2000年6・7月版

‐ 製造業リード型の景気回復が明確化 ‐

【製造業は順調に拡大、7〜9月の生産は加速する気配】
総選挙で多忙を極め、6月版を書く暇がなく、7月版との合併号となったことをお許し頂きたい。
鉱工業生産・出荷は、図表1に示した通り順調な回復を続けており、製造業リード型の景気回復が一段とはっきりしてきた。四半期ベースでみると、生産は本年1〜3月期の前期比+0.8%に続き、4〜6月期(6月は予測指数)も前期比+1.4%と加速している。また7月の生産予測指数は、4〜6月平均比で既に+1.4%の水準にあり、7〜9月の生産上昇は更に加速するかもしれない。
この傾向は、曜日構成も調節できるX-12ARIMAで季節調整した場合でも同じで、本年1〜3月+0.9%、4〜6月+1.9%、7月の4〜6月平均比+1.2%となる。
6月調査「日銀短観」における製造業(大・中堅・中小合計)の売上高の前年同期比も、99年上期−2.2%、下期+3.6%、と上昇に転じたあと、2000年度の計画は上期+3.7%、下期+3.4%と順調な伸びを続けると見られている。


【雇用面に明確な改善の動き、ただし賃金回復は小幅】

このような製造業の順調な拡大は、雇用面と企業収益面にはっきりと好影響を及ぼし始めた。
まず雇用面では、5月の完全失業者が308万人と3月のピーク332万人に比して24万人減り、完全失業率も3月の4.92%をピークに、5月は4.56%まで低下した(図表2参照)。反面、就業者数、あるいは雇用者数の前月比は、4月、5月と増加し、雇用者数の前年比は、5月に+0.6%と3年ぶりのプラスに転じた。
また新規求人数の増加傾向も次第に強まっており、5月は前月比+7.7%、前年比+29.8%と急増した。この急増は一時的かもしれないが、増加傾向が加速していることは間違いない。
ただ、このような雇用改善の賃金に対する影響は遅々としている。名目賃金の前年比は、98〜99年とマイナスを続けたあと、本年1〜3月に+0.7%とようやくプラスに転じ、4月は+0.6%、5月も+0.7%となっているが、その上昇幅は極めて小幅である。これはベースアップやボーナスが抑えられているためで、賃金上昇は主として時間外手当の増加(図表2の所定外労働時間参照)によるものである。


【製造業の収益は大企業中心に急回復】

製造業の順調な拡大は、企業収益面にもはっきりとした好影響を及ぼし始めた。
6月調査の「日銀短観」によると、大企業製造業の業況判断DIの「よい超」幅が、3月調査に比べて12%ポイントも改善し、+3%ポイントとプラスに転じた。また2000年度の売上高経常利益率は4.26%と、2年連続プラス成長となった95年度、96年度の水準を抜き、80年代中頃ないしはバブル景気末期の91年頃の水準にまで回復した(詳しくはこのホームページの「What's New!」欄"ゼロ金利政策の修正を迫る6月調査「日銀短観」"を参照されたい)。
これは、無駄を排除した経営リストラの努力が、業容の拡大によって急速に花を開き始めたものである。


【キャッシュ・フローの増加が設備投資回復の原動力】

企業はなおリストラ努力を続けており、雇用や設備の拡大には基本的に慎重であるが、それでも業容の拡大に応じてある程度の雇用増加と設備投資の動きが出てくる。
とくに設備投資の場合は、一方にIT革命に伴なう新規投資やビンティジ長期化に伴なう更新投資のニーズがあり、他方に収益の急回復に伴なうキャッシュ・フローの急増があるので、自己資金の範囲内の慎重な投資態度であっても、設備投資の急回復は起こり得る。
GDPベースの設備投資は、図表3に示したように、昨年10〜12月期と本年1〜3月期に2四半期連続して増加したが、図表2に示したように、4月と5月と一般資本財出荷の前年比が、本年1〜3月の+7.6%に続き、+8.4%、+7.5%と伸び続けているので、4〜6月期も3期連続の増加となるのではないか。


【2000年度は設備投資リード型の成長になる】

更に設備投資の先行指標をみると、機械受注(民需、除く船舶・電力)の前年比は本年1〜3月に+11.7%と大きく伸びたあと、4月は+13.4%と更に伸びを高めている。
また6月調査「日銀短観」によると、2000年度の設備投資計画は、全規模全産業(除金融機関)で−0.1%、金融機関で+19.4%となっている。全規模全産業が−0.1%となっているのは、この時点で計画がまだ固まっていない中堅企業と中小企業の非製造業が夫々−3.0%、−9.4%となっているためである。非製造業でも大企業は+0.7%、また製造業は大企業+11.3%、中堅企業+4.6%、中小企業−1.7%、全規模合計+8.0%となっている。製造業のうち中小企業は小幅のマイナスとなっているが、3ヵ月前の3月調査に比べれば3ヵ月間で13.9%も上方修正しているので、最終的にはプラスの計画に変わることは間違いない。
2000年度の日本経済は、この設備投資がリードする成長となるであろう。


【個人消費と住宅投資は冴えない動き】

しかし、GDP全体をみると、成長をリードしそうな需要項目は、この設備投資を除くと、外需に多少期待できる程度である(図表3参照)。
雇用と賃金に回復の気配が見られるものの、それが消費回復に結び付く動きはまだ見られない。図表2に示したように、家計統計の消費水準は5月に再び前年を下回っている。4月と5月の百貨店・スーパーの売上高も、前年を下回ったままである。
わずかに乗用車新車登録台数の前年比が、本年1〜3月に+2.5%となったあと、4月+1.4%、5月+3.6%と小幅の伸びを示している(図表2参照)。個人消費は4〜6月のGDPでも横這い圏内の動きではないであろうか。
同様に住宅投資についても、4月と5月の新設住宅着工戸数(前年比は図表2参照)の平均が122.2万戸と1〜3月平均比−3.7%となっているので、4〜6月は弱いのではないか。


【公共投資は2年連続マイナス成長の頃の水準まで下がった】

最後に公共投資は、昨年下期以来、3四半期連続して急落しており、図表3に見られるように2年連続マイナス成長となった98年のボトムの水準にまで下がってしまった。これは地方自治体の単独事業が財政難から著しく低下しているためである。
図表2に示したように、公共工事請負額は本年1〜3月に前月比マイナス幅を縮小し、5月にはプラスに転じた。これをX-12ARIMAで季節調整してみると、本年1〜3月は前期比+23.8%、4月は前月比−53.4%、5月は同+39.2%となる。振れは大きいが、前年度第2次補正予算と本年度当初予算の執行に伴い、急激な落込みは止まってきたのかもしれない。
しかし成長をリードする力がないことは言うまでもない。


【ゲタの+0.8%を活かし、2%成長に届くか】

このようにみてくると、2000年度の成長をリードする要因は設備投資しかない。あとは外需が若干のプラス、個人消費がゼロ圏内のプラス、住宅投資と公共投資がマイナスということになるのではないか。
ただ、2000年度は既に+0.8%のゲタをはいている。従って政府見通しの+1.0%成長よりも高く、設備投資の伸びがかなり高ければ2%前後に届くのではないか。