1999年6月版

‐ 99年度の平均成長率はプラス成長になる ‐

【1〜3月期は予想通りプラス成長に転換】
本年1〜3月期の実質GDPが、このホームページの「月例景気見通し」欄の4月版と5月版で予想した通り、6四半期振りのプラス成長となった。プラス成長に転じた理由も、この欄の4月版と5月版で予測した通りである。ただ、予想以上に個人消費と設備投資が強く出たため、前期比1.9%(年率7.9%)増という予想を上回る高成長になった(図表1参照)。
予想通りプラス成長に転じた理由は、主として三つある。
第1は、平成10年度第3次予算と11年度当初予算の歳出執行、および平成11年の9.3兆円減税の実施、の二つの効果が出始めたことである。具体的には、公共投資(実質)が昨年10〜12月期に続いて1〜3月期も前期比10%(成長率に対する寄与度は0.9%)伸び(図表1参照)、また住宅投資(同)も、住宅投資促進減税や住宅金融公庫の融資枠拡大・貸出金利低下を背景に、3四半期振りのプラスに転じたことである。


【中小企業・非製造業の買換投資急増】

第2は、設備投資(同)が6四半期振りのプラスとなったことである(図表1参照)。私は4月版や5月版の「月例景気見通し」で、各種の設備投資関連指標を引用し、1〜3月期には設備投資の落込みが小幅化すると予測していた。その結果、昨年7〜9月期や10〜12月期のように公共投資増加から生まれるプラスの成長寄与度が、設備投資減少から生まれるマイナスの成長寄与度で完全に相殺されることがなくなり、プラス成長転換の浮揚力が生まれると見ていた。
しかし実際は、落込みが小幅化するどころか、若干の増加となったのである。法人企業統計季報や各種の販売統計などから判断すると、主因は中小企業・非製造業のパソコン、コピー機などの買換需要が、信用保証協会の保証枠拡大に伴なう企業倒産件数の激減(前年比3〜4割減)に見られる企業金融の緩和によって、急増したためである。
大企業・製造業の設備投資は、相変らずかなり減少している。


【個人消費は軽乗用車、パソコンを中心にプラス】

第3は、個人消費(同)が4四半期振りに増加したことである。1〜3月も減少を続けた百貨店・スーパーの売上高(図表2参照)や家計統計の消費ばかりを見ている人にとっては、この個人消費のプラスは意外であったかも知れない。
しかし私は、4月版と5月版の「月例景気見通し」で、軽乗用車を中心とする乗用車販売の好調(図表2参照)から見て、1〜3月の個人消費は横這い圏内の動きではないかと予測していた。
それが実際には、パソコンなどの好調な売れ行きなども加味されて、前期比1.2%の増加と発表された。個人消費はGDPの6割を占めるので、その成長寄与度は0.7(年率2.9)%に達する。


【1〜3月に増加に転じた生産は4〜6月に上昇加速か】

このあと4〜6月期はどうなるのであろうか。私は前月(5月版の月例景気見通し)まで、4〜6月期には再び反動減でマイナス成長に戻ることもありうると見ていた。しかし現在までに判明した統計から判断すると、プラス成長が続く可能性の方が高くなってきたように思う。
まず、4月までの鉱工業生産の実績と、5月、6月の同予測指数から判断すると、生産の前期比は1〜3月の+0.6%に続き、4〜6月も+0.3%と増加を続ける(図表3参照)。
これは小幅の増加であるが、私が注目しているのは、曜日構成も調整できるX-12ARIMAを使って季節調整した結果である。
これによると、鉱工業生産は1〜3月の+0.6の後、4〜6月には+1.3%と回復が加速する。これは、素材産業を中心とする在庫調整完了の影響と、1〜3月期のプラス成長が示す最終需要立直りの影響が、生産計画に反映され始めたのではないだろうか。


【個人消費、住宅投資、公共投資は4〜6月期も増加か】

4〜6月の需要動向を示す統計はまだ限られているが、あまり悪い指標は出ていない。消費関連では、1年以上マイナスを続けていた実質賃金の前年比が、4月にはゼロとなった。これは生産回復を反映して、所定外労働時間が増えているためだ。百貨店・スーパーの売上高も、前年比マイナスの幅を縮小している(以上図表2参照)。
官公庁からの建設工事受注額の前年比は、50社ベースで4月は+58.8%(1〜3月は+26.2%)、中小470社ベースで4月は+21.2%(1〜3月は+11.3%)と一段と伸びが高まっている。
新設住宅着工戸数は、4月に前年比+1.1%(1〜3月は−6.6%)となり、2年間続いた前年比マイナス(97年度−15.6%、98年度−13.6%)が終り、遂に水面上に顔を出した(図表2参照)。
まだ1ヵ月の指標では最終判断は難しいが、以上のように、個人消費、公共投資、住宅投資には、4〜6月期に失速する気配は出ていない。


【設備投資は大企業製造業の悪化持続と中小企業非製造業の回復が綱引き】

問題は設備投資である。本年1〜3月期の法人企業統計季報によると、全産業の設備投資は前年比−10.5%と10〜12月期(−18.7%)に比してマイナス幅が大きく減少し、前期比では+3%の増加となった。しかし製造業だけをみると、設備投資は前年比−19.1%と10〜12月期(−15.9%)に比してマイナス幅が拡大している。
設備投資の先行指標をみても、1〜3月期の機械受注(民需、除船舶・電力)の前年比は−14.8%、4月は−14.5%と10〜12月期(−17.8%)より下落幅は縮小しているが、まだかなり大幅なマイナスである。
今後、大企業のリストラが本格化するにつれて、大企業の設備投資と雇用の減少が続くことは避けられない。その影響と、企業金融緩和に伴なう中小企業、とくに非製造業の買換投資回復の影響のどちらが強いかによって、今後の設備投資動向が決まるのではないだろうか。


【悪循環型の「発散」とストック調整型の「均衡回復力」のどちらが強いか】

更に一般的に言えば、需要減→生産減→雇用・設備投資減→需要減、という「悪循環型」の「発散」が強いか、需要減→生産減→在庫調整完了→生産増→需要増、あるいは需要減→生産減→設備投資減→設備の耐用年数の限界と技術的陳腐化→買換投資の台頭→需要増、という「ストック調整型」の「自律的均衡回復力」が強いか、という事になる。特に後者は、信用保証枠の拡大や日本銀行のゼロ金利政策などによる企業金融の緩和によって促進される。最近ベース・マネーの前年比増加率が高まっており、それを反映して広義マネーサプライの前年比増加率も、2月の3.4%を底に、5月は4.1%まで高まっている(図表2参照)。
結局、公共投資と住宅投資の増加という政策効果が途切れない7〜9月期ないし10〜12月期までの間に、民間市場経済の自律的均衡回復力が加速して来るかどうかに、今後の景気見通しが懸っている。
加速すればよいが、そうでなければ補正予算による追加的需要喚起策を、兆円単位で実施しなければならない。
ただ、いずれにせよ99年度の平均成長率は0.9%のゲタをはいたので、プラス成長は間違いなくなった。小渕総理は運が強い。
しかし油断は禁物である。市場経済の自律的均衡回復力を確かなものとし、明年以降の日本経済を自律的な成長軌道に乗せるためには、規制緩和などによる経済構造改革を急がなければならない。