1998年4月版

平成10年度上期も景気後退は続く

【97年度は戦後2番目のマイナス成長】
97年10〜12月の実質GDP、98年2月の生産実績と3月、4月の生産予測、3月調査の日銀短観と、基本的なマクロ統計が3本出揃ったが、いずれも景気後退が加速していることを示している。92〜94年の3年連続ゼロ%台成長の時期に匹敵する深刻な不況が再び訪れたようだ。
まず10〜12月の実績GDP(前期比年率0.7%減)が物語る景気後退の深刻化については、このホームページの「月例景気見通し98年3月版」に詳しく書いたので繰り返さないが、図表1に明らかなように、実質GDPは昨年4〜6月期から10〜12月期まで3四半期間落込んだままで停滞している。新たな景気後退が始まったことは一目瞭然である。
これで97年度の成長率は、戦後2回目のマイナス成長となる。前回は第1次石油危機という外生的ショックを受けた74年度であり、今回は橋本内閣の失政という政策的ショックを受けた97年度ということになる。

【98年度にマイナス成長が止まるという目処はまだ立たない】

しかもこのマイナス成長は、97年度の1年間で終わるかどうかまだ分からない。
このホームページの3月31日付け「What's New」欄に詳しく書いたように、本年2月から4月迄の鉱工業生産は、3ヶ月で8.2%も急落する。その結果、図表2を見れば直感的にも明らかなように、98年4月の生産水準は97年暦年の平均に比して8.2%も落込むことになる。
しかも、そこで生産調整が終わるならば良いが、図表2の在庫率の高さからも分かるように、過剰在庫減らしはまだまったく実効を挙げていないのである。従って、自動車、パソコン、鉄鋼、化学など日本を代表する製造業の生産調整はまだ当分続くであろう。従って98年中にマイナス成長が終わる目処は、まだ立っていないのである。
3月調査の日銀短観もそのことを裏付ける結果となった。詳しくは、このホームページの4月2日付け「What's New」欄に書いてあるが、3月現在、在庫調整はまったく進捗しておらず、過剰在庫はなお増え続けているのである。

【消費・投資マインドの冷却に輸出減が追い討ち】

その理由は、97年度に続いて、少なくとも98年度上期中は、主要企業製造業の売上高は減り続ける見込みだからである。これは、自動車など加工組立産業の輸出がアジアの経済危機の影響もあって大きく減り、また生産調整のシワ寄せを受けて鉄鋼、化学、ガラスなど素材産業の内需が落ち続けるからである。
前月の「月例景気見通し」で詳しく述べたように、97年度の超デフレ予算が引き金となって始まった今回の景気後退は、在庫減らしの生産調整を通じて賃金・雇用を悪化させ、そこから所得・消費がもう一段落込むという悪循環を描きながら自律的に進行し始めた。
その過程で、家計や企業の先行き観が悪化し、家計の消費性向低下(消費マインドの悪化)と、企業の98年度設備投資計画の減少(投資マインドの悪化)が加わって、自律的景気後退は加速している。
その上、98年度上期には、アジア経済危機の影響などから、輸出が一段と景気の足を引張ることになる。

【減税効果を相殺する消費性向の低下】

このような景気後退に対し、政府・自民党の景気対策はどの程度の効果があるのか。
第1に、97年度予算の9兆円に及ぶ国民負担増加の影響のうち、消費税引上げ2%の影響(5兆円増税)は、次第に減衰して行く。少なくとも図表3の全国百貨店・スーパー売上高や実質賃金の前年比マイナス幅は、本年4月以降縮小するであろう。また2兆円の特別減税復活によって、2月と3月の消費は若干の好影響を受けるであろう。事実、2月の勤労者所帯の実質消費は、前年同月比では4.3%減と大きく落込んでいるが、季節調整済み前月比では1.5%増となった。
しかし問題は、このようなプラスの政策効果と、消費マインド悪化の綱引きである。勤労者家計の季節調整済み消費性向は、昨年8月の72.2から毎月低下を続けており、本年2月も下がって68.4になっている。

【公共投資がプラスに転じる政策は出るか】

もう1つの政策効果は、今後予想される公共投資の前倒し執行のプラス効果である。図表3に示したように、公共投資の前年比は10〜12月期まで減少を続けているが、そのマイナス幅は縮小しており、請負額ベースでは97年度補正の影響もあって昨年12月以降プラスに転じている。しかし98年度当初予算の一般会計公共事業費は、補正後の97年度に比して1.5兆円(14.6%)の減少である。余程の思いきった前倒し契約をしない限り、請負額は再び前年比マイナスに戻るであろう。
百歩譲って思いきった前倒し執行と、それに続く98年度補正予算による公共投資の追加があったとしても、それが前述した自律的景気後退のメカニズムによる消費や投資の減少を上回るか、あるいは輸出の減少を相殺できるか、ということである。
再び図表1を見て欲しい。92〜94年度に公共投資は大きく増加したが、設備投資と純輸出の減少はもっと大きかったため、実質GDPのゼロ%台成長が続き、公共投資中心の大型景気対策は効かなかった。
今回も、政府・自民党の考えている景気対策の「真水」が十分に大きいのかどうか、今もって判定が付かない。とすれば、少なくとも98年度上期の景気後退持続は不可避であろう。