1999年4月版

‐ 本年上期の景気は下げ止まり、ないし底這いの可能性 ‐

【99年度には回復するとみる経営者達】
4月5日に発表された新方式の日銀短観は、明暗ミックスした内容であった。
企業は過剰雇用、過剰設備、過剰負債を抱え、その整理ないし償却という形でリストラの努力を続けているので、当分の間雇用も設備投資も減り続けるというのが暗い方の内容である。リストラの負担と減収で、98年度決算も大幅減益の計画である。
しかし業況判断DIの「悪い超」幅は、大中小すべての企業規模で、製造業と非製造業が共に縮小に転じ、先行きも更に縮小する予想である。業況に関する企業心理は、昨年12月が最悪期で、今年に入って改善し始めている。これと表裏の関係で、99年度は小幅増収の下でかなりの増益になると企業は考えている。リストラの効果が出てくるという訳だ(3月調査の日銀短観についての詳しいコメントは、このホームページの「What's New!」欄の"下期回復予想の新方式日銀短観"(99.4.6)を参照されたい)。


【リストラで雇用情勢は当分悪化】

リストラは確かに企業の損益分岐点を下げて収益力を高めるし、マクロ的にも日本経済のサプライ・サイドを改善する。しかし短期的には、雇用と設備投資の減少で、マクロ的に景気の足を引張る。そうなれば、企業経営にも悪材料として跳ね返って来る。企業経営者は、そのような「合成の誤謬」を見ていないのであろうか。
事実、2月の完全失業者数は315万人(前月比14万人増)に達し、完全失業率は2ポイント上がって4.6%となり、戦後最悪の記録を更新した(図表1参照)。個人消費に影響がない筈はない。
従って問題は、リストラに伴なう短期的なデフレ要因を、景気対策の効果が打消して、サプライ・サイド改善の効果が現われる迄景気を持ちこたえることが出来るかどうかである。それが、目下の最大の関心事と言えよう。


【超金融緩和で長期金利低下、円安、株高、貸出増加】

その点からみて、二つの明るい材料が出てきた。一つは、日本銀行の「ゼロ金利政策」(翌日物コール・レートを0.15%以下に誘導)の効果が出て、長期市場金利(国債指標銘柄の市場利回り)は1.6%台に下がり、円相場は120円前後の円安となり、日経平均株価は16,500〜17,000円にまで回復してきたことである。
長期市場金利の低下は住宅ローンなどの貸出金利を低下させて、各種の投資を刺激する。円安は輸出企業の競争力強化と採算好転に寄与する。株高は金融機関や企業や個人の株式含み損を含み益に転じ、資産効果によって投資や消費を増やす。
この三つの動きは、いずれも景気を刺激する。また、このような超金融緩和に加え、信用保証協会の保証枠拡大に伴なう中小企業向け貸出の増加もあって、本年3月末の都市銀行の国内向け貸出残高は前年比2.0%の増加となった。つまり98年度中の貸出が僅かながら増えたのである。これは92年度以降6年振りの貸出増加である。当然、3月のマネーサプライ増加率にもよい影響が出るであろう(図表1参照)。


【持家を中心に住宅投資は着実な回復へ】

もう一つの明るい材料は、住宅投資促進減税、住宅金融公庫の融資枠拡大、住宅ローン金利の低下などの影響で、住宅投資に回復の動きが出てきたことだ。
2月の住宅着工戸数は、図表1に示したように、まだ前年水準を下回っているが、マイナス幅は△9.4%と10〜12月の△13.2%よりは縮小している。季節調整してみると、1〜2月の平均水準は、10〜12月に比して4.2%増加している。
とくに持家の着工戸数をみると、2月は既に前年を9.0%上回り、季節調整済み前月比では17.9%の大幅増加となっている。住宅金融公庫の98年度第4回融資(本年1月18日〜3月26日受付)のうち、マイホーム分の受理戸数が97年度第4回比+75.1%、98年度第3回比+42.9%と大幅に増加していることから判断すると、持家の着工戸数は今後も一段と回復して行くであろう。


【設備投資の先行指標に下げ幅縮小傾向】

このように、政策効果が顕著に現われている分野があるものの、総需要の中で高い比重を占める個人消費には明白な回復の兆しがなく、設備投資も減少が続く計画となっている。
ただし、個人消費の中でも乗用車販売については、1〜3月の新車登録台数が前年比+4.3%と、実に8四半期振りの増加となった。
また設備投資についても、一般資本財(輸送機械を除く資本財)の出荷が、昨年12月から本年2月まで3ヵ月連続して前月比プラスとなっている(+2.8%、+0.7%、+1.7%)。先行指標である機械受注などが減少しているので、この増加は一時的と見られるが、しかし減少テンポが緩んできたことは間違いない。
因みに、機械受注(民需、除く船舶・電力)の前年比マイナス幅は、図表1に示したように昨年4〜6月、7〜9月の△20%程度をボトムとして次第に縮小しており、本年2月は△8.9%まで小さくなった。これは季節調整すると前月比5.0%のプラスである。同じようなマイナス幅の縮小は、建設工事受注額(除く住宅)や建築着工床面積(非居住者用)など、他の設備投資先行指標にも出ている。


【本年1〜3月期は6四半期振りのプラス成長か】

他方公共投資は、昨年9月から始った98年度第1次補正予算の執行に加え、昨年末に成立した第3次補正予算の執行が本格化してくることから、公共工事着工総工事費が本年1月に前年比+13.9%、2月に同+33.5%と大きく伸びている。先行きを示す公共工事請負金額(図表1参照)も、本年2月は前年比+38.8%と大幅な伸びになっている。
昨年10〜12月期には、図表2に示したように、公共投資の増加が設備投資の減少によって相殺されてしまったので、マイナス成長となった。しかし、公共投資の伸びがこのように高まる一方、設備投資の減少テンポが前述したように鈍化してくれば、差引で成長に対するプラスの寄与が残り、住宅投資の回復も加わって、本年1〜3月期には6四半期振りのプラス成長に転じるかも知れない。
図表3に示したように、鉱工業生産や出荷の動向から判断すると、本年1〜3月は6四半期振りのプラスになる可能性がある。もっとも4月の予測指数によれば生産は大きく減少する見込みなので、本年上期中はプラスに転じるとしても小幅であろう。下げ止まり、ないしは底這いの域を出ないかも知れない。