2000年5月版

‐ 官民需、内外需揃って立直り傾向 ‐

【生産上昇のテンポは少しづつ加速している】
1〜3月期の経済指標がかなり出揃ってきたが、需要関連指標は予想通り昨年10〜12月期より強い。例外的に弱い指標は失業率とマネーサプライ増加率であるが、これは必ずしも需要の弱さを示すものではない。
まず鉱工業生産と出荷は、X-11で季節調整した通産省公表指数では、前期比で10〜12月期が夫々+0.8%と+1.4%、これに対し1〜3月期は夫々+2.8%と+3.0%と大きく加速している。しかしその反動で、6月が5月の予測指数と同水準と仮定した4〜6月期は+0.3%と鈍化する(以上図表1参照)。これらの動きは、2月がうるう月であった事に左右されているうえ、曜日構成も調整されていないので実勢を現していない。
実勢をみるためにX-12ARIMAで季節調整すると、生産の前期比は10〜12月期+1.3%、1〜3月期+1.7%、4〜6月期+2.7%と期を追うごとに増勢が加速している。生産指数でみる限り、景気回復の腰は少しづつ確りしてきているようだ。


【設備投資と輸出が生産回復をリード】

このような生産上昇をリードしている品目は、電気機械と一般機械であり、それが鉄鋼、非鉄、プラスチック、紙パ、窯業・土石などの素材製品の回復にも波及している。
その背後には、設備投資と輸出の伸びがあるようだ。
設備投資の動向と一部輸出の動向を示す一般資本財の出荷は、本年1〜3月期に前期比+10.7%という大幅な伸びを示し、前年同期比でも+7.6%に達している。
また設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、季節調整済み前期比で昨年10〜12月に+9.9%と大きく伸びたあと、本年1月と2月の平均は10〜12月平均比+8.9%と伸び続けている。その結果、前年同期比は図表2に示されているように、昨年12月は+14.7%、本年1月は+21.2%、2月は+12.8%にも達している。


【本年度の製造業と金融機関の設備投資計画はプラス】

機械受注は設備投資に対して6〜9ヶ月先行するので、設備投資が年末まで伸び続けるのはほぼ確実であろう。
現に3月調査の「日銀短観」によると(このホームページの「What's New!」欄、"日銀短観(3月調査)は2000年度の回復を鮮明に裏付けた"2000.4.3参照)製造業と金融機関の設備投資計画は、99年度に夫々−14.7%、−18.1%という二桁の落込みから2000年度はプラスに転じ、夫々+2.3%、+34.0%の増加となる計画である。非製造業は2000年度も−2.3%の計画であるが、景気回復期の2月調査に示される当初計画が、後になって次々と上方修正されるのが常なので、製造業のプラス幅は更に拡大し、非製造業はプラスに転じるのではないか。
なお、経企庁の「法人企業動向調査」(3月)においても、2000年度の設備投資計画は製造業+2.6%、非製造業−8.3%となっている。


【純輸出も1〜3月期はプラス寄与】

設備投資と並んで生産上昇をリードしているのは輸出である。
通関統計によると、実質輸出の季節調整済み前期比は、昨年10〜12月に+2.5%と伸びたあと、本年1〜3月は+4.9%と伸びを高めた。反面実質輸入は、同じく季節調整済み前期比でみて、10〜12月+5.2%のあと、1〜3月は+0.4%と鈍化した。
この結果貿易の実質収支尻は、昨年10〜12月期の赤字から本年1〜3月期は黒字に転じた。従って、GDP統計で昨年10〜12月期に前期比−18.1%となり、成長率を0.5%も下へ引張った純輸出は、本年1〜3月期には増加に転じ、成長率に対してプラスの寄与をしたとみられる。


【個人消費と住宅投資も1〜3月はやや持ち直し】

以上の設備投資と輸出の回復と並んで、個人消費と住宅投資も1〜3月はやや上向いたようだ。
図表2に示したように、消費水準の前年比マイナス幅は、昨年10〜12月期の−3.6%に比べれば1月は−2.8%に縮小し、2月はうるう月の関係もあって+1.0%と半年振りのプラスになった。同じく乗用車新車登録台数も、10〜12月の−3.9%から1〜3月は+2.5%とプラスに戻った。しかし全国の百貨店・スーパーの売上高は、本年1〜3月も相変わらず−3.3%である。百貨店・スーパーは構造不況業種というべきであろう。
他方、1〜2月平均の新設住宅着工戸数は年率128.2万戸と10〜12月平均比+9.8%の増加となっているので、1〜3月期の住宅投資は再びプラスとなる可能性が高い。
このような個人消費と住宅投資の立直りの一つの背景は、生産増加に伴なう所定外労働時間の増加(図表2参照)によって、個人所得もやや増加していることである。


【1〜3月期は一転して大幅なプラス成長か】

最後に公共投資についても、1〜3月の公共工事請負額は、図表2に示したように、昨年10〜12月の前年比−12.7%から1〜3月は同−7.7%とマイナス幅を縮小した。これは99年度の公共事業予備費と第2次補正予算の執行によるものである。1〜3月期は公共投資もプラスに転じるかも知れない。
以上のように、1〜3月期のGDP需要項目は、官民需、内外需共、一斉にプラスとなる可能性があるので、かなり大幅なプラス成長になるのではないか。99年度成長率の政府改定見通し0.6%達成の可能性は高い。そうなると、図表3にみるように、実質GDPは昨年10〜12月期の大幅なマイナスから本年1〜3月の大幅プラスに転じることとなり、鉱工業生産の超勢的上昇と垂離して、乱降下を示すことになる。GDP統計とその季節調整指数の信憑性に対する疑問が出てくるのではないか。


【失業率の高水準とマネーサプライの鈍化】

そうした中にあって、失業率は3月も2月と並んで戦後最高の4.9%を続けた(図表2参照)。就業者は少しづつ増えているが、それを上回る新卒者が未就職のまま労働市場に入ってきたからである。ここでも季節調整指数の信憑性が疑われる。
マネーサプライの増加率も、図表2に示したように急速に低下している。しかしこれは景気が弱いからではなく、金融機関の貸出態度がやや好転して、銀行貸出のアベイラビリティに心配がなくなり、また企業収益が好転してキャッシュ・フローが改善しているため、予備的動機の通貨保有が圧縮され始めたためであろう。
因みに3月調査の「日銀短観」によると、金融機関の「貸出態度判断DI」は、大企業と中堅企業において「緩い超」となっており、中小企業の「厳しい超」幅も縮小している。