1997年12月版
【景気後退の様相強まる】
前月(97年11月版)の「景気見通し」で、@現在進んでいる過剰在庫減らしの生産調整は少なくとも明年1〜3月期まで続く、A現在景気を支えている設備投資と純輸出の先行き不安が出てきた、B景気回復の基盤であった雇用と企業収益にも変調が現れている、C従って現在進行中の在庫調整の先には本格的な景気後退のシナリオが見えてきた、とのべたが、この1ヶ月間に、@〜Cの判断を強める指標が更に増えている。
例えば、10月の生産、出荷は減少、在庫率は上昇、更に11月と12月の生産予測指数は10月の生産実績より更に低くなると発表された。(図表1参照)しかし、新しい指標の中でも1番注目されるのは、7〜9月に3.4%で高止まりしていた失業率が、10月には3.5%と最悪の水準に上昇したことである。生産調整→雇用悪化→消費減退→生産調整、という景気後退の自律的悪循環が始動したように見える。
また7〜月期のGDP統計が発表された結果、景気の牽引力であった設備投資は1〜3月期、4〜6月期、7〜9月期と3四半期連続して横ばい傾向、純輸出も4〜6月期、7〜9月期と頭打ちになっていることが明らかとなった。(図表2参照)設備投資と純輸出が、この後減少に転じるとは思わないが、これまでのような景気牽引力がなくなってきたことは確かである。設備投資に対し6〜9ヶ月先行する機械受注(民需、除く船舶・電力)を見ても、7〜9月期は前年同月比で僅か1.3%の増加に過ぎない。(図表3参照)
更に、景気の足を引っ張っている個人消費、住宅投資、公共投資の指標は、10月に入っても前年比のマイナス幅を拡大する指標が大半である。(図表3参照)
【本年度はほとんどゼロ成長】
こうなると、本年度の実質成長率はほとんどゼロ%となるであろう。仮に残る10〜12月期と来年1〜3月期に、前期比年率2%で成長しても、本年度の平均成長率は0.2%、3%で成長しても0.35%に過ぎないからだ。1.9%の公式見通しを発表していた政府も、さすがに「1%には届かない」と言い出した。これでもまだ虚勢を張った言い方で、実際は「0.5%も難しい」と言うべきであろう。
日本経済は92〜94年度の4年間、0.4%、0.5%、0.6%と3年連続でゼロ%台成長で低迷を続けた。政府は93年11月から景気が回復し始めたなどと言っているが、図表2を見ても明らかなように、94年度下期には再度マイナス成長に陥っているので、本当に回復し始めたのは95年度からである。95年度は2.8%、96年度は3.2%の成長を遂げた。その日本経済が、政府の超デフレ予算(9兆円の国民負担増加と公共投資削減)によって、再び97年度にほとんどゼロ%の成長率に叩き落とされるのである。その結果、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券、徳陽シティ銀行と、毎週のように金融機関の経営破綻が表面化している。
実にばかげた政策主導の不況であり、金融・経済危機である。
【来年度は1%のゲタを履いたおかげで1%台成長】
98年度(平成10年度)の成長率予想が、まもなく新聞、雑誌の紙面をにぎわすことであろう。ほとんどは、1%台成長の予想となるのではないかと思う。
これには技術的な理由が一つある。97年度は最初の4〜6月に10.6%の大幅なマイナス成長となった後、7〜9月期以降ジリジリと成長する形となるので、98年1〜3月期の実質GDPは97年度の平均よりも1%程度高い水準に達すると見込まれる(いわゆる「1%の下駄を履く」)。そうなると、98年度中は毎四半期ゼロ%成長でも、98年度の平均は97年度の平均に比して1%程度高くなる。実際はゼロ%成長ではなく、若干のプラス成長となるので、調査機関の間では1%台の成長率予想が多くなると見込まれるのである。
従ってたとえ98年度の大方の予想が、2%近い成長であっても、1%の「下駄」をはいているので、実勢は1%以下で弱いと判断する必要がある。
98年度のプラス要因は、97年度予算の9兆円の国民負担増加が個人所得と住宅投資にもたらしたデフレ効果が次第に減衰することである。
他方マイナス要因は、財政構造改革法に従って、公共投資を始めとする財政支出が大きく削減されることと、景気の牽引力であった設備投資と純輸出が頭を打つことである。
そうした中で、生産減少→雇用と設備投資の減少→内需減少→生産減少、という悪循環が自律的に進むと、成長率は1%に近くなり、あるいはそれを割り込む(実勢はマイナス成長)という最悪の事態も予想される。