2000年1月版

‐ 設備投資は下げ止まったが個人消費は冴えない ‐

【鉱工業生産はこの1年間に年率8%で回復した】
鉱工業生産の回復基調は、5四半期目に入った2000年1〜3月期も続いている。曜日構成も調整できるX-12ARIMAで季節調整すると、鉱工業生産の前期比は、99年1〜3月+0.1%、4〜6月+0.5%、7〜9月+2.4%、10〜12月(12月は予測指数)+0.8%と4四半期連続で上昇したあと、本年1月の予測指数は昨年10〜12月平均比+3.1%と更に上昇を続けているからだ。
本年1月の予測指数の水準は前年同月比+8.0%であり、この1年間の生産上昇テンポがかなり早かったことが分かる。その結果、図表1に明らかなように、本年1月の予測指数は、既に97年10〜12月期の水準まで回復している。


【失業者は減少し、臨時雇いと時間外労働が増加している】

このような鉱工業生産の回復は、当然雇用、賃金の回復にも反映されてきた。
完全失業者(季節調整済み)は、99年7月の330万人、失業率は4.9%をピークに低下に転じ、最新の11月の計数では、失業者数307万人、失業率4.5%となっている(図表2)。
他方雇用面をみると、99年11月の常用雇用指数は前年比−0.2%とまだ水面上に出ていないが、パートタイムの雇用者は前年比+3.0%、時間外労働時間は前年比+3.1%と増加している。リストラに励む企業は、常用雇用の増加を極力抑え、臨時雇いと時間外労働で行ける所まで行こうとしているようだ。しかしこれには当然限界があるので、本年上期中には常用雇用も前年比増加に転じるであろう。


【本年の賃金は時間外とボーナスの増加に頼る緩やかな上昇】

このような雇用の改善は、現在のところ、まだ賃金の改善に結び付かず、10月、11月の個人消費も冴えない動きをしている(図表2の消費水準と新車登録台数参照)。
とくに11月と12月はボーナス月であるため、特別給与の前年比減少が給与水準全体の足を引張っている。99年11月の所定外給与は時間外労働時間の増加を反映して、前年比+5.7%となっているが、特別給与のマイナスが−24.2%大きく、給与水準全体(前年比−1.0%)をプラスに転じる力はないようだ。
もっとも、この冬に1年分の賞与を決める冬夏型ボーナスだけみると、99年度に3年振りの増益に転じた企業業績を反映して増加した。従って、本年の夏以降は、ボーナスが前年を上回り、特別給与が給与水準全体の足を引張ることはなくなる。
本年の春闘ベア率は、企業がリストラを続け、労働組合も賃上げより雇用確保を優先しているので、昨年同様、ほぼゼロとなるであろう。従って本年の賃金上昇は、時間外手当とボーナスの増加に頼る極めて緩やかなものにとどまるであろう。しかしその事は、労働分配率の低下に伴なう企業収益回復に通じるので、一概に悲観的材料とは言えない。


【設備投資は99年下期に下げ止まった】

企業収益の改善は、設備投資回復を支える重要な要因である。
99年7〜9月期のGDP統計における設備投資は、大蔵省調べの「法人企業統計季報」が発表される前に、企画庁調べ「法人企業動向調査」を基に推計されたため、前期比マイナスとなっている(図表3)。しかし、その後発表された「法人企業統計季報」によると、設備投資の前年比マイナス幅は、4〜6月期の−13.4%から7〜9月期は−9.6%と縮小しているので、季節調整済み前期比でみると7〜9月期の設備投資は増加したとみられる。
現に7〜9月期の一般資本財(輸送機械を除く資本財)の出荷は、季節調整済みの前期比で+5.4%と増加した。また最新の計数である11月の一般資本財出荷は、7〜9月期平均を更に3.4%も上回っており、前年同月比でも+7.2%に達している。
一般資本財出荷には輸出も含まれているので、これをもって設備投資が増加し始めた証拠とはいえない。しかし、前述の「法人企業統計季報」の結果と合わせて考えると、図表3に示されている99年7〜9月期の設備投資は過小推計である。恐らく今年の3月に10〜12月期のGDPが発表される際、7〜9月期の設備投資、従ってGDP全体も上方修正されるであろう。


【2000年度上期から設備投資が回復する可能性】

設備投資の先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)は、図表2に示すように前年比マイナス幅を急速に縮めている。前年比で10月+5.5%、11月−1.8%という動きから判断すると、10〜12月期平均では前年比でプラスに転じる可能性が高い。
季節調整すると、99年7〜9月期には前期比+3.1%となったあと、10月と11月の平均は、7〜9月期に比して更に4.7%高い水準にある。従って、7〜9月期に続き10〜12月期も増加しそうである。6〜9ヵ月の先行指標である機械受注が2四半期続けて増加しそうだということから判断すると、設備投資は2000年度上期から緩やかに上昇に転じる可能性が出てきた。
従って、今後景気回復の過程では、設備投資が個人消費よりも先に回復してくるのではないか。これは企業収益の回復と労働分配率の低下という動きと軌を一つにする動きである。これは株価にもよい影響を与えることになろう。


【99年度下期の成長率は横這い圏内の動きか】

2000年度の回復が始まるまでの99年10月〜12月期と2000年1〜3月期の経済は、あまり力強いものにはならないであろう。鉱工業生産は年率8%で上昇しているが、これはGDP全体の4分の1である。残りの4分の3を占めるサービス部門と関係の深い個人消費は、前述のように冴えない動きをしている。住宅投資は、図表2の新設住宅着工にも現われているように、伸びが鈍っている。99年度第2次補正予算と2000年度当初予算の影響で再び公共投資が増え始めるのは、2000年4〜6月期が中心となるのではないか。
従って、当面の景気を支えるのは、アジア向けを中心とする輸出の伸長と、設備投資下げ止まりの二つであろう。全体としては、個人消費の動向次第でプラス成長かマイナス成長が決まることになり、概ね横這い圏内の成長率となろう。