2001年3月版

‐ 年初から景気後退に入った可能性 ‐

【昨年10〜12月期の実質GDPは0.8%のプラス成長】
 昨年10〜12月期の実質GDPは、前期比+0.8%(年率+3.2%)のプラス成長と発表された。10〜12月期の一般資本財出荷や「法人企業統計季報」の設備投資が大きく伸びたことから容易に予測されていたように、実質GDPベースの設備投資が前期比+6.8%の大幅な伸びとなり、これだけで実質GDPの前期比を+1.1%も押し上げた。このため、個人消費が-0.6%(寄与度-0.3%)、純輸出が-12.7%(寄与度-0.3%)となったにも拘らず、プラス成長が維持されたのである(図表1参照)。

 10〜12月期の家計統計の消費動向から見ると、実質GDPベースの個人消費がマイナスとなったのはやや意外である。これは、家計統計中の移転支出(贈与金・送金など)を取除いた結果という説明であるが、やや技術的に問題がある。家計統計が示すように、12月を中心に消費は一時的にプラスになったという方が実勢ではないかと思う。以上の結果、2000歴年の成長率は+1.7%となった。しかし、2000年4〜6月期、7〜9月期、10〜12月期の実質GDPの平均は、99年度に較べ+1.2%にすぎないので、2000年度の成長率はこれ程高くなく、政府見通しの1.2%に近くなりそうである。

【鉱工業生産は1〜3月期に下落に転じた】

 昨年10〜12月期はこのようにプラス成長となったが、これが今回の「緩やかな回復」局面のピークになるかも知れない。本年に入って、景気は停滞の様相を濃くしているからである。
 その典型は鉱工業生産である。本年1月の生産指数の実績は、修正予測指数の+0.7%を大きく下回り、-3.9%と最近にない大幅な下落となった。また予測指数も、2月に+2.7%と多少の反動増となったあと、3月は再び-1.4%の減少となっている。この結果、実績が予測通りになると仮定した1〜3月期の平均は、前期比-1.7%と7四半期振りの減少となる。昨年7〜9月期+1.6%、10〜12月期+0.4%と鈍化してきた生産上昇は、遂に本年1〜3月期にマイナスに転じる可能性が高くなった。
 この傾向は、曜日構成を含めて調整できるより正確なX-12ARIMAで季節調整しても同じである。昨年4〜6月期の+1.9%をピークに、7〜9月期+1.0%、10〜12月期+0.3%と上昇が鈍化してきた生産は、本年1〜3月期に-1.2%と、やはり7四半期振りの減少に転じる。

【出荷の減少と在庫率の上昇で生産下落はしばらく続く】

 図表2の生産指数の推移を見ると、月ベースでは昨年8月がピークであり、その後弱含みの横ばい傾向から本年に入って減少傾向に転じたことが読みとれる。そして、大きく流れを見ると、99年の初めから始まった今回の生産回復がピーク・アウトした形になっている。
 本年1〜3月期の生産減少は、二つの理由から見て一過性ではなく、4〜6月期以降にも減勢が続く可能性が高い。一つは図表2に明らかなように、出荷も下を向き、在庫率は上昇し始めたことである。出荷の減少に伴なう生産減少には持続性があるし、仮に出荷の減少が止まったとしても、在庫率の上昇が示す過剰在庫の発生は、先行き在庫減らしの生産調整が始まる可能性を示しているからだ。
 もう一つの理由は、緩やかな生産回復をリードしてきた輸出と設備投資のうち、輸出は減少に転じ、設備投資は先行き鈍化する気配が出ていることである。しかも、個人消費には持続的に回復する気配はない。従って、出荷も今後下落していく可能性が高い。

【輸出が減少に転じ純輸出がマイナス成長要因に】

 貿易統計によると、実質輸出の季節調整済み前期比は昨年4〜6月期+3.8%、7〜9月期+1.0%、10〜12月期+0.2%と急激に増勢が頭打ちとなり、月ベースの前月比では昨年12月-2.4%、本年1月-8.0%とはっきり減少に転じている。
 この間に実質輸入は輸出を上回って伸びているため、実質貿易黒字は減少テンポを次第に早めており、それが図表1に示されている昨年7〜9月期以降の純輸出の低下に反映している。外需は明らかに成長の足を引張り始めており、それが図表2の生産、出荷のピーク・アウトをもたらしている。
 輸出減少の主因は、言うまでもなく米国経済成長の急激な減速であり、更に韓国、台湾など東アジア諸国の景気がピークを過ぎて勢いを失っていることも響いている。

【設備投資の伸びも現時点がピークの可能性】

 鉱工業生産の回復を引張ってきたもう一つの要因である設備投資の回復は、前述の通り昨年10〜12月期に大きく伸びるなど、足許は確りしている。設備投資と一部輸出の動向を反映している一般資本財出荷は、本年1月に前月比―5.4%と大きく減少してたが、それでも水準は昨年10〜12月期平均とほぼ同じである。輸出が落ちていることを考慮すると、国内向けの出荷は1月も10〜12月期比プラスであろう。このあと2月、3月に反動増となれば、1〜3月期の前期比プラスは間違いない。足許の設備投資に失速の兆はない。
 しかし、先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)をみると、図表3に示したように、前年同期比は昨年7〜9月期の+25.3%がピークであり、10〜12月期は+19.9%、本年1月は+0.8%まで鈍化している。
 これを季節調整済み前期比でみると、昨年7〜9月期の+8.2%をピークに10〜12月期は+2.6%と急激に鈍化しており、本年1〜3月期の予測は-6.4%と減少に転じる見込みである。
 このような先行指標の動向から判断すると、設備投資の伸びも本年1〜3月期あたりがピークとなり、平成13年度に入ると鈍化し始める可能性が高くなってきた。

【個人消費回復の時期は遠のいた】

 待望久しい個人消費の回復は、前述の通り前年10〜12月期にGDP統計ではマイナスとなったものの、家計統計ではプラスとなったため、やや期待を抱かせるが、これは一時的な動きと見られる。家計統計をみると、12月の消費増加は個人所得の増加に裏付けられたものではない。消費性向が12月だけ跳ね上がったことから見ると、家電製品や乗用車の購入が年末セールで一時的に伸びたものと思われる。
 現に1月と2月の乗用車新車登録台数は、図表3に示したように、夫々前年比-2.3%、-0.2%と10〜12月期の+3.3%から一転してマイナスとなっている。
 鉱工業生産が1〜3月期からマイナスに転じた可能性が高いことを考慮すると、今後も雇用の回復は期待できない。また企業収益も悪化し始めることを考えると、賃金の回復も期待薄である。従って、雇用と賃金、ひいては個人所得の回復に裏付けられた個人消費回復のシナリオは遠のいたと言えよう。
 現に1月の完全失業率は、図表3に示したように4.9%の最悪水準を続けている。今後生産が下落していけば、完全失業率は5%台に乗り、最高記録を更新していくのではないか。


【森内閣の失政で景気回復の本格化なしに景気後退へ】

 このように、個人消費の回復に点火しないうちに輸出が減少し、設備投資も先行き鈍化するとすれば、1〜3月期からの生産減少は新たに景気後退の始まりではないか。
 昨年の暮れに成立した12年度の補正予算と、現在衆議院を通過した13年度当初予算を合計すると、11年度補正予算と12年度当初予算の合計に比べて、真水ベースで5兆円程度少ない。従って、公共投資が増加してこの景気後退を食い止める可能性はまったくないと言ってよい。現に1月の公共工事請負額は、図表3に示したように、前年比-17.1%と昨年10〜12月期よりも更に大きく落ち込んでいる。
 新設住宅着工戸数も、1月は前年比-11.1%の減少である(図表3参照)。単月の動きだけで判断は出来ないが、昨年10〜12月期のGDP統計における住宅投資の+4.4%は一時的な動きとみられ、住宅投資回復のシナリオは考えにくい。
 結局、日本経済は自公保連立の森内閣の失政によって、景気回復が本格化しないうちに、早くも次の景気後退に陥る可能性が高まっている。