2001年2月版

‐ 来年度は孤軍奮闘の設備投資も鈍化する ‐

【昨年7〜9月期のマイナス成長で停滞感強まる】
昨年7〜9月期の実質GDPの第2次速報値は、このホームページの前月の「月例景気見通し(2001年1月版)」欄などでかねてから予想していた通り、マイナス成長に下方修正された。その原因についても、予想通り、設備投資が第1次速報の前期比+7.8%から同+1.5%へ大きく下方修正されたためである。実質GDPは1次速報の前期比+0.2%という僅かのプラス成長から、2次速報では同−0.6%(年率−2.4)%というかなりのマイナス成長に修正された。
この結果、図表1に明らかなように、実質GDPの水準は未だに4年以上前の96年1〜3月期の水準を抜いていないことになる。一口に「失われた10年間」と言われるが、図表1を見ると、前半は「グロース・リセッション」と「回復」であり、91〜96年度の6年間の平均成長率は1.7%である。これに対して後半は「マイナス成長」と「緩やかな回復」であり、97〜2000年度の4年間の平均成長率は0.5%程度にすぎない。そして未だに前半のピークに達していないのだ。
96年度と97年度の間で採用された「財政再建最優先の超デフレ予算」の罪深さを確りと総括しなければならない。これは自民党政治と大蔵官僚が癒着した「政策の失敗」である。

【2000年度の平均成長率は前年を下回る可能性】

昨年7〜9月期が年率2.4%のマイナス成長となった結果、残る10〜12月期と本年1〜3月期に年率1.6%程度のプラス成長をした時に、2000年度の平均成長率はやっと政府の見通しである1.2%に達する。
「緩やかな回復」の2年目である2000年度の平均成長率が、1年目の1.4%を下回る可能性はかなり高くなってきた。
政府見通しでは、3年目の2001年度には再び加速して1.7%になると言うのであるが、いま国会に提出されている平成13年度予算案では消費回復がおぼつかないので、政策がこのままでは政府見通しのような楽観的シナリオの実現可能性は低い(詳しくは、このホームページの「最新コメント」欄の"この13年度予算では日本経済が危ない"(2000.2.13)参照)。

【10〜12月期の設備投資は伸びをやや高める可能性】

昨年10〜12月期の実質GDPはまだ発表されていないが、2期連続のマイナス成長は避けられたのではないかと思う。7〜9月期のマイナス成長の反動もあって、設備投資の伸びが高まり、個人消費もプラスになりそうだからだ
まず設備投資関連指標をみると、「法人企業動向調査」の設備投資額(全産業)は、10〜12月期に前期比+11.3%、前年同期比+8.9%(前期は前年同期比+3.4%)と大きく伸びた。また10〜12月期の一般資本財出荷は、前期比+2.7%と、7〜9月期の同+5.2%よりは鈍化したが、これは輸出減少によるもので、国内の設備投資向けは伸びを維持していると見られる。GDP統計の設備投資は「法人企業統計季報」から推計されるのでまだ分からないが、恐らく伸び率をやや高めるのではないだろうか。

【10〜12月期は個人消費と住宅投資もプラスの可能性】

次に個人消費は、7〜9月期に横這いにとどまったが、図表2に示したように、家計調査の消費水準は10〜12月期に久し振りに前年を上回った。また同じく図表2にあるように、乗用車新車登録台数も、前年比+3.3%と伸びを高めた。これは季節調整済み前期比では+1.9%と3四半期振りのプラスである。
GDPベースの実質個人消費は、昨年4〜6月期+0.1%、7〜9月期0%と停滞していたが、10〜12月期には12月商戦が比較的良かったことから、はっきりしたプラスになりそうである。
住宅投資も、図表2に示したように新設住宅着工戸数が10〜12月期は前年比+4.8%と3四半期振りに前年を上回った。年率換算123.2万戸の低水準ではあるが、前期比で+1.7%と微増している。10〜12月期のGDP統計でも若干のプラスになるかも知れない。

【10〜12月期はGDPがプラス成長、鉱工業生産は鈍化】

このように10〜12月期は、設備投資と個人消費がプラスとなる可能性が高いので、他方で輸出が減少し、純輸出が成長の足を引張っても、全体としてプラス成長となる可能性が高いのではないか。
なお公共投資は、図表2の公共工事請負額からみると、引続き低迷しそうである。もっとも7〜9月期に前期比ー10.7%と異常な落込みを示しているので、その反動から10〜12月期は若干のプラスになるかも知れない。
この間、鉱工業生産の動きはGDPとはやや乖離している。前期比で7〜9月期に+1.6%のあと10〜12月期は+0.3%と大きく鈍化しているからだ。鉱工業生産は、実質GDPと比べると、輸出減少の影響を強く受け、反面消費増加の影響はあまり受けないため、10〜12月期に大きく鈍化したのであろう。
図表3に示したように、1月と2月の予測指数は連続して上昇しているので、実績がこの通りに出れば1〜3月期の上昇は再び大きく加速する。しかし、最近は実績が予測を下回る傾向が続いているので、まだ分からない。

【先行き個人消費が停滞したまま設備投資が鈍化する可能性】

最後に、先行きについて心配な指標を一つ指摘しておきたい。孤軍奮闘して回復を引張っている設備投資が来年度に入って伸び率を低下させる兆が出てきたことだ。逆に言えば、それ迄に個人消費が回復しないと景気は失速する。
設備投資の6〜9ヵ月の先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)は、昨年7〜9月期に前期比+8.2%、前年同期比+25.3%とピークを打ったあと、10〜12月期はそれぞれ+2.6%と+19.9%に鈍化した。更に見通し調査によれば、本年1〜3月期は前期比−6.4%とマイナスに転じ、前年同期比も+7.5%とプラス幅が縮小する。
従って、設備投資は平成13年度に入ると伸び率が落ちて来る可能性がある。
他方平成13年度予算が執行されると、4月からの雇用保険料引上げと10月からの介護保険料倍増で額にして2.4兆円、国民所得費で0.4%ポイントの国民負担率の上昇が起きる。これが消費を直撃する可能性がある(詳細はこのホームページの「最新コメント」欄"この13年度予算では日本経済が危ない"(2001.2.13)参照)。
10〜12月期にプラス成長に戻り、1〜3月期の生産が加速したとしても、先行き楽観は許されない。