2000年11月版
‐ 7〜9月期は設備投資が余程大きく伸びない限り再びマイナス成長か ‐
【鉱工業生産は10〜12月期も上昇持続の見込み】
9月の鉱工業生産の実績は前月比−3.4%と大きく減少したが、それでも7〜9月期平均の前期比は+1.6%の増加となった。また10月と11月の生産予測指数は、前月比で夫々+3.4%、+0.5%と増加し、12月が11月と同水準であったと仮定した場合の10〜12月期平均は、前期比+2.5%と大きく上昇する見通しである。
図表1を見ても明らかなように、生産は8月に急増し9月に反動減となっているものの、10月と11月の予測指数を含む大勢観察としては、年率6〜7%程度の上昇傾向を続けている。
この傾向は、曜日構成を調整できるX-12ARIMAでより正確に季節調整してみても同じで、7〜9月期が前期比+1.2%と増加したあと、同じ仮定で試算した10〜12月期の前期比は+1.9%の上昇持続となる。
【7〜9月期の実質GDPでは設備投資が大幅な伸びとなる可能性】
7〜9月期の鉱工業生産の増加を支えているのは、設備投資と輸出の伸びを反映した一般資本財の活況である。7〜9月期の一般資本財出荷は前期比+5.2%の大幅増加となった。これに対して消費財の7〜9月期の出荷は前期比横這いにとどまっている。
7〜9月期の設備投資の正確な動きは、12月に発表される「法人企業統計季報」を待たなければ分からないが、この一般資本財出荷の大幅な伸びから判断すると、本年4〜6月期のGDP統計で一時的に減少した設備投資は、その反動も加わって10〜12月期は大きく伸びるのではないか。中小企業の設備投資動向を示唆するリースの取扱高を見ても、4〜6月期に前期比−3.0%と減少したあと、7〜9月は同+1.7%の増加となっている。
【純輸出も7〜9月期の実質GDPではプラスの可能性】
7〜9月期の一般資本財出荷の大幅な伸びには、機械輸出の伸びも影響していると思われる。GDP統計の純輸出は、4〜6月期には前期比横這いであったが、7〜9月期の関税統計では、実質輸出が前期比+2.0%、実質輸入が同+1.0%となっているので、これから判断すると、純輸出は再び増加するのではないかと見られる。
このような設備投資と純輸出の伸びが実質GDPのプラス成長を支えている姿は、図表2のグラフによって確認できる。
問題はこのパターンが今後いつ迄も続くのかどうかである。
設備投資の先行指標である機械受注統計はまだ8月までしか出ていないが、民需(除く船舶・電力)でみると8月の前年同月比は実に+45.8%の大幅な伸びとなっている。この傾向で行くと、4〜6月期に前年同期比+20.2%増となったあと、7〜9月期には同+30%程度の伸びになりそうである(以上図表3参照)。因みに7〜8月の平均は4〜6月平均よりも既に10.7% も高い。
機械受注の動向から判断する限り、設備投資は少なくとも本年度末までは、着実な増勢を辿るであろう。
【輸出の先行きに目先の陰りは見られない】
次に輸出の見通しはどうであろうか。
円相場は日本経済の回復テンポが緩やかで、次の利上げや株価上昇の展望が開けていない現状から判断すると、目先き大きく円高に振れう可能性は薄い。従って、円相場の面から輸出に陰りが生じる懸念は今のところ殆どない。
海外経済の動向をみると、米国は相次ぐ利上げの効果もあって、さすがに成長は鈍化の兆を見せている。しかし設備投資と個人消費が底固い動きを示していることから見て、急激な景気後退が起きる可能性は低い。いまのところ、緩やかに安定成長経路に軟着陸し、インフレと不況の発生を未然に防ぐシナリオに乗っているように見える。
次に欧州では、独、仏、伊を中心に景気は拡大しており、欧州中央銀行はインフレを未然に防ぐため10月5日に政策金利を引上げた。
最後にアジアでは、中国の成長が加速し、反面韓国の成長は減速しているが、全体としてみれば景気の拡大が続いている。
以上のように、海外の輸出環境には目先急激な変化が生じる懸念はない。従って、円相場の動向と併せて判断すると、日本の輸出には幸いにしていまのところ陰りは見られない。
【7〜9月期の個人消費は減少した模様】
以上のように、日本の経済成長が設備投資と純輸出に支えられる姿は暫らく続きそうであるが、その反面で個人消費と住宅投資は弱く、公共投資は冴えない。
まず個人消費であるが、7〜9月期の全世帯消費水準は前年比−1.3%(図表3参照)、前期比−2.8%と減少した。乗用車新車登録台数も7〜9月期は前期比−1.4%の減少である。勤労者家計統計によると、この消費減少は可処分所得の減少と消費性向の低下の両面から起こっている。所得と消費マインドの双方とも冴えないということである。
その背景には、賃金・雇用情勢の立直りが引続きみられないことが指摘できる。9月の完全失業率は4.7%と前月比上昇した(図表3参照)。所定外労働時間は引続き前年を上回っているが(図表3参照)、常用雇用は25ヵ月連続して前年を下回っている。企業の雇用姿勢は引続き慎重である。7〜9月期の名目賃金は前年比+0.4%と僅かなプラスとなっているが、プラスの幅は4〜6月期の+1.1%よりも縮小した。
【7〜9月期の実質GDPはマイナス成長か】
個人所得の環境が引続き不冴のため、住宅投資も減少している。7〜9月期の新設住宅着工戸数は、図表3の通り、前年比−2.6%とマイナス幅を拡大した。これを前期比でみると−2.8%の減少である。
公共投資は4〜6月期に急増したが、公共工事請負額が4〜6月期に前年比−12.6%、7〜9月期に同−11.7%(図表3参照)と低水準を這っていることから判断すると、7〜9月期には反動減となるのではないか。
以上のGDP項目の動向から判断すると、12月に発表される7〜9月期の実質GDPは、設備投資と純輸出の増加がかなり大きくならない限り、個人消費、住宅投資、公共投資に足を引張られて、マイナス成長となる可能性があるのではないか。