1999年8月版

‐ 鉱工業生産は当面回復軌道に入った ‐

【6月以降の生産は次々と上方修正】
鉱工業生産が当面回復傾向を鮮明にしてきた。6月の生産(速報)の前月比は、前月発表の修正予測(+1.7%)を上回り、予測対象業種で+2.0%、全体で+3.0%と大きく伸びた。同時に発表された7月の修正予測は、前月発表された当初予測(−0.3%)に対し、+0.5%と上方修正された。更に8月の当初予測は、+3.7%の大幅増加と発表された。
この結果、7、8月が予測指数通りとなり、9月が8月と同水準であれば、7〜9月は前期比+4.7%の大幅増加となる。前年比も+3.5%と2年ぶりに水面上に顔を出す(プラスに転じる)。
このような生産上昇の加速傾向は、図表1によってはっきりと確認できる(このホームページの「What's New」欄、"回復は始ったが景気刺激型予算は続ける"(99.7.29)参照)。


【曜日構成を調整すると生産は本年第1四半期から回復傾向】

通産省が用いている季節調整指数(X-11)は、かねて指摘している通り、曜日構成を調整していないので、毎年日曜日の数が変わることによる稼働日数の変化が生産に及ぼす影響が残り、季節調整後の指数であってもガタガタと不規則変動を繰り返す。
そこで曜日構成の変化による影響も調整できるX-12ARIMAを用いて季節調整してみると、年初来の生産回復傾向が一層はっきりする。
まず97年以降の生産減少傾向を四半期ベースで見ると、通産省の季節調整済み指数では、97年第1四半期の106.9をピークとして、前期比マイナスが6回、プラスが3回という調子でガタガタしながら本年(99年)第2四半期の96.5まで低下している。この指数では、生産はまだ低下傾向にあるということになる。
これに対して、X-12ARIMAで季節調整すると、生産は97年第2四半期の107.8をピークに、98年第4四半期の96.5まで6四半期連続して低下し、その後本年(99年)第1四半期には+0.8%、第2四半期には+0.5%と上昇に転じ、98.7に達している。更に7、8月の予測指数は+0.8%、+2.2%と夫々上昇を続け、8月の指数は101.4に達する。
年明け後の生産は、明らかに回復傾向に転じているのである。


【設備投資の減少傾向は続いている】

生産指数には非製造業の動向が反映されていないので、非製造業を含む実質GDPも又年明け後回復に転じたと断じることは、現時点では出来ない。1〜3月期の年率7.9%の高成長の後(図表2参照)、4〜6月期が反動減となるのか、高水準のまま更に増加を続けるのか、まだ判断するのには十分な計数が出揃っていないからだ。
1〜3月期に比し反動減となりそうな要因は設備投資である。本年度の設備投資計画は、製造業の大幅落込みを中心に、3年連続のマイナスとなっている。先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)も、図表3に示した通り、減少幅は縮小しているものの、まだ前年比マイナスである。従って1〜3月の設備投資増加は一時的であり、4〜6月には再びマイナスに戻るのではないか。一般資本財の出荷も、1〜3月に前期比+3.6%となったあと、4〜6月には同−6.6%の反動減となっている。


【公共投資の伸びは大きく鈍化か】

もう一つ、4〜6月の成長率反動減の原因となりそうなのは、公共投資である。公共投資(実質)の前期比は、昨年10〜12月期に+10.6%、本年1〜3月期に+10.3%と2期連続して大幅に増加し、1〜3月期の前年同期比は+22.8%にも達している。
本年度予算の公共事業費は支払ベースで+10%となっているので、前年比20%超の増加率は維持できない。事実、公共工事の請負額をみると(図表3参照)、4〜6月平均で前年比−8.1%となった。
GDP統計の公共投資は工事ベースであり、前渡金段階の請負額統計に対しては遅行するので、4〜6月期のGDP上の公共投資が直ちに前年比マイナスに転じることはない。しかし季節調整済み前期比でみれば、伸び率は大きく鈍化し、成長率に対するプラス寄与度が大きく減少するので、その限りでは成長率反動減の一因となるであろう。


【個人消費と住宅投資は増勢持続か】

以上の反動減要因に対し、成長を維持する要因としては、個人消費と住宅投資がある。
4〜6月の百貨店・スーパーの売上高は、前年比+0.2%と、3四半期振りのプラスに転じた(図表3参照)。乗用車新車登録台数の前年比も、1〜3月の+4.3%に続き、4〜6月も+4.4%である(図表3参照)。6月の全世帯家計消費支出はまだ発表になっていないが、4〜6月期のGDPベースの個人消費は、1〜3月期に続いてプラスを維持しているのではないか。
また1〜3月期に3四半期振りのプラスに転じた住宅投資は、4〜6月期も増勢を維持しているとみられる。4〜6月の新設住宅着工戸数は年率126.2万戸(前期比+3.7%)と、1〜3月(同+7.8%)に続いて増加した。首都圏新築マンションの販売も、4〜6月は前期比+6.3%、契約率80.2%と好調を続けている。


【外需の成長寄与度は東アジア経済の回復でプラスへ】

4〜6月期の成長率を1〜3月期の成長率よりも更に高める要因が一つある。外需(純輸出)である。
GDP統計上の外需は、図表2に示したように、昨年10〜12月期、本年1〜3月期と2四半期連続してマイナスとなり、成長率の足を引張っていた。
しかし通関統計をみると、季節調整済み前期比で見て、4〜6月は実質輸出が−0.1%、実質輸入が−0.5%となり、実質貿易収支はやや好転している。これは東アジアの経済回復につれて、鉄鋼、合成樹脂、電気電子機器、精密機器などの輸出が立ち直っているためである。


【4〜6月の成長率は横這い圏内か】

以上を総括すると、4〜6月期の成長率は1〜3月期の+7.9%に比して大きく鈍化するものの、必ずしもマイナス成長になるとは限らない。6月の家計統計や4〜6月の法人企業統計の発表まで、もう少し結論を保留する必要がある。
しかし、4〜6月期の成長率はプラスにせよマイナスにせよ、小幅であろう。いわば横這い圏内の動きである。
問題は、鉱工業生産の動向から見ると、7〜9月期以降プラス成長が続く可能性があるということであろう。そうなると、99年度の平均成長率は既に0.9%のゲタをはいているので、1%台の平均成長率の可能性が出てくる。


【自律的回復には程遠い弱々しい回復】

しかしこれを支えているのは、@99年度公共事業費の10%増加、99年の9.4兆円減税、本年2月以降のゼロ金利政策などの政策効果、A図表1に示されているような在庫調整の進捗(6月の在庫率は103.2と96年平均101.0に接近)、B東アジアの経済危機克服と景気回復、などである。
民需主導型回復の主軸となるべき設備投資は、まだ減少している。遅行指標であるとはいえ、6月の完全失業率4.9%と戦後最悪の水準を更新している。
民需主導の自律的成長には程遠く、まだまだ政策の支えが必要な弱々しい回復である。図表3に示したように、広義マネーサプライの前年比は、2月の+3.4%をボトムに、6月は+4.3%まで上昇したが、こうした金融面からの支えも不可欠である。図表4に示したように、名目GDPの前年比がマネーサプライ増加率を大きく下回っている間は、ゼロ金利政策の修正は考えにくい。