1998年3月版

【実質GDPが物語る景気後退の深刻化】
昨年10〜12月期の実質GDP(速報、季節調整済み)は、前期比0.2%(年率0.7%)のマイナス成長となった。また、原計数の前年同月比は、0.2%減とついにマイナスに転じた。
本年1〜3月期は、前年が消費税率引上げ前の駆込み需要で大幅な増加(年率8.3%増)となっているので、前年比マイナス幅は更に8〜9%に拡大するであろう。したがって、97年度の平均成長率はプラスを維持するのが難しくなった。
因みに97暦年の平均成長率は0.9%と、前年の3.9%から一挙に3%も低下している。このように大幅な成長率の低下は、第一次石油危機直後の74年以来初めてのことである。
やや長い目で見ると、図表1に明らかなように、95年4〜6月期から97年1〜3月期まで2年間回復した実質GDPは、4〜6月期から10〜12月期まで、3四半期間落込んだまま停滞している。明らかに新たな景気後退が進行している。

【自律的景気後退のメカニズム】

景気後退の引き金を引いたのは、言うまでもなく97年度予算の9兆円(国民所得の2.3%)に達する国民負担率増加である。この結果、図表2に明らかなように、実質賃金がマイナスに転じ、百貨店・スーパーの売上高や新車登録台数などの消費関連指標と新設住宅着工が大きく落ち込んだ。
その結果、図表3に見られるような過剰在庫(在庫率の上昇)が発生し、生産調整が始まった。この生産調整が、図表2に明らかなように、更に所定外労働時間、雇用、ボーナスなどの減少を通じて実質賃金を一段と下げ、消費と住宅投資を更に落としている。これが悪循環による自律的景気後退のメカニズムである。
昨年10〜12月期も、この消費と住宅投資のマイナスだけで実質GDPは前期比0.7%も落込んでいる。実質GDP全体が前期比0.2%の減少に止まったのは、景気悪化に伴う輸入の落ち込みで、純輸出(輸出マイナス輸入)が大きく拡大し、実質GDPを前期比0.6%も押し上げたからである。(図表1参照)

【金融不安で消費性向が低下】

昨年10〜12月期については、もう1つ特筆すべき事がある。それは、拓銀、山一など金融機関の大型倒産が11月に発生した為、先行き不安から消費マインドが冷え込み、所得の多くが将来に備えるための貯蓄に回ったことである。
勤労者家計の平均消費性向は、7〜9月期の平均71.9%から、10〜12月期には70.6%へ落込んでいる。政府は金融安定化のため30兆円の公的資金を用意したが、これで直ちに消費マインドが回復するとは思えない。17兆円は破綻金融機関の預金元本を保証する為の資金であり、13兆円は破綻の恐れのない銀行に資本注入する為の資金であるから、いずれも金融機関の破綻そのものを防ぐ効果はない。従って国民の不安は続き、生活防衛意識による高い貯蓄性向は続くであろう。
2月と3月に定額還付方式で行われた特別所得減税2兆円の復活も、多くは貯蓄に回り、消費増加を通じる景気刺激の効果は殆どなかったのではないか。

【雇用・賃金と並び設備投資の動向が鍵】

今後を展望すると、4月に入って政府が大型の補正予算を組んだとしても、今始まっている自律的景気後退のメカニズムは、少なくとも夏まで続くであろう。
秋以降の展望は、打ち出される景気対策の規模と内容に懸っている。財政構造改革法を改正ないし廃止しない限り、大型の減税や新社会資本への投資(財源は赤字国債)は1.3兆円に止まる。後は建設国債を財源とする無駄の多い旧来型の公共投資である。従って大きな景気刺激効果は期待できない。
(詳しくはWhat's New欄、3月12日付け『橋本総理を怒らせた“二枚舌”批判』と3月2日付け『橋本政権は3月危機を二枚舌で乗り切れるか』を参照)
賃金・雇用の動向と並んで、今後の景気動向を読む上の鍵は、設備投資である。図表1に明らかなように、設備投資は97年度に入って頭打ちとなっている。前月の月例景気見通し(2月版)で詳しく述べたように、法人企業動向調査や機械受注統計から判断すると、この後設備投資は減勢に転じる見込みである。景気刺激策が、この設備投資を再び反転上昇させる力を持たない限り、持続的な民需主導の回復は始まらない。
果たして橋本内閣に、それだけの景気対策を打つ能力と資格があるのか。