1999年12月版

‐ 来年度は民間主導型回復へバトン・タッチができる ‐

【7〜9月期は鉱工業生産の増加が加速したのにGDPはマイナス成長】
本年7〜9月期は、鉱工業生産(図表1参照)が前期比+3.9%と上昇が加速したにも拘らず、実質GDP(図表2参照)は前期比−1.0%のマイナス成長と発表された。
鉱工業生産は実質国民総生産の25%程度に過ぎないので、鉱工業生産が増えても実質GDPが減ることはありうる。とくに7〜9月期の場合、鉱工業生産を増やした主因は輸出の増加であり、実質GDPの中でも輸出は大きく増えている。ただ、個人消費、住宅投資、公共投資など、流通、サービス、建設など非鉱工業との関係が深い需要項目が減って、実質GDPはマイナス成長となったのだ。
しかし、7〜9月期の実質GDPのマイナス成長の大きさは、推計の誤りで過大になっている。それは増加した筈の設備投資が、GDP統計では前期比−2.1%の減少と推計されていることだ(図表2参照)。これが、鉱工業生産と実質GDPの乖離をもたらしたもう一つの要因である。


【7〜9月期の設備投資のマイナスは間違っている】

このホームページの「What's New」欄 "11年7〜9月期GDPの意味すること"(99.12.6)にも書いたように、7〜9月期のGDP速報値は、年末の予算編成の前提となる来年度の政府経済見通しを決める関係から、他の四半期のGDP速報よりも早く発表される。そのため、通常であれば大蔵省調べの「法人企業統計」の発表を待って推計する設備投資を、その発表前に入手できる経企庁調べの「法人企業動向調査」を使って推計する。
ところがこの「法人企業動向調査」は、本年1〜3月から設備投資が回復し始めた中小企業非製造業(GDPベースの設備投資全体の4割)を含んでいない。そのため「法人企業統計」の設備投資よりも弱く出るのである。従って、これを使って推計した7〜9月期GDPの設備投資は過小推計になっており、実勢は−2.1%という程弱くはない。
7〜9月期の設備投資は、来年3月に本年10〜12月期のGDPが発表される際に、大きく上方修正され、前期比プラスに変わるのではないか。


【7〜9月期の設備投資はプラスに修正される】

その根拠は二つある。
第1に、一般資本財(輸送機械を除く資本財)の出荷の前期比は、本年1〜3月期に+3.6%、4〜6月期に−6.6%、7〜9月期に+5.4%となっている。GDPベースの設備投資の前期比も、本年1〜3月期に+2.3%、4〜6月期に−2.1%と同じような動きをしているが、7〜9月期になると−2.1%と突然一般資本財出荷とは正反対の動きをしている。これは疑わしい。一般資本財出荷の7〜9月期+5.4%のかなりの部分が輸出に向かったとしても、国内向けが4〜6月期と同じようにマイナスになったとは信じ難い。
第2に、決定的な証拠がある。12月10日(金)になってようやく発表された大蔵省調べの7〜9月期「法人企業統計」によると、全産業の設備投資は、前年同期比でみて、4〜6月期の−13.4%から7〜9月期は−9.6%とマイナス幅を縮小した。ということは、7〜9月期は前期比でみると恐らく増加しているということである。その主因は、1〜3月期から増加に転じた中小企業非製造業の設備投資が引続き増加しているからだ。前年同期比でみると、10年10〜12月期の−42.2%をボトムに、11年1〜3月期は−7.7%、4〜6月期は+3.1%、7〜9月期は+6.0%と一貫して上昇している。
以上の二つの根拠から判断すると、7〜9月期の設備投資は明年3月の改訂時に上方修正されて前期比プラスとなり、つれてGDP全体のマイナス成長の幅も、マイナス1.0%よりは縮小するであろう。


【設備投資は本年度中に下げ止まり来年度から回復する】

この推測が正しいとすれば、GDPベースの設備投資は、本年に入って一高一低を繰り返しており、水準としてはほとんど下げ止まっていることになる。勿論この先10〜12月期に再び下がることはありうる。しかしその場合でも明年1〜3月期には再び上がるかもしれない。そして11年度平均としては、マイナスのゲタをはいているので、前年比5%程度のマイナスになるのではないか。
それでは、設備投資はこのあと上向いてくるのか。
先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)をみると、図表3に示したように、答えはイエスである。前年比マイナス幅を縮めてきた機械受注(民需、除く船舶・電力)は、遂に10月に至り、前年比+5.5%と水面上に顔を出した。実に19ヶ月ぶりの増加に転じたのである。
月月の動きをみても、前月比でみて、8月+2.7%、9月+4.6%、10月+1.9%と3ヵ月連続して増加している。このため、7〜9月期の平均は、前期比+3.1%であった。10〜12月期も前期比プラスとなれば、設備投資の先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)は回復過程に入ったと見てよい。その場合には、設備投資は12年度の始めから緩やかな回復過程に入るのではないか。
ビンテイジが長くなったことに伴なう更新投資と、ストック調整完了に伴なう能力増強投資が、低金利と投資促進税制に刺激されて出てくると見るべきであろう。IT革命という技術革新投資がそれに重なってくる。そうなれば、設備投資と総需要の好循環に伴なう民需主導型成長の一つのエンジンが始動する。


【雇用・賃金は回復し始めたが消費回復につながっていない】

もう一つのエンジンは、生産上昇→雇用・賃金回復→消費回復→生産上昇、という好循環である。
その気配は、ようやく雇用統計に出てきた。完全失業者数は、7月の330万人(失業率4.9%)をピークに、10月まで3ヵ月連続して減少し、313万人(失業率4.6%)に減った。他方雇用者数は、7〜9月期に前期比+0.4%と増加に転じ、10月も前月比+0.3%と4ヵ月連続増加を記録した。
名目賃金は、残業手当の増加によって、前年比マイナス幅を縮小している。前年比は4〜6月−1.5%、7〜9月−0.9%、10月−0.1%である。この先、冬のボーナスは厳しいので、再び前年比マイナス幅を拡大するかも知れないが、明年に入れば再び縮小過程に入るのではないか。11年度下期の増益は確実なので、来年の夏のボーナスからは、情勢が変わってくるだろう。
以上のような雇用・賃金の動向は、これ迄のところ消費の回復につながってはいない。もっとも、9月の異常な暑さで秋物が売れずに消費が落込んだ反動で、10月の全世帯消費支出(実質)は、前月比+0.7%と回復した。


【本年度は1.0%、来年度は2.0〜2.5%の成長と予測】

政策効果の息切れから、公共投資と住宅投資は冴えない。もっとも住宅投資は、7〜9月の着工増加(図表3参照)や住宅金融公庫の募集状況から判断して、10〜12月期には再び増加するのではないか。
他方公共投資は、この程国会で成立した6.8兆円の第2次補正予算の効果が出る明年1〜3月期以降は、やや立直りを見せるであろう。
この間、純輸出はただ一つの確実なプラス成長要因として、今後も伸びを続けるであろう。7〜9月期に続いて10月も、輸出が輸入を上回っている。
10月までの指標では確定的なことは言えないが、7〜9月期のGDPは上方修正され、10〜12月期と1〜3月期も横這い圏内の動きを続けるとみられるので、11年度の成長率は、1年前に私が『週刊東洋経済』(98年12月26日号)誌上で予測した通り、1%程度になるのではないかと推計される。
2000年度については、設備投資が緩やかな回復過程に入って3年振りの成長支持要因に転じ、企業業績も2年目の増益を迎えてボーナスも底入れするので、消費回復も確実になってこよう。純輸出の増加も成長を支える。従って、公共投資や住宅投資の成長牽引力は無くなっても、公的需要から民間需要へバトン・タッチが行なわれ、2000年度の成長率は2.0〜2.5%程度には達するのではないか。