って、この先秋に向って在庫減らしの減産が続くことになる。生産指数は本年1〜3月期に前期比-3.7%の大幅減少となった後、4〜6月期(5月と6月は予測指数)には同-2.8%の続落となる見込みであり、更に7〜9月期にも在庫調整の結果低下を続けざる終えないであろう。

【家電リサイクル法の施行で4月以降の消費は大幅な反動減】

景気後退要因は在庫調整だけではない。国内の最終需要も揃って弱含みとなっていくであろう。 まず個人消費は、本年4月の家電リサイクル法施行前の買い急ぎで、図表2の消費水準(全世帯)は1〜3月には一時的に増加し、前年比+1.9%の増加となった。しかし、1〜3月期の乗用車新車登録台数が前年比でマイナスに陥ったように(図表2参照)、その他の消費が振るわなかったので、1〜3月期のGDPベースの消費は横這いにとどまった(図表3参照)。しかも4月には早くも家電買い急ぎの反動で、消費水準は前年比-4.3%の大幅な落込みとなっている(図表2参照)。本年1〜3月の実質GDPは前期比-0.2%(年率-0.8%)と小幅のマイナス成長になったが(図表3参照)、4〜6月期は個人消費の大幅な反動減でかなり大きなマイナス成長に陥る可能性が高い。 このような家電リサイクル法の施行に伴う撹乱を除いてみると、本年の個人消費は徐々に下落せざるを得ない条件下にあると思われる。何故なら、生産の落込みに伴って雇用と賃金が次第に悪化し、個人所得が徐々に減少していくからである。

【雇用・賃金の悪化で個人所得も弱含みに】

雇用情勢を見ると、完全失業率は2月4.68%、3月4.72%、4月4.79%と3ヵ月連続でじりじり悪化している(図表2参照)。また常用雇用(事業規模5人以上ベース、全産業)は、4月も前年比-0.2%と5ヵ月連続で前年水準を下回り続けている。 他方、失業を逃れた人々についても、所定外労働時間の前年比が、3月-0.9%、4月-2.0%とほぼ2年ぶりに前年を下回ってしまった(図表2参照)。このような時間外手当の減少と夏のボーナスの抑制によって、賃金水準も前年を下回るのは時間の問題であろう。 このような雇用・賃金の悪化に伴う個人所得の下振れに加え、株価の低迷にも見られるような先行き不安もあるので、消費マインドは当分慎重姿勢を崩さないであろう。 個人消費はGDPの6割を占めるだけに、本年4〜6月期以降のマイナス成長が更に大幅となることが懸念される。

【設備投資は次第に減勢に転じる可能性】

次に設備投資の動向を見ると、本年1〜3月の一般資本財出荷(図表2参照)や法人企業統計の設備投資の前年比伸び率が大きく低下したことから容易に予測されていたように、GDPベースの設備投資も1〜3月には前年比増加率を縮小し、前期比では-1.0%の減少となった(図表3参照)。 設備投資が早くもマイナスに転じたとは見られないが、勢いを失ってきたことは間違いない。現に6〜9ヵ月の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、本年1〜3月期に前期比-7.1%と7四半期ぶりの減少となり、先行きに赤信号が点滅し始めた。もっとも4月は1〜3月平均比+4.8%の増加となり、4〜6月期の見通しも前期比+0.4%と、ほぼ横這いの見通しなので、先行き設備投資が急減するとは思われない。しかし少なくとも設備投資が今後次第に弱含みに転じる可能性は高い。

【住宅投資、公共投資、純輸出は揃って減少傾向】

以上のように、国内民間需要の二本柱である個人消費と設備投資は、先行き減少に転じる可能性が出てきたが、それ以外のGDP需要項目についても、4〜6月期以降増加傾向に転じて景気を下支えする可能性のある項目はほとんど見当たらない。ここに景気展望の深刻さがある。 まずGDPベースの住宅投資は、1〜3月期に前期比-5.2%(前年比-5.9%)の減少となったが、図表2の新設住宅着工戸数が4月に前年比-7.2%の大幅減少となっていることが示すように、先行き回復の可能性はない。 GDPベースの公共投資は1〜3月期に+5.2%と3四半期ぶりの増加となったが、前年同期比でみれば-3.7%の低水準である。図表2に示した公共工事請負額は4月に+4.7%となったが、これは一時的であり、ならしてみれば前年を2桁のパーセントで下回る傾向が続いている。 GDPベースの輸出は1〜3月期に前期比-3.6%、純輸出は同-9.4%となり、1〜3月期の成長率を0.2%ポイント下に引張っている。米国の成長減速傾向が続いていることから判断しても、外需立直りの見込みは当分ない。

【本年度の成長率はゼロかマイナス】

以上のような景気動向から判断すると、平成12年度の成長率が0.9%にとどまり、政府の実績見込み1.2%を下回ったのに続いて、本年度の成長率はゼロないしはマイナスとなり、政府見通しの+1.7%を大幅に下回ることになるであろう。 既に本年1〜3月期実質GDPの水準は、平成12年度平均に比して+0.1%にとどまっているので、本年4〜6月期以降の実質GDPがマイナス傾向となれば、当然本年度の実質GDP平均は前年比マイナスとなる。 今のところ、本年度の方が12年度に比して増加しそうなGDPの最終需要項目は、政府消費を除いて見当たらない。過剰在庫の増加で在庫投資はプラスとなるかも知れないが、これは先行き在庫調整でGDPを押し下げる要因に転化する。 小泉政権のアキレス腱は明らかに景気動向にある(詳しくはこのホームページの「最新コメント」"小泉総理の改革戦略に潜む三つの問題点"(2001年5月29日)参照)。