1999年1月版

‐ 本年上期が景気の大底か ‐

【昨年の臨時国会で作った枠組みで企業金融は波乱なく越年】
企業金融は大きな波乱なく年を越すことが出来た。これには、自由党が提案し、自民党の協力を得て昨年の臨時国会で実現した信用保証協会の中小企業向け保証枠の拡大、中堅企業向け保証枠の新設が大きく寄与した。宮沢大蔵大臣もこの事を率直に認めている。各地の信用保証協会の窓口は、将に門前市を成すような混雑であった。
また大企業については、日本銀行のCPオペの条件緩和や社債担保貸付の実施が、金繰り緩和を援けた。
他方、日本長期信用銀行に続き、日本債券信用銀行も金融監督庁によって債務超過と認定され、金融再生法に基づく国営管理下に入った。その他の銀行も、金融監督庁の検査結果に基づく不良債権額を前提に、3月末に出来る限り引当て償却し、その結果生じる資本不足については、金融健全化法に基づく公的資本の注入を受けようとしている。現在までの申出額は6兆円程度であるが、最終的には10兆円を超えるかも知れない。
このように、昨年の臨時国会で用意された金融対策の枠組みによって、企業金融が支えられ、「護送船団行政」とは違った形で不良銀行の退出とその他銀行の経営立て直しが進み始めた。しかし最終的には景気が立ち直らない限り、信用保証付き債権を含めて不良債権が拡大再生産されるだけなので、金融問題の解決にはならない。


【個人消費に下げ止まり現象散見】

その景気は、昨年7月〜9月期まで、設備投資の急落を主因に、4四半期連続のマイナス成長が続いており、極めて深刻である(図表1参照)。しかし先月のこのホームページの「月例景気見通し」でも指摘したように、いくつかの点で下げ止まりの気配はある。
まず乗用車の新車登録台数が、軽乗用車の爆発的な売れ行きによって、実に20ヵ月振りに前年水準を上回った(図表2参照)。これは規制緩和によって軽乗用車の質が向上し、割安感が出たためである。
また多くのスーパーで消費税還元セールを行ったため、全国百貨店・スーパーの合計売上げ高の前年比マイナス幅が、7月〜9月のマイナス4.7%から11月はマイナス1.5%まで縮小した(図表2参照)。これを季節調整済み前月比でみると、10月のプラス0.5%に続き、11月は更にプラス4.4%に拡大している。
更に、白物を中心に、家電の小売額は9月頃から前年比2桁の伸びとなっている。これは買い控えの限界が来たためのの買換え需要と見られる。
このように個人消費は、良質廉価の新商品が出たり、全商品の値引きセールが行なわれたり、買い替えサイクルの限界に来たようなケースを中心に、消費性向が高まる形でやや動意を見せている。昨年11月の実質家計消費(全世帯)が13ヶ月ぶりに前年を上回ったのもそのためだ。


【公共投資は99年度下期まで伸び続ける】

これと並んで98年度第1次補正予算の公共事業費が昨年9月から動き出し、公共工事請負額も順調に伸び始めた(図表2参照)。このあと、昨年末に成立した第3次補正予算の公共工事費が99年度上期にかけて執行されるので、公共投資は99年度いっぱい順調に伸び続けるであろう。
99年度中の公共事業費は、98年度当初予算(97年度からの繰越しを含む)10.2兆円からの繰越し0.8兆円、98年度第1次補正予算2.5兆円からの繰越し0.9兆円、同第3次補正予算2.7兆円からの繰越し2.3兆円、合計4.0兆円の繰越し分が上期中に支出され、99年度当初予算9.4兆円(予備費0.5兆円を加えると9.9兆円)の大半が下期中心に支出される。従って、99年度当初予算の翌年度繰越し0.7兆円を差し引いても、支出ベースでは98年度11.4兆円に対し、99年度は13.2兆円(予備費0.5兆円を含む)となり、実に15.8%の伸び率である。当初予算の公共事業費支出の7割が下期に実施されると考えれば、年度中の公共事業費支出は増加を続け、下期の息切れは起こらない。


【在庫調整は進んでいるが最終需要に不安】

以上のように個人消費の部分的立ち直りと公共投資の増勢を背景に、純輸出の増加(図表2参照)も加わって、鉱工業生産と出荷は下げ止まりのあと底這い傾向を続けており、在庫率も少しずつ下がり始めた(図表3参照)。在庫調整は徐々にではあるが進んでいる。
しかし、このまま在庫調整完了、景気回復につながって行くかと言えば、まだ予断を許さない。最終需要の動向には、いくつかの不安要因が残っているからだ。
基本的な問題は、いまの景気後退が自律的悪循によるもので、最終需要が回復に転じるメカニズムがまだ全く見えていないということだ。需要後退→生産減少→雇用・賃金・収益の悪化→個人・法人の所得減少→消費・住宅投資・設備投資減少→需要減退、という悪循環である。
その結果、公共投資の増加はその2倍の規模を持つ設備投資の減少によって相殺され、所得減税と法人減税は個人・法人の所得減少によって相殺されるため、政策の効果が挙がらない。このため、在庫調整完了の時期も見通せないのである。


【3月決算で大胆な償却などが出来れば悪材料出尽しへ】

前述した個人消費の部分的立直りによって、昨年10〜12月期が5ヶ月ぶりのプラス成長に転じた可能性はゼロではない。しかし、軽乗用車や家電製品の売れ行きや小売店の値引きセールだけで、消費性向が1〜3月期も上昇を続け、個人所得の減少にも拘らず消費が伸び続けるという事態は考えにくい。
またこの3月末の決算では、力の残っている銀行であればある程、能力いっぱいの不良債権引当て償却を行い、大胆な経営リストラ計画を加速するだろう。力のない銀行は、金融監督庁の債務超過の判定によって、日長銀や日債銀のように市場退出を余儀なくされるかも知れない。
一般の企業も、力の残っている企業ほど思い切った過剰設備の償却や人員整理を内容とした決算を行うだろう。
その結果、銀行も一般企業も、目を覆いたくなる程の減益決算、赤字決算が次々と発表されるのではないか。失業率も5%に向ってどんどん上昇する可能性がある。


【99年度は3年振りの増益となるが回復テンポは不確か】

しかし、そのような不良債権や過剰設備の償却、人員や営業分野の切り捨てが大胆であればある程、悪材料出尽くしとなる。しかも年度末も、この年末同様、企業金融に大きな混乱なく乗り切れれば、法人減税を享受できる2000年3月期が始まり、明るい展望が開ける。3年振りの増益転換が見えてくるからだ。
その意味で、本年1〜3月期から決算発表の5〜6月頃までが、心理的に今回不況の大底になるのではないか。株価も地価も、その辺で大底を打つかも知れない。
その後の回復テンポは、そのような心理的な底打ち感が、投資マインドや消費マインドにどう響くかに懸っているので不確かである。とくに、設備投資の下げ止まりの時期が、全体の景気動向の鍵を握っている。