1999年11月版

‐ 生産回復がいつ所得=支出回復に結び付くか ‐

【本年中の4四半期連続の生産上昇は確実】
9月の鉱工業生産指数が発表され、99年7〜9月は前期比+3.8%と上昇が大きく加速した。その後も、10月の予測指数は−0.9%と低下するものの、11月には+3.8%と再び大きく上昇する。その結果、11月の予測指数の前年同月比は+7.7%に達し、この1年間の生産回復がかなりのスピードであることを示している(以上、図表1参照)。
曜日構成も調整できるX-12ARIMAで季節調整すると、この生産回復傾向は一層明瞭になる。鉱工業生産指数は、97年第2四半期から98年第4四半期まで6四半期連続で前期比減少したあと、99年1〜3月期は前期比+0.6%、4〜6月期は同+0.5%、7〜9月期は同+2.5%と3四半期連続増加し、更に10月の予測指数は前月比+0.7%、11月は同+1.2%と2ヵ月連続で上昇する。12月が仮に11月比横這いと控え目にみても、10〜12月期は前期比+1.9%と4四半期目の増加となる。
いまや99年中の4四半期連続の生産回復傾向は確実になった。


【景気動向指数の一致系列は11月まで5ヵ月連続で50%を上回る可能性】

経済企画庁が発表する景気動向指数は、採用指数の3ヶ月前比がプラスかマイナスかで判定し、一致系列のプラスの指標が50%以上という状態が3ヵ月以上続くと、景気回復の有力な根拠となる。
既にこの一致系列は7,8,9月と3ヵ月連続で50%を上回っているが、図表1で確認できるように、10月と11月の生産予測指数は3ヵ月前の7月と8月を上回っている。
景気動向指数の一致系列には、生産関連の指数が多く採用されているので、10月と11月の生産が予測指数の通りであれば、景気動向指数の一致系列は、更に2ヵ月続けて50%を上回り、7月以降5ヵ月連続の50%超となる。これによって、誰の目から見ても景気回復は確実になるであろう。


【8月、9月と失業率は低下、雇用者は増加】

生産を中心とするこのような景気回復傾向は、遅行指標である雇用関連指標にもようやく響いてきた。6月と7月に戦後最高の4.9%に達していた完全失業率は、8月に4.7%、9月に4.6%と2ヵ月連続で低下した(図表2参照)。これは完全失業者数が7月の330万人をピークに、8月は317万人(23万人減)、9月は315万人(2万人減)と減少したためである。
反面雇用者数は、前期比で99年1〜3月期は−0.7%、4〜6月期は−0.4%と減少を続けていたが、7〜9月期は+0.4%と増加に転じた。


【生産回復の影響が所得改善に結び付く兆】

生産回復の影響は賃金面にも認められる。名目賃金(事業所規模30人以上)の前年比は、8月+0.3%、9月+1.1%(実質では+1.3%)と前年を上回り始めた。これは、生産回復を反映し、所定外労働に対する賃金が、前年比で8月+2.5%、9月+2.4%とかなり大きく上昇していることが響いている。(所定外労働時間は図表2参照)。
家計統計では、9月の勤労者家計の可処分所得が、前月比+3.4%の大幅増加となった。これは夏期ボーナスの減少で6〜8月の可処分所得が低下していたことの反動であるが、同時に時間外手当の増加など、賃金指数に現われている生産回復の好影響がここにも出ているようだ。


【所得回復は消費回復に結び付いていない】

以上のように、生産回復の影響が遅行指標である雇用や賃金にも出始める兆しがあるが、それが消費回復に結び付く段階ではない。
とくに9月は、異常に気温が高く、秋物の出足が遅れたため、7月前年比+1.1%、8月同+0.1%となっていた全世帯消費水準の前年比は、9月に−3.3%と大きく低下した(図表2参照)。可処分所得が増加した勤労者家計においても、消費性向が8月の72.3%から9月は69.0%に低下したため、消費支出は前月比−1.4%となっている。
この9月の影響が大きいため、7〜9月期全体でも勤労者家計の消費支出は前年比−0.6%となた。また全世帯消費水準の前年比も4〜6月期の+0.8%から7〜9月期は−0.6%に下がってしまった。従って、7〜9月期の実質GDPにも、この消費の弱さは影響を与えるかもしれない。


【住宅投資は順調、公共投資は頭打ち、一般資本財出荷は増加】

7〜9月期の他のGDP項目を推計すると、7〜9月期の新設住宅着工は前年比+6.9%と大きく伸びており(図表2参照)、住宅投資は4〜6月期のように前期比+16.1%という大幅な伸びは無理としても、引続き増加するであろう。
他方7〜9月期の公共事業請負額は、4〜6月期同様に前年比−8.2%となっている。出来高ベースではまだ前年を上回っているものの、7〜9月期の公共投資が4〜6月期に続いて頭打ちとなるのは避け難い(図表3参照)。
この間、民間設備投資は、一般資本財出荷の前年比が4〜6月期の−8.6%から7〜9月期の−2.4%とマイナス幅を縮小し、前期比では7〜9月期に+5.2%と増加したので、1〜3月期同様、再び小幅のプラスになるかも知れない(図表3参照)。もっともこの出荷増は、東南アジア向けの輸出によるものであれば、設備投資は増えず、純輸出が大きく伸びることになる。
7〜9月のGDP統計は年末の政府見通し発表との関係から発表を急ぐため、「法人企業統計」の発表を待たず、「法人企業動向調査」を基に設備投資を推計するので、やや正確性を欠く。当初の速報では中小企業の投資動向をとらえられずにマイナスと発表され、第1次改訂でプラスに変わる可能性もある。


【実質実効レートからみて円高が景気回復を崩す心配はない】

最後に7〜9月期の純輸出は増加しそうである。通関統計をみると、7〜9月の実質輸出は前期比+7.9%、実質輸入は同3.9%となっており、輸出の伸びが輸入の伸びを4%ポイント上回っているからだ。円相場は9月末頃から1ドル=105円前後で比較的落着いている。これを日銀調べの実質実効為替レートでみると(図表4参照)、10年近く前の1ドル=130〜140円時代と同じ水準である。これは一つには、日本の国内物価が下落気味であったため、内外インフレ率格差で名目レートを調整した実質レートは、名目レートでみる程円高になっていないということだ。もう一つの理由は、1997年の通貨危機発生以来、ドル・ペッグをやめたアジア諸国の通貨が、円と共変的に動いているため、実効レートは対米レートでみている程には円高になっていないためである。
図表4の実質実効レートから判断する限り、最近の円高によって純輸出が減少し、景気回復が崩れる心配はまったく無い。



【7〜9月期は横這いないしは小幅のマイナス成長か】

以上を総括すると、7〜9月の実質GDPにおいては、住宅投資と純輸出が成長に対しプラスに寄与するのでないか。他方、公共投資は若干のマイナス寄与であろう。
よく分からないのが個人消費と設備投資である。この二つがマイナスであれば、7〜9月期は小幅のマイナス成長となろう。7〜9月の生産(前期比+3.8%)、出荷(同+3.9%)をもたらした需要の伸びが、GDP統計の個人消費や設備投資に適切に反映されるならば、個人消費は横這い、設備投資は小幅増加となり、全体で小幅のプラス成長になる筈だ。
しかし、7〜9月の家計統計や法人企業動向調査がそのままGDP統計に反映されると、7〜9期はマイナス成長の可能性がある。