1999年7月版

‐ 4〜6月がプラス成長かどうかの判断材料はまだ不足 ‐

【4〜6月の成長率がプラスかマイナスかが焦点】
1〜3月期に年率7.9%という大幅なプラス成長に転じたあと、日本経済は4〜6月期に反動減でマイナス成長に戻るのか、たとえ小幅でも更にプラス成長を続けるのかに、内外から大きな関心が集まっている。マイナス成長に戻れば、99歴年と99年度の+0.9%のゲタを吐き出すので、99歴年と99年度の平均成長率がプラス成長になるかどうかは分からなくなる。しかし僅かでもプラス成長となれば、1%台のプラス成長の可能性が高まってくる。
5月の鉱工業生産の速報は-0.7%(図表1参照)と予測(+1.2%)を裏切ってマイナスとなったため、6月の予測は+1.7%となっているものの、これを含む4〜6月平均は前期比-1.2%となる。1〜3月の+0.6%から再びマイナスに逆戻りである。曜日構成も調整できるX-12ARIMAで季節調整しても、1〜3月+0.6%の後、4〜6月は-0.4%となる。


【4月、5月の個人消費はプラスを維持】

しかし、4月、5月の需要動向は、必ずしも悲観的なものばかりではない。
まず消費は、1〜3月に3四半期振りに前期比プラスに転じたあとも、比較的確かりしている。家計調査の全世帯消費支出(実質)の前月比は、4月-0.7%のあと5月は+3.6%と大きく伸び、5月の前年比は+2.4%と水面上に大きく顔を出した。個別統計をみても(図表2参照)、全国百貨店・スーパーの売上高前年比は、1〜3月-5.3%のあと4月-4.8%、5月-0.1%とマイナス幅を急速に縮めている。新車登録台数(乗用車)も1〜3月+4.3%のあと、4〜6月も+4.4%と伸びを維持している。その背後には、所定外労働時間の前年比マイナス幅の縮小(1〜3月-5.7%、4月-4.0%、5月-2.1%)や消費者物価の下落から、4月と5月の実質賃金が僅か0.1%ではあるが前年比プラスに転じたという所得面の動きもある(図表2参照)。


【消費者と企業のマインドは徐々に改善】

また、景気の先行き感改善や日経平均株価の1万8千円回復などから、消費マインドもやや好転している。勤労者世帯の消費性向は、1〜3月69.4%のあと、4月71.5%、5月72.4%と回復しており、これが消費の伸びに寄与している。
マインドの好転は企業についても顕著に見られる。
6月調査の日銀短観によれば、業況、需給、売上・収益、設備・雇用、企業金融などあらゆる指標において、製造業・非製造業、大企業・中堅企業・中小企業の別を問わず、判断DIが改善している(詳しくはこのホームぺージの「What's New」欄、"景気刺激策の手を緩めてはならない − 日銀6月短観の語るもの(99.7.5)"参照)
また本年度の全規模全産業の売上高経常利益率は、ほぼ97年並みに戻ると予想されている。株価が97年の水準に回復してきていることと符合する。


【設備投資は製造業が大幅減少、非製造業は小幅増加】

しかし、収益予想や企業マインドの好転は、設備投資と雇用の抑制などリストラ効果を見込んでいる面があり、マクロ的にみるとこれらは景気にとってマイナスである。
通産省(産業構造審議会)の本年3月末時点の調査(1254社)によると、11年度の設備投資計画は前年比-1.7と3年連続のマイナスと予想されている。とくに製造業は-11.7%と落込み幅が大きい。これに対して非製造業は+4.5%(電力を除くと+7.1%)と3年振りの増加が見込まれている。
本年1〜3月の設備投資増加は、恐らく一時的であり、4〜6月には再びマイナスになる可能性が高い。しかし、今出ている二つの傾向には注目する必要がある。
一つは非製造業の設備投資は11年度計画でもプラスであり、本年1〜3月のプラス転換は決して一時的な偶然ではないことだ。
もう一つは、製造業の設備投資はリストラの本番で引続きマイナスと見られるが、そのマイナス幅は縮小していることだ。図表2に示したように、先行指標の機械受注(除船舶・電力)の前年比マイナス幅は、1〜3月-14.8%のあと、4月-14.5%、5月-7.5%(4〜5月平均11.1%)と縮んでいる。


【住宅投資は増勢持続、公共投資は頭打ち】

その他の需要項目をみると、住宅投資は1〜3月に続き4〜6月も増加すると見込まれる。
新設住宅着工戸数(図表2参照)は、前年比で1〜3月-6.6%のあと、4月+1.1%、5月-0.9%となった。4月と5月の平均着工戸数を年率換算すると124.0万戸で1〜3月平均(121.7万戸)比1.9%増加である。住宅取得促進減税、住宅公庫融資枠拡大、住宅ローン金利低下などの政策効果により、住宅投資は着実な伸びを続けている。
公共投資は、図表2の公共工事請負額が4月、5月と前年比マイナスに転じていることからも分かるように、発注ベースでは10年度第3次補正の発注がピークを過ぎ、端境期に入ったようだ。しかし、公共工事着工額の前年比をみると、1〜3月+21.5%のあと、4〜5月平均は+17.2%とまだ大きく伸びている。4〜6月の公共投資は、前期比でみると伸び率が大きく鈍化するとしても、なお高水準を維持するであろう。


【4〜6月の成長率を判断するにはまだ材料不足】

以上の結果、現在判明している諸指標から予測される4〜6月のGDP動向は、次のように要約できる。
まず、1〜3月の7.9%という高成長を支えた設備投資と公共投資(図表3参照)は、頭打ちないしはマイナスに転じ、成長の足を引張る可能性がある。
反面、個人消費と住宅投資は、1〜3月に続き4〜6月も増加を続け、プラス成長を支える可能性が高い。
その結果、プラス面とマイナス面のどちらが大きいかは、更に6月の指標が出揃ってこないと判断は難しい。今のところはプラス・マイナスどちらに振れても不思議はないが、いずれにせよ小幅であろう。
以上は内需であるが、GDPを予測するためには、もう一つ、外需を考えなければならない。図表3に見るように、外需は昨年10〜12月と本年1〜3月の成長の足を大きく引張った(成長率に対するマイナス寄与度は夫々-0.4%、-0.2%)。しかし通貨危機を脱した東アジア経済の急速な回復から(このホームページのEnglish Versionの「What's New欄」"Asian Economic Crises Are Being Over"(Jun-30,99)参照)、東アジア向けの日本の輸出契約が伸び始めている。このため4〜6月期には、外需は前期比横這い圏内の動きとなり、7〜9月期以降はプラスに転じ、成長率を支える可能性が出てきた。
以上を総括すると、4〜6月期の成長率はプラスかマイナスかきわどいところであり、6月の計数待ちである。