1999年5月版

‐ 本年1〜3月がプラス成長でも底入れとは限らない ‐

【1〜3月の生産、出荷は増加したが、4〜6月は再び減少か】
本年1〜3月期の鉱工業生産(速報)は前期比+0.4%、出荷は同じく+1.0%と、今回の景気後退が始った97年4〜6月以来8四半期振りに大幅な増加となった(小幅な増加は97年7〜9月と98年7〜9月にあったが、それ以外の5四半期はすべて減少。月次の動きは図表1参照)。1〜3月の生産の増加は、曜日構成の影響を調整したX-12-ARIMAで季節調整すると、+1.2%と更に大幅となる。
図表1を見れば明らかなように、出荷が98年8月を底に、一高一低のうちにも僅かに上昇傾向を示しているのに対し、生産は厳しく抑制されてきたため、在庫率が着実に低下し、在庫調整に目処がついてきた。このため、年度末を控えて、生産がやや増加したものである。
もっとも、これで生産が増加傾向に転じたと見るのは早過ぎる。同じく図表1に示したように、4月の生産予測指数は、自動車の大幅減産を中心に、−3.2%の大幅減少となるため、4〜6月期は再び前期比マイナスとなる可能性が高い。在庫調整は進んでいるが、まだ終わった訳ではないのだ。


【時間外労働、求人も一時的に増加、失業率は上昇持続】

しかし、一時的とは言え1〜3月の生産が増加したため、製造業の所定外労働時間も前期比+1.2%と、7四半期振りにプラスとなった。図表2に示した全産業所定外労働時間の前年比も、マイナス幅を縮小している。このため所定外賃金が増加し、実質賃金の前年比マイナス幅も、10〜12月の−2.8%から1〜3月は−1.5%に縮小している。
このような生産増加に伴なう雇用の限界的好転は、このほかにも、職業安定所における1〜3月期の新規求人と有効求人が、前期比それぞれ+0.3%、+1.7%と6四半期振り、7四半期振りに増加したことにも現われている。
しかし、このような雇用情勢の好転は、生産同様に一時的、限界的であることを忘れてはならない。雇用情勢全体を示す完全失業率は、1〜3月中に4.4%から4.8%に上昇し、戦後の最高記録を更新している。


【1〜3月の設備投資落込みは小幅か】

このような本年1〜3月の一時的好転の動きは、GDP統計にも現われる可能性がある。
来月発表になる1〜3月のGDP統計では、公共投資と住宅投資の伸びが大きく高まるとみられる。図表2に示したように、公共工事請負額(前年比52.7%増加)や新設住宅着工戸数(121.7万戸、昨年10〜12月は112.8万戸)が大きく好転しているからだ。
昨年10〜12月期の場合は、これらのプラス要因を、設備投資急落のマイナス要因が相殺してしまった(図表3参照)。しかし本年1〜3月は、一般資本財(輸送機械を除く資本財)出荷が+3.3%と増加したこと(10〜12月は−4.1%)、建築着工床面積(民間非居住者用)が+7.8%と増加したこと(10〜12月は−9.2%)などから判断して、設備投資は大幅なマイナスにならなかった可能性がある。そうだとすれば、公共投資増加と住宅投資増加のプラス要因が、設備投資減少のマイナス要因を上回る可能性がある。


【1〜3月は6四半期ぶりにプラス成長の可能性も】

他方、個人消費の基礎統計である全世帯消費支出(実質)をみると、1〜3月期も前期比−1.7%の減少となった。図表2に示した全国百貨店・スーパーの売上高前年比も、1〜3月期はマイナス幅を拡大した。
しかし、全世帯消費支出では車の購入が激減しているが、同じ図表2に示した新車登録台数(乗用車)をみると、97年4〜6月以降ほぼ一貫して減少してきたが、本年1〜3月には+4.3の大幅増加となった。
GDP統計の個人消費の推計は、全世帯家計消費を基本としながらも、自動車購入などの項目は自動車販売統計で置きかえられる。これを考慮すると、1〜3月の個人消費は大幅なマイナスではなく、横這い圏内の動きではないかとみられる。
以上のようにみてくると、1〜3月期の国内需要は若干のプラスとなり、外需のマイナス幅が小さければ、GDP全体として6四半期振りのプラス成長となる可能性もある。


【4〜6月期に再度マイナス成長もありうる】

しかし、これをもって日本経済がプラス成長の軌道に乗ったとみるのは、まだ早い。
前述のように、鉱工業生産、出荷が4〜6月には再びマイナスになる可能性が高い。先行指標である機械受注(民需、除く電力・船舶)や建設工事受注額(民間)が、昨年10〜12月期まで一貫してマイナスであったことから判断すれば、4〜6月期の設備投資はまだ減少を続けるであろう。失業率の悪化を考えれば、個人消費が持続的な回復軌道に乗るとも思えない。
従って、仮に1〜3月期にプラス成長に転じたとしても、4〜6月期には再びマイナス成長に戻る可能性もある。景気が底入れし、回復し始めるのは、早くても本年下期以降ではないだろうか。


【金融面の好影響は定量化が難しい】

では、下期以降確実に回復に転じるであろうか。これも不確かである。企業のリストラに伴ない、雇用情勢全体の悪化と設備投資の抑制はまだまだ続くからである。
いま景気展望が極めて難しいのは、政策効果を反映した公共投資と住宅投資の回復を別にすると、景気回復要因は「定量化」の難しい金融要素が多いからである。
第一に、日本銀行の所謂ゼロ金利政策による長期金利の低下は、どれだけ需要を喚起する効果があるのか。
第二に、信用保証枠拡大に伴なう企業倒産の減少は、そうでない場合に比べてどれだけ総需要に貢献しているのか。
第三に、60兆円の金融システム対策によって金融不安が薄れ 、ジャパン・プレミアムがゼロになったことは、どれだけ景気に影響を与えるのか。
第四に、これらの結果、日経平均株価が17千円前後まで回復したが、このことによって、どれだけの資産効果が出るのか。
これら第一〜四の効果は、成長にプラスの寄与をすることは疑いないが、モデルで「定量化」することは出来ない。
当面は、これらの影響を背景とする設備投資、個人消費、住宅投資の動向を注意深く見守り、予断を持たずに柔軟に判断していくほかはない。