1999年10月版

‐ 雇用と設備投資に下げ止まりの兆 ‐

【年初来の生産回復は10〜12月期も続く勢い】
8月の鉱工業生産は、前月比+4.6%と予想通りの大幅上昇となった(図表1参照)。9月と10月の予測指数は、−1.3%、−0.7%とさすがに反動減を示しているが、水準としてはかなり高い。その結果、9月が予測指数通りであるとすれば、7〜9月の平均は前期比+3.8%の大幅増加となり、10月の予測指数はこの7〜9月平均とほぼ同水準である。
また、曜日構成を調整できるX-12ARIMAで生産指数を季節調整すると、97年7〜9月期から98年10〜12期まで6四半期連続でマイナスとなった後、99年1〜3月期は+0.7%、4〜6月期は+0.4%、7〜9月期(9月は予測指数)は+2.3%と3四半期連続で増加し、10月の予測指数は前月比+0.8%、7〜9月平均比+0.9%と上昇を続ける。
生産の回復は7〜9月に加速したあと、10〜12月も続きそうである。
最近の生産増加に最も大きく寄与している業種は、電気機械(パソコン、半導体、液晶等)、一般機械、輸送機械(乗用車等)であり、素材業種では鉄鋼、化学である。


【雇用情勢にようやく底入れの兆】

3四半期連続の生産上昇は、ようやく雇用情勢にも響いてきた。8月の完全失業者数は317万人と前月に比し13万人減少した。このため完全失業率は、4.7%と戦後最悪を続けていた6〜7月の4.9%から0.2%ポイント低下した(図表2参照)。
他方雇用者数は、前期比で99年1〜3月−0.7%、4〜6月−0.4%と減少を続けていたが、前月比で7月+0.1%、8月+1.3%と増加に転じた。増加はパートタイマーで特に顕著であるが、常用雇用指数の前月比も、7月に横這いとなったあと、8月は+0.2%と増加した。
また所定外労働時間は、前月比で7月+1.4%、8月+1.0%と増加し、8月の前年比マイナス幅は−1.1まで縮小した(図表2参照)。このため、名目賃金指数の前年比マイナス幅も、4〜6月の−1.5%から8月は−1.1%へ縮小している。


【消費支出と住宅投資は横這い傾向】

しかし、このような雇用情勢の変化の兆は、まだ個人所得全体の動向には反映されていない。7〜8月の勤労者家計の可処分所得は4〜6月平均比で−1.5%と減少しており、消費支出は消費性向の上昇により、かろうじて横這いとなっている。また7〜8月の全世帯の消費支出は、4〜6月平均に比し−0.3%と減少している。支出内容では、新車登録台数が8月は前年比+6.8%(図表2参照)と大きく伸びたことにも窺えるように、乗用車やパソコンなどの売れ行きが伸びている。
他方、新設住宅着工をみると、8月は127.7万戸(年率)と4〜6月の平均水準(126.2万戸)まで回復し、前年比は+8.4となった(図表2参照)。頭打ち傾向は否めないものの、直ちに減少するとは見られない。
以上のように、雇用情勢の底入れが個人所得の回復を通じて個人消費や住宅投資に響いて来るには、まだ時間がかかるようだ。景気の自律的回復の気配はまだ見えない。


【設備投資は7〜9月期に再びプラスか】

自律的回復のメカニズムが働くもう一つの分野は設備投資である。
GDP統計の設備投資(実質)は、図表3に示したように、97年10〜12月期から98年10〜12月期まで、5四半期連続して低下したあと、本年1〜3月期に+3.1%と増加し、4〜6月期に再び−4.0%と減少した。
このGDP統計の設備投資と比較的似通った動きをする指標が、一般資本財出荷である。この指標も、98年10〜12月期まで一貫して減少したあと、本年1〜3月期は+3.6%、4〜6月−6.6%となった。しかし7〜8月の水準は、4〜6月平均に比して再び+4.0と上昇している。
この傾向から判断すると、7〜9月期の設備投資は再びプラスとなるかも知れない。その結果、本年度は一高一低を繰り返しながら、設備投資が次第に下げ止まってくる可能性がある。


【設備投資回復は電気電子機械と中小企業非製造業から】

本年度設備投資の計画調査によれば、9月の日銀短観でも主要企業で−5.1%である。政府見通しや民間の経済見通しでも、本年度の設備投資は−5〜−7%程度の減少見通しである。
しかし、そのことと、本年中に一高一低のうちに次第に下げ止まるのではないかという見方とは、実は整合的なのである。何故なら、本年4〜6月の設備投資の水準は、昨年度の平均水準に比べて、既に4.9%低下している。従って7〜9月期以降は、一高一低を繰り返しながら弱含み横這いで推移しても、本年度の平均は前年比−5〜−7となる。
業種別にみると、9月調査の日銀短観で大幅に上方修正され、本年度の設備投資計画がプラスに転じたのは電気機械である。これは半導体、液晶、パソコンなどの情報機器やその部品の需給好転によるものである。
またGDP統計の設備投資の基礎となる法人企業統計によると、中小企業非製造業(設備投資全体の4割)の設備投資の前期比は本年1〜3月、4〜6月と2四半期連続して増加し、前年比でも4〜6月は+3.1%とプラスに転じた。これは、パソコンなどの情報機器の更新投資と流通などのフランチャイズ・ビジネスの発展によるものと見られる。


【本年度増益見通しは円高でも変わっていない】

以上のように、自律的な好循環に基づく民需主導型の回復はまだ始まっていないが、それにつながりそうな芽は出ている。
また心理的にも、消費者や企業のコンフィデンスは少しづつ回復している。消費者コンフィデンスの回復は、前述した消費性向の上昇に出ている。
企業心理の好転は、9月短観の「業況判断DI」が3四半期連続で好転したことにも現われている。その背後には、円高にも拘らず、大企業製造業の本年度増益見通しが6月調査に比して上方修正され、+21.6%となっている事実がある。
これは、東アジア諸国の経済立直りに伴なう市況回復に乗じて、日本企業は輸出価格を引上げ、円高にも拘らず円建ての売上高減少を回避しているからである。9月短観では、大企業製造業の99年度下期輸出見通しが、前年同期比+4.2%となっていることにも、それが窺われる。


【本年下期の成長率は横這い圏内の動きか】

7〜9月期と10〜12月期は、公共投資と住宅投資が頭を打ち、設備投資も一高一低のうちに弱含み横這いで推移すると見られる。
他方、消費コンフィデンスは回復しているが、個人所得には生産回復の影響がまだ出ていない。唯一プラスの要因は、東アジアへの輸出を中心とする外需の回復である。
従って、本年下期の成長率は、4〜6月期同様、プラスにせよマイナスにせよ小幅で、横這い圏内の動きとなるのではないか。それでも4〜6月の実質GDPは、既に1.2%のゲタをはいているので、本歴年あるいは本年度の成長率は1%台になるであろう。