2001年4月版

‐ 今始った景気後退は緊急経済対策では阻止できない ‐

【1〜3月の生産は1年前の水準に逆戻り】
 2月の鉱工業生産の実績は、予測指数の前月比+2.7%を大きく下回り、前月比+0.4%の僅かな増加にとどまった。そのうえ、3月の予測指数は前月比-0.8%、4月は同+0.6%となっている。生産は1月に-4.2%の大幅下落となったあと、2〜4月も反発せず、弱含みの横這いである。
 その結果、図表1に明白に現われているように、年明け後の生産減少傾向はかなり深刻である。因みに、3月の実績が予測指数の通りになると仮定した場合、1〜3月平均は前期比-3.3%の急落となる。図表1を見れば明らかなように、この落込んだ水準はほぼ1年前の水準に逆戻りしたことになる。現に2月の生産水準は前年比-2.1%と3年振りの前年比マイナスとなっている。

【生産の急落で雇用・賃金に悪化の兆】

 この生産急落は、雇用と賃金に悪影響を及ぼし、個人所得の落込みを通じて個人消費を減少させ、景気後退を決定的にするのではないだろうか。
 2月の雇用、賃金関係の指標を見ると、完全失業率は4.7%と前月(4.9%)比改善したが、これは遅行指標であり、残りの指標は軒並み悪化している。
 まず限界的な労働需給を示す新規求人倍率を見ると、2月は1.08倍と昨年11月(1.16倍)をピークに毎月低下している。このため有効求人倍率も2ヵ月連続して悪化した。
 また所定外労働時間も、図表2に示したように、前年比のプラス幅が急速に縮み、2月は+1.0%となった。これを季節調整済みの前月比で見ると-2.7%の減少である。これまで賃金を支えていた時間外手当の拡大が縮小に転じたため、今後の賃金動向も弱含みとなる可能性が高い。

【純輸出と公共投資の減少が景気の足を引張り続ける】

 このような生産の急落、それにともなう雇用、賃金情勢の悪化は、図表3のGDP統計のグラフに明らかなように、純輸出と公共投資の減少傾向によるものであり、設備投資は引続き景気を下支えしている。
 純輸出の減少は、米国経済の急激な成長減速と東アジア経済の景気足踏みによるものであり、その悪影響は未だしばらく続くであろう。また公共事業の落込みについては、平成12年度補正予算と平成13年度当初予算の公共事業費合計額が、平成11年度補正予算と平成12年度当初予算の公共事業費合計額に比して、5兆円ほど少ないので、このままでは当分下落傾向が続くであろう。現に年明け後の公共工事請負額は、図表2に示したように、前年比2桁マイナスとなっている。

【設備投資の伸びは鈍化しやがて減少に転じる可能性】

 昨年10〜12月期の設備投資は、図表3に見られるように大きく伸びた。しかし年明け後の1月と2月の一般資本財出荷の前年比は、図表2に見られうように急激に伸びが落ちている。季節調整済みの前月比でみると、1月-3.8%、2月+0.7%と10月〜12月水準に対して下がっている。期末月の3月の実績を見なければ分からないが、1〜3月の設備投資は頭打ちないしは減少の可能性もある。
 先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)の前年比も、図表2に示したように1月と2月はプラス幅を大きく縮小している。これを季節調整してみると、1〜2月の水準は10月〜12月平均比-6.4%の減少である。
 3月調査の日銀短観を見ても、ソフトウェアを含む設備投資総額は、全規模製造業で見て、2000年度に+11.9%のあと、2001年度の計画は-3.3%の減少となっている。
 唯一景気を支えている設備投資も、本年に入って増勢が鈍化し、やがて減少に転じる可能性が出てきた。

【この景気後退は緊急経済対策でも阻止できない】

 以上のように見てくると、景気は本年1〜3月期から後退局面に入り、設備投資の伸び率低下ないし減少と、個人消費の弱含みによって、後退のスピードが次第に早まってくる可能性がある。3月調査の日銀短観において、大企業・中堅企業・中小企業の総ての企業規模の製造業と非製造業の「業況判断DI」が3年ぶりに一斉に悪化したことは、この景気後退の開始を裏付けている。
 目先この1〜3月期は、家電リサイクル法実施前の駆け込み需要によって個人消費が一時的に伸びるとプラス成長になるかも知れないが、4〜6月期以降はマイナス成長に陥る可能性が高いのではないか。
 自公保政権の緊急経済対策にはこの景気後退を阻止する力はない。所得減税や社会保険料引上げ凍結のように、直接可処分所得を増やす政策がなく、他方で公共投資も減少を続けるからである。証券税制や不動産税制の改正は遅きに失した改革であり、これによって景気が立直るわけではない。政府保証付きの株式買上げ機構に至っては、銀行優遇の不公正な対策であるばかりか、株価に対しても有効な回復等にはなり得ない。株価は企業収益の将来見通しに依存するのであり、株式需給に直接介入した場合の効果は一時的、限定的である。