1998年8月版

景気対策は間に合わず、8、9、10月は薄氷りを踏む思い

【4〜6月期は3期連続のマイナス成長か】
4〜6月期のGDP推計の基礎資料が法人企業統計(設備投資の推計資料)を除いて出揃ったが、4〜6月期は、昨年10〜12月期、本年1〜3月期に続いて3期連続のマイナス成長となる可能性が高い。プラス成長になったとしても、ゼロ%に近い小幅であろう。
まず家計調査の全世帯消費支出(実質)は4〜6月に前期比−0.6%となった。この数字がそのままGDP統計の個人消費となる訳ではなく、自動車、パソコンなどの耐久財消費などは他の統計で補正される。図表1の新車登録台数にも見られるように、耐久消費財などの消費が底を打ったという情報もあるので、これが響いて個人消費がプラスと推計されると、GDPの6割を占めるだけに、成長率が僅かのプラスに転じることもあり得る。
もう一つのプラス要因は、不況を反映して輸入が大幅に落込んでいるため、純輸出がプラスとなっていることだ。
しかし、残るGDP項目は、設備投資、住宅投資、公共投資が揃って落込んでいるのでGDP全体は引続き弱い。特に図表1の新設住宅着工(戸数)が4〜6月に前年比−15.0%とマイナス幅を拡大していることから分かるように、住宅投資は一段と落込んでいる。年率着工戸数はこれ迄の130万戸台から120万戸台に落込んだ。

【設備投資は今後急落する】

もう一つ、ここへ来て一段と弱くなっているのが設備投資だ。これは波及効果が最も大きい項目なので、今後の景気悪化要因として懸念される。
例えば、4〜6月の一般資本財出荷は前期比−10.3%と大幅に落込み、建築着工床面積(民間、非居住用)も4〜6月は前期比−6.2%である。更に、先行きを示す統計はもっと深刻で、4〜5月の機械受注(民需、除船舶・電力)は1〜3月比−16.9%の大幅な落込みとなり、また4〜6月の建設工事受注(民間、除く住宅)も前期比−15.7%と同様に大幅な落込みとなっている。
従って、今後の設備投資減少テンポは加速し、大きな不況要因となろう。


【本年度の平均成長率はマイナス】

これに対し、98年度の公共投資前倒し執行と98年度第1次補正予算による公共投資6兆円追加の効果は、いまのところまったく見られない。図表1に示したように、先行指標である公共工事請負額は、4〜6月期にも前年比−6.2%にとどまっているので、7〜9月期から工事ベースの公共投資が急増する可能性はない。公共投資が景気を引張り始めるのは、10〜12月期以降であろう。
その頃になると、現在の円安の効果と国内不況の輸出ドライブが出始め、欧米向けの輸出が少し増え始める可能性がある。
従って10〜12月期以降は、ある程度のプラス成長になろう。しかしその場合も、昨年4〜6月期から1年半続いたマイナス成長(図表2参照)に伴なう設備能力ベースのデフレ・ギャップ拡大が止まってくる程度であり、失業率の高水準は続くであろう。その結果、本年度の平均成長率は2年連続のマイナス成長となる可能性が高い。



【薄氷りを踏む思いの8、9、10月】

参院選惨敗の結果誕生した小渕首相は、6兆円以上の恒久減税、事業規模10兆円の第2次補正予算、そのための財政構造改革法の凍結を公約したが、この関係の法案が国会に提出されるのは来年1月に始まる通常国会である。それが成立するとしても、執行は更に先になる。従って本年度中は、追加的な景気刺激はないということである。
それで景気がもつであろうか。
図表3に示したように、生産、出荷には下げ止まり、在庫率には頭打ちの気配がようやく出てきた。97年10〜12月−2.5%、98年1〜3月−1.3%、4〜6月−5.2%と急落してきた生産は、7、8月の予測指数(9月は8月比横這いと仮定)を前提に試算すると、7〜9月は0.0%と横這いになりそうである。
しかし、その先で生産、出荷が浮揚する要因は、第1次補正予算に伴なう公共投資追加と円安に伴なう輸出増加しかなく、反面設備投資が景気の足を大きく下に引張るとなると、生産、出荷の回復見込みはなく、当分底這いであろう。そうなると在庫調整の完了も来年1〜3月以降になる。
その間に、大手銀行の経営破綻などで再び金融危機が発生すると、ビジネス・コンフィデンスは大きく冷え込むに違いない。中間決算を控え、8、9、10月の日本経済は薄氷りを踏む思いの歩みである。