1999年9月版
‐ 生産の回復は加速傾向 ‐
【生産回復は7〜9月に加速する】
7月の鉱工業生産指数(速報)は、予測指数のプラス0.5%とは逆に、マイナス0.6%となった。しかし、8月の修正予測指数が当初予測の+3.7%から+4.7%に上方修正され、9月の当初予測が+0.2%となったので、8、9月が予想通りであれば、7〜9月は前期比+4.4%、前年同期比+3.2%となる。
これは、生産が回復傾向に転じた99年第1四半期以降最大の増加率であり、また前年同期を上回るのも8四半期振りである(図表1参照)。
なお、曜日構成も調整できるX-12ARIMAで季節調整しても、生産の前期比は1〜3月+0.7%、4〜6月+0.5%、7〜9月+2.6%となり、7〜9月の加速が確認できる。
8、9月の大幅な生産増加をリードする業種は、素材では鉄鋼、金属、加工では一般機械、電気機械、自動車である。共通の背景は、在庫率が景気上昇期の95年平均(100.0)、96年平均(101.0)と殆ど同じ101.3まで低下したこと(図表1)からも分かるように、在庫調整の完了である。加えて、最終需要の着実な回復も寄与している。
【消費マインドの好転で個人消費は回復傾向】
このところ最終需要の回復は、個人消費と純輸出において顕著である。
家計調査によれば、4〜6月の全世帯消費水準は、前期比+1.7%、前年同期比+0.8%と回復し、7月も前月比は−0.1%となったが、、前年同月比+1.1%と回復を続けている。
このような消費の回復傾向は、消費マインドの好転を映した消費性向の上昇によるものであり、可処分所得は増えていない。因みに所得動向の分かる勤労者世帯をみると、可処分所得は4〜6月に前期比−1.9%、7月に前月比−0.6%となっているが、消費支出は逆に4〜6月+1.9%、7月+1.8%となっている。
【ボーナス減少と失業増加で個人所得は低迷】
可処分所得が増えないのは、6、7月に支給された夏期ボーナスが前年を下回っていること(特別給与の前年比は、6月−7.2%、7月−4.1%)、および失業者が増え続けていること(完全失業者数は6〜7月に16万人増加)による。
しかし、生産の回復傾向を反映して、所定外(時間外)労働時間が増えているため、所定外給与は増えている。所定外労働時間の前年比マイナス幅は、98年度平均の−7.8%に比較すると、99年4〜6月は−2.7%、7月は−2.0%に縮んだ(図表2)。このため、賃金統計における所定外給与は、99年4〜6月に前年比+0.2%とプラスに転じ、7月は+2.7%とプラス幅を拡大した。
しかし、雇用や賃金のうちベアとボーナスは景気に対する遅行指標であり、とくに現在は企業のリストラ努力が続いているので、個人所得が全体として回復に転じるには、まだ時間がかかるであろう。
【東アジアの経済回復で純輸出は増加】
もう一つ、回復が目立つ最終需要項目は、純輸出である。図表3に明らかなように、純輸出は98年10〜12月、99年1〜3月と2四半期連続して減少し、成長の足を引張った。
しかし、通関統計によれば、4〜6月の前期比は実質輸出が0.0%、実質輸入が−0.5%となり、輸出が輸入を上回ったので実質純輸出は僅かに増加した。更に7月の前年比は、実質輸出が+2.7%、実質輸入が+0.5%と輸出超過は拡大し、実質純輸出は増加を続けている。
これは、韓国、台湾、タイ、マレーシアなどが97年以来の経済危機を克服し、急速に経済を拡大し始めたためである(このホームページのEnglish versionの「What's New」欄"Asian Economic Crisis are being over"(Jun-30,.99)参照)
今後は円相場の動向にもよるが、円高の影響が貿易動向に響くまでには時間もかかるので、当分は純輸出の成長寄与は続くであろう。
【住宅投資と公共投資は伸び率鈍化】
以上の個人消費と純輸出に対し、これまで成長に大きく寄与してきた住宅投資と公共投資は、ここへ来て伸びが鈍っている。
新設住宅着工戸数は、季節調整済みでみて、1〜3月に年率121.7万戸(前年比+7.8%)、4〜6月に同126.2万戸(同+3.7%)と伸びが鈍化していたが、7月は115.3万戸に減少した。1ヵ月の動向ではまだ分からないし、着工統計はGDP統計中の住宅投資に先行しているので、直ちに住宅投資がマイナスに転じると判断することは出来ない。しかし頭打ち傾向は明らかである。
また公共投資も、公共工事請負額が前年比マイナスに転じており(図表2)、頭打ち傾向は明らかである。契約ベースの公共工事はGDPベースの公共投資の先行指標であるから、4〜6月以降の公共投資の伸び率鈍化は避け難い。
【設備投資は製造業を中心に下落】
最後に設備投資は、製造業を中心に落込みを続けている。
一般資本財出荷は、4〜6月に前期比−6.6%と大きく減少した。7月は、4〜6月比+2.5%となったが、1ヵ月の動向では回復の兆しとはいえない。また先行指標の機械受注(除船舶、電力)も、4〜6月は前期比−6.9%と落込んだ。もっとも7〜9月の見通しは、前期比+4.0%となっており、先行指標にはぼつぼつ下げ止まりの気配が見える。
このような設備投資下げ止まりの気配は、一般資本財出荷と機械受注の前年比を見ると、かなりはっきりしている。図表2に示したように、二つの指標の前年比マイナス幅は、本年1〜3月までの2桁のマイナス・パーセントから、5月以降は1桁のマイナス・パーセントとなってきた。
しかし、実際に下げ止まるのは早くても本年度下期であろう。それまでは、成長に対するマイナス要因であり、前述した個人消費などのプラス要因とのバランスで、GDP全体の成長率が決まる。
間もなく発表になる4〜6月の成長率は、両者のバランス上、プラスにせよマイナスにせよ、小幅ではないか。