1998年9月版


【世界の株価暴落と日本の3期連続マイナス成長】
「このままでは年内の景気がもたない。そのことに気付いていない小渕首相、宮沢蔵相、そして小渕内閣の存在にこそ、日本の真の危機がある」。これは8月28日(金)の衆議院金融安定化特別委員会の総括質疑(NHK総合TV放映付き)において、数々の金融危機とその対策を論じたあと、最後に根本的な危機として、政府の景気に対する認識の誤りを私が指摘した言葉である(このホームページのWhat's New 欄8月31日付日銀特融重視と信用保証協会に宮沢蔵相柔軟姿勢℃Q照)。
不幸にしてこの指摘を裏付ける指標や経済の動きが、半月もたたないうちに次々と出始めている。その最大のものは、ニューヨーク株式市場の暴落と日本の株価のボトム更新、そして日本の4〜6月実質GDPの3四半期連続マイナス成長である。
景気の足許は一段と沈み込み、先行きは一段と暗くなっている。それなのに脳天気の小渕内閣は、長銀問題の処理と金融安定6法案の野党接渉に手一っぱいで、年内の景気対策追加を何も考えていない。


【米国の株価調整は予想されていた】

一時は9337ドルに達していたニューヨーク市場のダウ平均株価は、8月下旬に急落し、28日には7539ドルへ約2割下げた。NASDAQも約2割5分下げた。
グリーンスパンFRB議長を始め多くのエコノミストは、かねてニューヨークの株価は上げ過ぎであり、インフレ懸念の発生か、あるいはそれを未然に防止する成長鈍化が見えてきた時、調整が起きると警告していた。多くの人は、その調整幅は2割程度と見ていた。
それが、ロシアの経済危機の深刻化に伴なうルーブルの急落、これに伴なう米国資本の損失発生をきっかけに実現した。米国経済と深い関わりを持つラテン・アメリカ諸国の株価もつれ安となり、それがニューヨーク株価の下落に更にハネ返った。
そうなると日本株も暴落し、東アジア諸国の株価もつれ安となった。
かくして米国、日本、ロシア、ラテン・アメリカ、東アジアの株式市場が軒並み軟弱となり、西ヨーロッパの株価も当然冴えない動きとなった。



【もう一段の世界同時株安があったら大変】

米国経済自身にとっては、きっかけは何であれ、行き過ぎていた株価が予定通りの幅で調整されたのである。これで終わりならば、予想される成長鈍化を先取りした新しい株価が形成されただけであり、調整完了である。しかし、もしロシア、東アジア、ラテン・アメリカ、日本に、予期しない新たな危機が発生すると、世界同時の経済困難が更に深刻化し、それが米国経済にハネ返るという予想から、ニューヨークの株価は更に下がるであろう。
当然、もう一ラウンドの世界同時株安となろう。
ロシア、東アジア、ラテン・アメリカには、自分の力で立上って、世界同時株安を阻止する力などは、ある筈がない。長い間世界景気を引張ってきた米国も、景気循環的に調整局面に入ってきたので、もはや世界を引張る力はない。
そうなると、もう一段の世界同時株安を阻止するのは、日本経済の立直り以外にはない。



【本年度はマイナス1.0〜1.5%成長か】

その日本経済が、87/10〜12月−1.5%、88/1〜3月−5.2%、4〜6月−3.3%(いずれも年率)と3期連続マイナス成長のうえ、バブル崩壊後の安値を更新して株価が下がり、マイナスの資産効果が金融機関の財務と景気を直撃しようとしている。
日本経済は、本年7〜9月から明年1〜3月までの3四半期、仮にゼロ成長だと本年度は平均マイナス1.8%成長、仮に3四半期とも年率5.1%のプラス成長だとして、始めて平均ゼロ%成長となる。5.1%という高い成長は望むべくもないので、本年度の成長率はマイナス1.0〜1.5%程度であろう。(図表1参照)
そうなるとGDPベースのデフレ・ギャップは一段と拡大するので、企業業績の悪化、倒産と失業の増加、設備投資の急落と個人消費の停滞が続く(図表2参照)。これで金融にクラッシュが起らなければ奇跡に近い。
金融について、政府・自民党案はソフト・ランディング(問題先送り)を目指し、野党3会派案はハード・ランディング(早期是正)止むなしとしているが、不幸にしてクラッシュ・ランディング以外に選択の余地が無くなったら、どうするのか。


【輸出に支えられ在庫調整は少し進捗】

悪い要素ばかり述べたが、在庫調整はようやく進み始めた。図表3に示したように、在庫率は低下し始め、1〜3月、4〜6月と急落した生産は、7〜9月には横這いになりそうである。
在庫が減り始めたのは、超円安で米国と西ヨーロッパに輸出が伸びている自動車など加工組立型業種であり、素材型業種の在庫はまだ高水準である。4〜6月の実質GDP年率3.3%成長の内外需別寄与度でも、内需はマイナス6.1%、外需はプラス2.8%となっている。
ニューヨーク市場のトリプル安のあおりで、このところ円高が進んでいる。これはアジアの金融・経済危機を収める上では好材料となるが、あまり円高が行き過ぎると先行きの外需がおかしくなり兼ねない。当面の景気を支える唯一の柱が折れたら更に大変なことになる。
本年度第1次補正予算の影響は、公共事業請負額(第2表参照)にはまだ見られない。設計・施行には時間がかかるので、10〜11月頃にならないと出てこないという説もある。そうだとすれば、雪国の東北、北海道には間に合わない。