1998年7月版

【失業率が急上昇、米国を上回るか】
景気諸指標の5月実績と6月の「日銀短観」から判断すると、足許の景気は一段と悪化し、極めて深刻な状況にある。
まず5月の鉱工業生産は、+0.4%という修正予測指数とは逆に、実績では−2.0%の下落となった(図表1参照)。自動車、鉄鋼、紙パなどの生産調整が月を追って強化されているためだ。6月と7月の予測は+1.8%、+0.3%となっているが、これもフタを開けてみると下方修正される可能性が高い。仮に6月が予測どおりであったとしても、4〜6月平均は前期比−5.1%(年率−22.0%)と、今回の景気後退局面で最大の下落幅となる。
この結果、雇用、賃金情勢は一段と深刻化している。5月の完全失業率は、全体で4.1%と戦後最悪の水準で横這っているが、このうち男子は4.3%と前月比0.1ポイント上昇、特に学校卒業直後の15〜24歳では1.4ポイントも上昇して8.5%に達した。二桁になるのは時間の問題かもしれない。
名目賃金は時間外労働の減少とボーナスの減少を主因に前年比−0.7%と減少しており、消費者物価上昇を差し引いた実質では下落幅は−1.3%に達する(以上、図表2参照)。

【家計の消費マインド、投資マインドは低迷したまま】

このような雇用、賃金情勢を反映して、5月の消費指標は、全国百貨店・スーパー売上高が前年比−0.9%、家計調査の全世帯消費支出が前年比−0.1%とマイナスを続けている。
また、3月、4月と一時的に上昇した勤労者世帯の消費性向も、5月は再び低下した。3月と4月の消費性向上昇は、消費マインドが好転したためではなく、この2ヶ月の可処分所得が落込んだために、結果として消費の割合が上昇したのである。可処分所得が反動増となった5月には、再び元の低水準に下ったのがその証拠だ。
また新設住宅着工戸数も、年率125万戸と2ヶ月連続して120万戸台で低迷している。これは前年比−16〜17%の落ち込みである(図表2参照)。家計の投資マインドも弱気化したままだ。


【企業の業況感悪化で設備投資は一段と下降】

企業マインドの悪化も著しい。6月の日銀短観では、主要企業、中小企業とも業況判断DIが一段と悪化し、主要企業では平成不況の92年頃の水準、中小企業では平成不況のボトム(93年)を更に下回る水準に落込んでいる。
このため、例年であれば6月調査で大幅に上方修正される筈の設備投資計画も前年比大幅なマイナスのままである。すなわち、97年度実績と98年度計画は、前年比でみて、主要企業が−0.4%と−1.3%、中小企業が−4.6%と−19.1%、合計では−3.0%と−8.7%である。
機械受注統計も、この日銀短観を裏付ける動きをしている。民需(除く船舶・電力)でみて、4〜6月の見通しは前期比−8.1%であり、4月の実績は前月比−16.8%と見通し以上に落込んでいる。
個人消費、住宅投資と並んで、本年度は設備投資が景気の足を大きく引っ張ることになろう。


【98年度の成長率はよくてもゼロ%台】

こうした民間経済の弱さを補う公共投資追加の動きは、まだ実績には出ていない。5月の公共工事請負額は、前年比−24.4%と大きく落込んでいる(図表2参照)。
多分、公共事業の前倒し執行と98年度補正予算による公共事業追加の影響は、6月の統計から出てくるのではないか。日銀短観でも、不動産と建設の業況判断や売上高が、9月に向ってやや回復すると見込まれている。
この結果、昨年10〜12月期、本年1〜3月期と2期連続マイナス成長となった実質GDP(図表3参照)は、4〜6月期にももう一回マイナス成長の可能性はあるが、7〜9月期からプラス成長に転じるのではないか。
しかしその場合でも、政府見通しの98年度平均1.9%成長の達成は到底無理である。何故なら、97年度下期に2四半期連続マイナス成長となったため、98年度平均成長率は−1.0%のゲタをはいている(毎四半期ゼロ%成長でも平均は−1.0%成長となる)。従って、平均1.9%となるためには、毎四半期平均年率4.8%の成長を続けなければならない。公共投資だけがプラスで、あとの民間支出がマイナスないしは停滞、純輸出もアジアの経済危機と米国の成長鈍化で伸びないとなると、これは到底無理な相談である。
98年度の平均成長率は、プラスになったとしても、ゼロ%台にとどまるであろう。これは引続き不況である。