2000年10月版

‐ 本年度中の景気回復持続を示唆する8月調査「日銀短観」 ‐

【生産、出荷はバブル景気末期のピークを抜いた】
8月の鉱工業生産と出荷の実績は、共にバブル景気末期のピークを抜いた。生産の予測指数によれば、9月はマイナス、10月はプラスとなっているが、9月が予測指数通りと仮定した場合の7〜9月期の平均は、前期比+1.8%、その7〜9月期平均に対して10月の予測指数は+1.1%となっている。生産は、バブル景気末期のピークを抜いて上昇を続けている(以上、図表1参照)。
この傾向は、X12ARIMAで正確に季節調整しても同じで、7〜9月期は+1.4%、10月の7〜9月期平均比は+0.9%である。
IT関連の電気機械と精密機械を中心に鉱工業生産が年率7%程度で伸び、景気全体を支えている構図が続いている。


【本年度の売上高見通しは上方修正、利益率は景気後退前のピークを抜く見込み】

9月調査の「日銀短観」によると、全規模全産業の本年度売上見通しは、3ヵ月前の6月調査に比べ、上期も下期も上方修正された。すなわち、前年同期比でみて、上期は0.3%ポイント上方修正されて+2.6%、下期は0.7%ポイント上方修正されて+3.1%である。売上げの伸びは下期に加速する形となっており、日銀短観から見る限り、年度内の景気に不安はない。
この結果、本年度の売上高経常利益率は、製造業においては大企業、中堅企業、中小企業のいすれの規模においても、景気後退前のピークを記録した96年度の水準を上回る。また非製造業では、本年度の大企業の売上高経常利益率が96年度の水準は勿論のこと、バブル景気中のピーク(88年度)をも上回ると予想されている。もっとも、中堅企業では景気後退前のピーク(96年度)を上回るにとどまり、また中小企業では過去のピークに至らない。
企業収益は、業種別、企業規模別の格差を伴ないながら、2年連続で回復している。


【雇用調整と賃金抑制で企業収益の回復が早まっている】

このような回復過程の中で、企業は依然として雇用調整を進めている。9月調査の日銀短観によると、全規模全産業でみて、雇用人員判断DIは「過剰超」幅が11%ポイントとなっており、本年6月現在の雇用者数は前年比−0.7%と減り続けている。
労働省の毎月勤労統計をみても、常用雇用指数は最新の8月時点で前年比−0.7%である。
企業は雇用調整と賃金抑制を続けながら、生産と売上げの回復を図っている。それが資本分配率の上昇を伴なう企業収益の急回復を可能にしているのである。


【製造業を中心に本年度の設備投資計画は上方修正中】

このような企業経営の戦略が、景気の動きに二つの特色を生み出している。一つは、企業収益の回復に伴なう設備投資の立直りであり、もう一つは雇用・賃金の不振に伴なう個人消費の停滞である。
9月調査の日銀短観によると、全規模全産業の本年度設備投資計画は、3ヶ月前の6月調査に比べて1.5%ポイント上方修正され、前年比+1.5%となった。とくに大企業製造業の計画は、前年比+13.8%の大幅増加である。また中堅企業と中小企業の製造業の計画は、3ヶ月前に比べて、夫々5.2%ポイントと7.1%ポイントの大幅上方修正となっている。
同じ日銀短観で、全規模全産業の製造業の生産設備判断DIをみると、14%ポイントの「過剰超」となっていることから判断すると、この設備投資回復は一般的な能力増強投資ではない。収益回復に伴なう更新投資、IT革命に伴なう技術革新投資、およびIT関係の能力増強投資とみられる。


【7〜9月期の設備投資は再び大きく伸びる見通し】

設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)をみても、図表2に示したように、本年4〜6月期平均は前年比+20.2%の飛躍的伸びとなっている。その反動で7月は少し減少したが、8月は再び大きく増加して前年比+45.8%の驚異的な伸びとなった。この結果、7、8月平均の4〜6月平均比は+10.7の大幅増加となっている。
このような機械受注統計の動きから判断すると、本年度の設備投資計画は更に上方修正されることとなろう。
足許の動きをみると、図表3に示したように、4〜6月期の設備投資は前期比マイナスとなったが、これは一時的な動きとみられる。設備投資と密接な関係にある一般資本財出荷をみると、1〜3月期に前期比+7.5%と大幅に伸びた反動で、4〜6月期は同−1.9%とGDP統計の設備投資と同じように減少した。しかし7月と8月の平均水準は、4〜6月平均比+4.9%と大きく伸びている。
7〜9月期の設備投資は再び増加基調に戻り、GDPの成長を支える形となろう。


【7〜9月期の個人消費は振るわない】

このような設備投資の増加とは反対に、個人消費は引続き停滞気味である。 図表2に示したように、全世帯の消費水準は、4〜6月期に前年比−0.3%となったあと、7月は同−1.6%、8月は同−3.2%とマイナス幅を拡大している。また全国百貨店・スーパーの売上高も、4〜6月に前年比−5.0%と落込んだあと、7月は同−5.0%、8月は同−6.3%と低迷している。
このような百貨店・スーパーの売上高の低迷は、流通革新の中で取り残された構造不況の側面もある。しかし、乗用車新車登録台数も、7〜9月期は前期比−1.4%、前年比+0.6%と振るわない。
7〜9月期の個人消費はマイナスとなる懸念があり、この場合は成長率を大きく下に引張るかも知れない。横這い、あるいは小幅のマイナス成長もありうる。


【住宅投資、公共投資、純輸出は弱含みの動き】

個人消費が振るわないのと同様に、住宅投資の基調も弱い。新設住宅着工戸数は、4〜6月平均で年率123.6万戸(前期比−0.8%)となったあと、7〜8月の平均は同119.2万戸(4〜6月比−3.6%)と一段と低迷している。
他方公共投資は、図表3に示されているように、4〜6月期に不自然な増加を示したが、図表2の公共工事請負額が4〜6月(前年比−12.6%)に続いて7月(同−16.7%)と8月(同−7.1%)にも低迷していることから判断すると、7〜9月期には反動減となるかも知れない。
また純輸出は、8月までの通関統計などからみて、7〜9月期は横這い圏内の動きと思われる。
以上を統括すると、7〜9月期に間違いなく増加するのは設備投資だけであり、他の需要項目の動きがこれを相殺すると、成長率は頭打ちとなる恐れもある。