2001年5月版
‐ 景気後退の悪影響が雇用面にも出てきた ‐
【本年上期の鉱工業生産の下落は急テンポ】
3月の鉱工業生産は、修正予測の-0.8%を大きく下回る-2.1%の大幅下落となった。このため1〜3月の生産指数平均の前期比も-3.7%と7四半期ぶりの減少となった。しかもその下げ幅-3.7%は、平成10年4〜6月の-4.5%依頼の大幅なものである。
それだけではない。4月と5月の生産予測指数も-0.8%づつの下落となっているので、図表1を見れば明らかなように、この大幅な下落傾向はまだ続く。因みに、4月と5月が予測指数の通りとなり、6月は5月比横這いと仮定すると、4〜6月平均の前期比は-2.3%と引続き大幅な下落となる。
塩川財務大臣は、G7会議直後のワシントンにおける記者会見で、「景気は最近底を打った感じがする。春から6月頃にかけて持ち直し、回復していくと思う」と述べたと伝えられるが、その認識の甘さは驚くばかりである。
【雇用と賃金の悪化で個人消費の持続的回復の基盤は失われた】
このような鉱工業生産の急落傾向は、雇用関連指標にはっきりと悪影響を及ぼし始めた。
3月の完全失業率は、図表2に示したように、四捨五入すれば前月比横這いの4.7%であるが、正確に言うと2月の4.68%から3月の4.72%に悪化している。限界的な労働需給を示す求人倍率はもっと敏感に反応している。新規求人倍率は昨年11月をピークにして3月まで4ヵ月連続して悪化しており、有効求人倍率も作年12月をピークに3ヵ月連続して悪化している。
常用雇用指数(事業所規模5人以上ベース、全産業)をみても、3月まで4ヵ月連続して前年を下回っている。所定外労働時間(同)も、図表2に示したように前年比-0.9%と、7ヶ月ぶりに前年水準を下回った。名目賃金指数(同)も、2月、3月と2ヵ月連続で前年を下回った。所定外手当の減少が響いている。
以上のような雇用、賃金情勢からみると、今後個人消費が持続的に立直る条件は失われたと考えられる。仮に回復があっても、一時的にとどまるのではないか。
【家電リサイクル法施工前の買い急ぎで1〜3月の消費は一時的に伸びる可能性】
本年1〜3月の個人消費動向については、3月の計数が出揃っていないので、まだ断言できないが、百貨店、スーパー、チェーンストアなどの1〜3月期の売り上げは、前期比若干のプラスになっていうる。これは、本年4月からのリサイクル法の施行に伴なう家電製品の値上がりを見越した買い急ぎによる面が大きい。その反動で、4月以降の個人消費は一段と冷え込むのではないか。
他方、住宅投資については、本年1〜3月の新築住宅着工戸数が、図表2に示したように前年比で再びマイナスとなっていることからみても、引続き弱いとみられる。年率換算の着工戸数も1〜3月は118.2万戸と前期比-0.4%の減少となっている。
【設備投資はまだ増勢を維持している可能性】
本年1〜3月の設備投資動向は、一般資本財出荷の前年比プラス幅が大きく縮小し(図表2参照)、前期比では-0.5%となっていることから判断すると、やや弱い可能性もある。もっとも、一般資本財出荷には輸出減少の影響も含まれているので、まだ即断は出来ない。現に「法人企業動向調査」では、本年1〜3月の設備投資が全2四半期同様(図表3参照)、プラスになっている。
「法人企業統計が」発表になる6月迄は分からないが、1〜3月の設備投資はまだ増勢を保っている可能性がある。ただ先行きは、機械受注の動き(図表2参照)からみて不安がある。
1〜3月の公共投資は、図表2の公共工事請負額の前年比が大幅なマイナスとなっていることから見て、引続き減少傾向とみられる。ただし、公共事業の季節調整はやや不完全であり、例年見られる年度末の工事増加を調整しきれていないとプラスになる可能性もある。
【本年1〜3月の実質GDPは小幅のプラス成長か】
以上の動向を総括すると、1〜3月期のGDPは、個人消費と設備投資に支えられて国内需要はプラスとなる可能性がある。
他方海外需要は、1〜3月の実質輸出が前期比-4.7%の大幅下落となっているので、実質輸入が若干減少しても、純輸出としてはマイナスであろう。
その結果、1〜3月期の実質GDPは内需のプラスが外需のマイナスを相続し前期比で小幅のプラス成長となるかも知れない。しかしそれは、個人消費の一時的な増加によるものであり、4〜6月期以降は雇用・賃金の悪化による消費の冷え込みでマイナス成長に転じ、景気後退が鉱工業生産・出荷(図表1)のみならず、実質GDP(図表3)にもはっきりと出てくるのではないか。