1997年11月版
生産は減少へ、在庫調整は来年1〜3月も続く】
過剰在庫を減らす生産調整の輪は一段と広がり、加速してきた。6〜7月頃、自動車、
パソコン、一部家電など加工組立て産業で始まった生産調整は、化学、プラスチック、
繊維、紙パ、ガラスなど素材産業からの原材料購入を減らし、過剰在庫を発生させた
ので、素材産業でも在庫減らしの生産調整が始まった。
この結果、鉱工業生産の季調済み前期比は、1〜3月+2.4%、4〜6月0.0%の後、7〜9
月は-0.6%となり、更に10月と11月の予測指数によると、10〜12月(12月は11月比
横這いと仮定)は-2.0%と下落幅を拡大し、前年同月比でも-0.2%と僅かなマイナスと
なる。 (図表1参照)
加工組立て産業に加え、素材産業でも生産調整を始めたため、生産の減少が加速して
いるのだ。在庫率の高さから判断すると、この在庫調整に伴う減産は、少なくとも年度
末まで続くだろう。年度下期には景気回復が確りしてくるという政府の見解は、希望的
観測に過ぎないことがはっきりしてきた。
【景気を支える設備投資と純輸出に先行き不安】
生産調整を引き起こした需要の減退は、本年度のデフレ予算(9兆円の国民負担増加
と公共投資の減少)が引き金となった個人消費、住宅投資、公共投資の減少によるもの
であるが(図表2参照)、先を展望すると、今景気をかろうじて支えている設備投資と
純輸出も、力を失ってくるだろう。
まず設備投資は、先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)の前年比が、昨
年10〜12月の17.3%をピークに下落し、本年7月は0.3%、8月は2.7%とほぼ前年並み
となっている。6〜9ヶ月あとには、設備投資の伸びが止まることを示唆している。設備
投資計画(9月調査、日銀短観)を見ても、本年度の伸びが確りしているのは、輸出好
調の大企業製造業だけで、中小企業製造業と大企業非製造業の伸び率は鈍化し、中小企
業非製造業にいたっては、マイナスに転じることが確実視されている。
他方純輸出は、このまま伸びていくと、既に4〜6月期に対GDP比率で2.6%に達し
ている経常収支が3%台に乗ってくるので、日米経済摩擦の激化、米国高官の円高誘導
発言などが懸念される。純輸出のこれ以上の伸びに大きな壁が立ちはだかっているので
ある。
海外環境を見ても、米国の景気は最盛期を過ぎており、明年には自律的に、あるいは
インフレ回避の抑制政策によって成長鈍化するだろう。7〜8%成長を続けてきた東南ア
ジアも、タイ・バーツの通貨危機に始まる波乱で成長は鈍化しており、4%程度の成長
率に落ちそうである。需要面からも、日本の純輸出の伸びは鈍化せざるを得ない。
【景気回復の基盤に異変】
更に、より基本的には、景気回復の基盤である賃金、雇用、企業収益に変化が出てき
た。実質賃金の前年比は、消費税率引上げで消費者物価上昇率が高まった本年4〜6月
に-0.6となったが、7〜9月には、-1.1%とマイナス幅を拡大した。所定外労働時間の
前年比も、本年4月の7.2%をピークに低下し始め9月は1.7%、季調済み前期比では7〜
9月は0.8%の減少に転じた。また、就業者数の前年比は5月の1.6%をピークに低下し、
9月は0.4%に過ぎない。
このような賃金、雇用指標の悪化は、生産の低下傾向と表裏を成すもので、個人所得
面から景気回復の基調を崩す動きである。企業収益も、9月調査の日銀短観の増益率を
見ると、製造業は主要企業も中小企業も、昨年度の二桁増益率から5%前後に低下し、
非製造業は主要企業が1.2%とほぼ横這い、中小企業は7.0%の減益に転じている。
このような企業収益の悪化傾向は、前述の設備投資の頭打ちの基本的背景である。
【景気は本格的な後退へ】
以上の分析から明らかなように、現在進行中の過剰在庫減らしの生産調整の後、
個人所得や企業収益フ崩れで、景気は本格的な後退局面に入る可能性が高まってきた。