1999年3月版

‐ 年明け後の明るさは99年中の回復の前兆か? ‐

【設備投資の減少が公共投資の増加を打消す】
昨年10〜12月期の実質GDPは、若干のプラス成長ではないかという一部の期待を裏切り、前年比△0.8%(年率△3.2%)とかなり大幅なマイナス成長となった。これで5四半期連続のマイナス成長である。これを今回の景気後退が始まる直前の97年1〜3月期の実質GDPに比べると、実に5.3%の落込みである(図表1参照)。
10〜12月期にマイナス成長が止まらなかった理由は、主として三つある。
第1に、景気対策の効果で公共投資は前期比10.6%増(成長寄与度0.9%)と大きく伸びたが、他方で公共投資の2倍の規模を持つ民間設備投資が前期比5.7%減(成長寄与度△0.9%)と落込み、景気対策の効果を完全に帳消しにしてしまった。
これは、平成不況の92〜93年にも起きたことである。図表1に示されているように、相次ぐ景気対策の効果で公共投資は増えているが、民間設備投資の減少がそれを打ち消し、92〜93年のGDPには景気対策の効果が現れなかった。


【円高の影響で純輸出が頭打ち】

第2に、3四半期振りに増加するかと期待された個人消費が、前期比△0.1%と徴減した。軽自動車の爆発的売り上げや各種の値引きセールの好調も、部分的、一時的な動きに過ぎなかったようだ。消費全体を四半期という期間でとらえると、失業増加やボーナス減少に伴なう所得減少の影響の方が大きく、消費は伸びられないのである。
第3に、96年中頃から一貫して増加し、GDPを下支えてきた純輸出が頭を打ち、成長寄与度が前期比マイナス0.3%となった(図表1参照)。これは、昨年8月の1ドル=140円台をボトムに円相場が円高に転じた影響が、背景にあるようだ。
以上のような状況なので、GDPにプラスの寄与をした最終需要項目は公共投資だけとなり、大きなマイナス成長を記録したのである。


【年明け後の個人消費と住宅投資にやや明るさも】

このような昨年10〜12月期のGDP統計は、経済危機の深刻さを改めて印象付けるものであり、安易な楽観論を戒めるものである。とくに民間設備投資の下落スピードが早く、その景気全体への影響が大きいことを忘れてはならない。
しかし、1四半期前の深刻なデータに引きずられて、足許の動きを見失っては、いたずらな悲観論に陥る。年明け後のデータの中には、景気下げ止まりの気配を感じさせる動きもあるからだ。
まず1月と2月に入って、軽乗用車のみならず、乗用車全体の新車登録台数が、図表2に示したように、前年水準を大きく上回った。季節調整をしてみると、この1〜2月の水準は、前年10〜12月に比して8.6%増である。また1月の家計調査によると、全世帯ベースの消費水準(季節調整済み)が前月比2.2%増となった。
更に分譲マンションの売れ行きが、年明け後好転している。これは時限的な住宅投資減税の効果と金利先高予想で、マンションの買急ぎが始ったからである。


【在庫調整は最終局面に入り生産は緩やかな増加へ】

次に、マクロ経済全体に現れた良い方向の変化は、在庫調整の進捗と、生産底入れの気配である。
図表3に明らかなように、鉱工業生産は12月、1月と2ヵ月連続して増加したが、出荷も増えているので、この2ヶ月間に在庫率は逆に連続低下した。
97年4月から98年4月までの13ヵ月間は、生産をいくら減らしても在庫率が上昇を続ける最悪の局面であった。その後98年5月から11月までは、生産が底を這っているのに在庫率は僅かしか低下しなかった。それが98年12月、99年1月と、生産が上昇に転じたのに在庫率は大きく下っている。これは、在庫調整が最終局面に入ったことを示唆している。
生産予測指数によると、生産は2月と3月にも上昇を続ける。この予測指数が正しいとすると、1〜3月の生産は前期比プラス1.5%と6四半期振りの増加となる(曜日構成を調整するX-12-AIRMAでもプラス0.7%と7四半期振りの増加)。
もしこの生産底入れに持続性があれば、時間外手当の増加を経てやがて雇用増加の局面につながり、本格的な景気回復となる。しかし、この持続性はまだ分からない。何故なら、生産増加が持続するには最終需要の回復が必要であるが、それがまだ不確かだからだ。
個人消費と住宅投資の回復気配が本物となれば、設備投資減少と公共投資増加が相殺し合っても、最終需要は緩やかな回復を始めるであろう。果してそうなるかどうかが、今後の大きな分かれ目である。


【金融超緩和と長期金利低下・円安・株高】

もう一つ、マクロ経済面のやや明るい動きは、超金融緩和政策の効果が浸透してきたことである。
98年の名目成長率はマイナス2.5%と、97年のプラス1.5%に比して大きく低下したが、広義マネーサプライの増加率は、遂に97年の3.1%増から98年の4.0%増へと、伸び率が高まっている。それにも拘らず景気が立上らないのは、一種の「流動性のワナ(liquidity trap)」に陥っているためであり、マネーサプライ増加の政策効果が現れないのだと見る向きが多い。
しかし、このような潤沢なマネーサプライの供給があるからこそ、積極的な財政政策を行ってもクラウディング・アウトで金利が上昇せず、財政政策の効果が挙がるのである。そのことを実証したのが、2月以降の出来事であった。
市場は将来のクラウディング・アウトを予想し、一種の合理的期待で現実の長期市場金利が2.4%まで上昇したが、日本銀行がオーバーナイトのコール・レートをゼロ水準に誘導する一段の緩和政策を実施し、政府が長期国債の発行を減らし、短・中期国債の発行を増やすと発表しただけで、再び長期市場金利は1.5〜1.8%に下がってしまった。誤った予想が訂正されたのである。
この長期金利低下は円安と株高を招いており、両面から景気刺激効果を持つ。


【信用保証拡大で企業倒産は小康状態】

金融面ではもう一つ、政策の効果が挙がっているのが、企業倒産の激減である。中小企業に対する信用保証協会の特別保証枠(中小企業安定化特別保証)を20兆円追加した結果、昨年10月1日から本年3月5日までの特別保証の承諾は、68.9万件、13.4兆円に達した。
その結果、信用保証協会の保証承諾金額全体は、前年に比べて、昨年10月3.5倍、11月5.2倍、12月3.0倍、1月1.8倍となった。
その効果は、企業倒産件数に劇的に現われた。戦後最高水準を更新し続けていた企業倒産件数は、昨年11月から一転して前年水準を下回り、11月△5.4%、12月△30.8%、本年1月△33.6%、2月△40.7%となっている。
恐らく3月の年度末も、企業金融は波乱なく過ぎるのではないだろうか。景気は厳しいが、中小企業の資金繰りは何とかつながっているという状態であろう。その間に、景気が本当に回復し始めるかどうかが、最大の焦点である。もしそれに失敗すれば、信用保証協会の保証事故が増加し、政府が大量の不良債権を抱える結果に終わる。それは最終的に納税者の負担になる。
年明け後、一部にみられる明るい兆しが99年中の本格的回復につながらないと見た場合は、自自連立内閣は遅滞なく次の一手を打たなければならない。