2000年12月版
‐ 輸出が頭を打ち設備投資が一人で引張る姿に ‐
【10〜12月期の生産上昇に鈍化の気配】
10月の鉱工業生産は前月比+1.5%の増加となったが、9月の実績指数発表時の10月の修正予測指数+3.4%に比べるとかなり低い伸びにとどまった。このあとの予測指数は、11月+0.1%、12月+1.0%と増加を続ける形となっている。しかし、図表1をみれば分かるように、8月から12月までの生産は7月の水準よりも低く、ここへ来て生産の増加傾向に頭打ちの気配がみえる。11月と12月が予測指数通りと仮定した場合の10〜12月期の平均は、7〜9月期平均比+0.7%となり、4〜6月期+1.7%、7〜9月期+1.6%に比して明らかに生産増加の鈍化がみられる。この傾向は、X-12ARIMAでより正確に季節調整しても同じで、4〜6月期+2.0%、7〜9月期+1.3%、10〜12月期+0.7%となる。業種別にみると、鈍化が顕著なのは鉄鋼、化学、紙パなどの素材と電気機械である。これが一時的な動きか、生産回復、景気回復に変調が現われる兆かは、もう少し見なければ判断できない。要注目点である。
【2000年度は設備投資・輸出リード型で2%程の成長か】
新方式による実質GDPが本年7〜9月期まで発表になった(詳しくはこのホームページ「最新のコメント」欄の"新方式による7〜9月期のGDP統計をどう評価すべきか"(2000.12.4)参照)。個人消費、政府消費、民間設備投資がさかのぼって上方修正された結果、99年度の実質GDPも前年比+0.5%から+1.4%へ上方修正された。この高くなった99年度GDP平均との対比となるため、本年度の成長率のゲタも、+1.9%から+1.5%へ低下した。これに伴い、今後の推移について同じ仮定を置いても、本年度成長率予想はこれまでの2.0〜2.5%から2%程度へと下方修正しなければならない。しかし、新方式で数値が少し変わっても、経済動向のパターンそのものについては、従来の判断を変える必要はない。
【年度内の設備投資回復に不安はなく独走の形】
図表2を見ると明らかなように、実質GDPのプラス成長を何とか支えているのは、設備投資と純輸出の2項目のみである。公共投資は水準を下げ、むしろ成長の足を引張っている。また図表2には描いていないが、実質個人消費は7〜9月期現在前年比−1.1%、住宅投資は同−2.5%である。この傾向は現在も続いている。まず設備投資の一致指標である一般資本財出荷をみると、図表3に示したように、7〜9月に前年比+10.4%と大きく増加したあと、10月も+14.4%と著増している。これには一部機械輸出も含まれているが、設備投資が引続き伸び続けていると判断して間違いはない。また先行指標の機械受注(除、船舶・電力)も、同じく図表3に示したように、7〜9月は前年比+25.3%と飛躍的に伸びている。設備投資の回復に関する限り、少なくとも年度内にまったく不安はない。
【米国の成長鈍化を主因に日本の輸出は頭打ちへ】
もう一つの成長主導要因である輸出には、ここへ来てやや陰りが出てきた。新方式のGDP統計において、実質輸出の季節調整済み前期比は、本年1〜3月期+4.4%、4〜6月期+4.0%のあと、7〜9月期は横這いとなった。通関統計をみても、実質輸出の季節調整済み前月比は、8月に+8.7%と大きく伸びたあと、9月は−1.3%、10月は−2.3%と2ヵ月連続して減少した。輸出鈍化の最大の理由は、主要市場である米国経済の成長鈍化である。昨年10〜12月期に5.33%であった短期金利(TB3ヵ月物)は、本年に入って連銀の相次ぐ引締め措置でジリジリと上昇し、最近は6.40%に達している。このため、やや加熱気味であった米国経済にも成長鈍化の気配が現われており、年率換算成長率は本年1〜3月期+4.8%、4〜6月期+5.6%のあと、7〜9月期は+2.7%に鈍化した。このため、早ければ年内、遅くとも来年1〜3月中には、連銀が現在の「小幅引締め」から「中立」に政策を緩和するのではないかと見られる。
【個人消費、住宅投資、公共投資は弱いまま】
以上のように、設備投資と輸出という二つの成長主導要因のうちの一つ、輸出に変調が現われており、これがはじめに述べた生産上昇鈍化の原因かも知れない。もしそうだとすると、他方で個人消費、住宅投資、公共投資は弱いままなので、本年度下期から来年度にかけて、成長そのものが鈍化するかも知れない。本年4月以降の株価の弱さは、それを先取りしている可能性がある。 図表3に示したように、本年7〜9月期の消費水準指数は前年比−1.3%であり、僅かに乗用車新車登録台数だけが前年比プラスである。新設住宅着工戸数も、年率換算で本年1〜3月期126.8万戸、4〜6月期123.6万戸、7〜9月期120.1万戸のあと、10月は116.4万戸とジリ貧である。公共工事請負額も、前年比で4〜6月−12.6%、7〜9月期−11.7%、10月−18.6%と低迷したままである。
【景気回復の好循環が途切れたままエンジンが止まる危険性】
この緩やかな景気回復は、設備投資と輸出に主導されてきたが、これに伴なう製造業の収益回復は、一部は設備投資に使われているものの、多くは借入金返済や不良債権の償却・不良資産の損切りという後向きの目的に使われている。、雇用拡大や賃金引上げ、ひいては個人消費回復という前向きの好循環は未だ生み出されていない。この好循環が始動しないうちに、二つの主導要因のうちの一つ、輸出が止まると、今後の景気回復は危うくなってくる。明年経済は極めて不安な状態であり、株価もそれを反映している。