2000年9月版

‐ 民間主導の年率2%台の回復 ‐

【民間の本年度成長見通しは2%台に上方修正】
4〜6月期の実質GDPは、1ヵ月前にこのホームページの「月例景気見通し」(2000年8月版)で予想した通り、プラス成長(1.0%、年率4.2%)となった。内容も予測通りで、これまで回復を支えていた民間設備投資と純輸出がマイナスになったものの、個人消費がプラスとなって全体がプラス成長になっている。但し、公共投資については、横這いか若干の増加に転じると予測していたが、3四半期連続減少のあとだけに、かなり大幅な反動増加(+13.6%)となった。以上の動きは図表1を参照されたい。
4〜6月期の実質GDPの水準は、99年度の平均に対して、早くも+1.9%の増加となっている。2000年度政府見通しの+1.0%は異常に低いことが今や明らかである。民間の調査機関の見通しは一斉に2%台に上方修正されており、平均は2.2%程度である。中には3%の見通しもある。私はかねてより2.0〜2.5%の見通しを述べていたので、ここで修正する積りはない。
政府・自民党は、成長見通しの上方修正に伴なう税収見積もりの増加分を、本年度補正予算の財源に使おうと目論んでいる。


【鉱工業生産は4〜6月期、7〜9月期と年率7%程度で上昇】

7月の鉱工業生産は前月比−0.7%となったが、図表2に見られるように水準としてはかなり高く4〜6月期平均比で+0.7%である。8月と9月の生産が予測指数通りになると仮定すると、7〜9月期は前期比+2.1%と5四半期連続の増加となり、しかも上昇率は本年に入って加速している(1〜3月期+0.8%、4〜6月期+1.7%、7〜9月期+2.1%)。
もっとも、これには曜日構成が響いているようで、直近までのデータを含むX-12ARIMAで季節調整すると、4〜6月期が+1.9%、7〜9月期が+1.6%と必ずしも加速していない。
しかし、いずれにしても鉱工業生産は、4〜6月期に続いて7〜9月期も、年率7%あるいはそれを超えるスピードで上昇している。


【民間設備投資の減少は一時的】

4〜6月期には一時的に減少したものの、回復のリード役は引続き民間設備投資である。資本財(除輸送機械)の出荷は、4〜6月期に前期比−1.9%の減少となったものの、7月の水準は4〜6月平均比+1.0%となっており、7〜9月期は再び増加基調に戻りそうである。また建築着工床面積(非居住用)の民間分は、7月に前年比+31.4%と4〜6月平均の+20.5%より伸びを高めている。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比−2.3%と微減したあと、7〜9月期は再び+10.7%の増加見通しとなっている。
民間設備投資の回復基調に異変が起きるとすれば、明年経済の見通し難が響いてくる本年度下期以降であろう。しかし、企業収益の回復が確りしている間は、設備投資が減少に転じる可能性は低いのではないか。


【個人消費回復の足取りは緩やか】

GDPベースの個人消費は、1〜3月期に続き4〜6月期も前期比プラスとなった。勤労者世帯の家計調査をみると、1〜3月期は所得増加に支えられたものの、4〜6月期は消費性向の上昇によっており、まだ持続性のある消費回復とは見られない。1〜3月期の所得増加はボーナス減少の影響がないためであり、逆に4〜6月期の所得には6月のボーナス減少が響いている。
消費増加の内容は、両四半期とも、乗用車(図表3の新車登録台数参照)、パソコン、携帯電話などの伸びによるものである。
7〜9月期は、ボーナス減少の影響が少ない反面、生産増加で時間外収入(図表3の所定外労働時間参照)が伸び続けるので、所得面は若干改善されるかもしれない。また異常な暑さでエアコンや飲料の売れ行きが伸びたようだ。しかし、それによって消費全体が上向いたかどうかは、8月の統計を見なければ分からない。


【住宅投資と公共投資は弱含みの横這い】

GDPベースの住宅投資は4〜6月期に前期比−0.8%の微減となったが、新設住宅着工戸数(季節調整済み)をみると、4〜6月期年率123.6万戸(前期比−2.5%)のあと、7月は116.4万戸と更に下がっている。住宅投資は頭を打ち、今後は弱含みの推移であろう。
公共投資は、3四半期連続して減少したあと、4〜6月期は+13.6%の大幅反動増加となった(図表1参照)。99年度の第2次補正予算と本年度当初予算の執行が重なったためであるが、このような大幅な減少や急激な増加は必ずしも実勢を現していない。統計作成手法や季節調整技術の改善が望まれる。
実勢はもっと緩やかな減少傾向の中での小幅な反動増加であろう。7月の公共工事請負額(図表3参照)が再び落込んでいることからみても、公共投資は緩やかな減少傾向が続くのではないか。


【民間主導の緩やかな回復に対する補正予算の影響に注目】

7月の統計しか出ていない段階で断定は出来ないが、設備投資と個人消費に支えられた民間主導の緩やかな回復は7〜9月期も続いている可能性が高い。
10〜12月期以降については、9月21日(木)から始まる会期72日間の臨時国会において、どのような内容と規模の補正予算が成立するかによって、心理的な影響を受け始めるであろう。とくに、株価への影響と、その企業家心理、消費者心理への影響が注目される。