1998年10月版


【失業率4.3%は悪化の始まりにすぎない】
経済企画庁が、本年度の経済見通しを1.9%のプラス成長から1.8%のマイナス成長へ大きく下方修正した。マイナス1.8%は、このホームページの前月の月例景気見通しに書いたように、本年7〜9月、10〜12、来年1〜3月の3四半期の前期比成長率が、ゼロとなった時の数字である。図表1に示した実質GDPの落ち込みを見れば、容易に想像がつく。
このような深刻な状況が年度末まで続くとすれば、現在の雇用情勢は「悪化の始まり」にすぎないという事になろう。具体的に言えば、完全失業率は8月の4.3%からどんどん上昇し、5%台乗せは時間の問題である。9月調査の日銀短観では、主要企業のみならず、中小企業も調査開始以来始めて雇用減らしを始めた。これまで中小企業は、大企業の雇用者が減る不況期に人手不足を解消してきたが、今度ばかりは中小企業でも雇用調整が一般化している。
これは企業経営が前例を見ない程悪化しているためで、日銀短観の中小企業「業況判断DI」は、調査開始(第一次石油ショックでマイナス成長となった74年)以来最悪の水準に落込んだ。このような企業には金融機関の貸し渋りも厳しいので、年末の資金繰りの見通しが立たないという声が多い。


【7〜9月期も4期連続のマイナス成長か】

図表1に明らかなように、本年に入って設備投資が急落している。先行きについても、図表2に示したように機械受注(民需、除く船舶・電力)の前年比マイナス幅が月を追って拡大していることから判断して、更に落込んで行くことは間違いない。日銀短観でも、本年度の全国銀行の設備投資計画はマイナス8.7%と、前年度(マイナス3.0%)比下げ幅が拡大している。
他方、個人消費も、図表2の百貨店・スーパー売上高や新車登録台数に見られるように減少を続けている。これは実質賃金(図表2を参照)と雇用の減少で個人所得が減っているためで、本年の4兆円所得減税の効果は、この所得減少によって相殺されてしまった。また住宅投資も、7月、8月と2ヶ月連続して年率110万戸台に落込んでいる。
このような民間需要の減少が続いているため、本年7〜9月期も4期目のマイナス成長となった可能性が高い。


【景気対策の公共投資はまだ動き出さない】

このようなマイナス成長をプラス成長に反転させる要因は、第1次補正予算による公共投資の追加である。図表2の公共工事請負額をみると、本年8月になってようやく前年比プラス3.5%となった。
しかし、このあとどんどん拡大していくかどうかは不確かである。地方公共団体の財政赤字が、不況に伴う地方税の落ち込みと住民税減税によって著しく悪化しているため、地方単独事業はもとより、政府の補助事業についても返上する動きが広がっているからだ。
従って、事業規模10兆円と言われる第2次補正予算についても、十分な効果が出るかどうかは分からない。仮に出るとしても、来年度上期であり、本年度内は第1次補正の効果以外には何も期待できない。
従って、本年10〜12月期以降に成長率がプラスに転じるとしても小幅であり、グロース・リセッション(成長しながらの景気後退)の範囲内であろう。


【在庫調整はまだ続き生産は弱含み持続】

図表3に示したように、このところ生産、出荷が下げ止まり傾向を示し、在庫率が下がり始めた。しかし、これは必ずしも明るい数字とは受けとれない。
まず生産、出荷については、休日が少ない曜日構成となっているため、これを調整するとまだ下がっている。在庫率の低下は自動車在庫の減少による面が大きく、素材関係ではまだ下がっていない。
従って、在庫調整は来年3月まで続き、生産も年度内は下落を続ける可能性が高い。