2%の物価目標は疑問(2024.8.11)
【「目に見えない」基調的物価上昇率に固執する日銀】
日銀は24年4月「展望レポート」のBOX4で基調的物価上昇を分析し、徐々に高まっているが概ね0.5~1.0%の範囲内にあり、物価目標の2%には達していないとした。7月末まで利上げを急がなかった根拠の一つなのだろう。しかし国民は「目に見えない」基調的物価上昇率ではなく、「目に見える」現実の大幅物価上昇率によって実質賃金が2年以上も低下を続け、消費や住宅投資が低迷して、経済的福祉が下がっている。
【2%の物価目標は実勢で1%強の物価上昇】
そもそも2%の物価目標は、国民の経済的福祉を犠牲にしてまで目指すべき目標であろうか。物価指数には基準時を固定することに伴う上振れの計測誤差がある。日銀スタッフの分析(Discussion Paper No.2024-J-10)によると、その大きさは縮小しているが、ゼロではない。物価指数で測る物価安定の目標がゼロではないのはそのためだ。しかしその誤差は1%以下で、目標が2%では実勢で1%強の物価上昇が望ましいとしていることになる。
【若干の物価上昇がよいとするのは誤り】
若干の物価上昇がよいとする理由には、物価上昇が成長促進的だとか、金融政策運営上のノリシロが必要だとか、諸外国の物価目標が2%だからなどがある。しかし物価上昇が成長促進的に見えるのは、自分の販売価格だけが上昇している初期だけで、全面的な物価上昇下では企業行動が非効率化する(後述)。金融政策運営上のノリシロ論は、中央銀行の身勝手な理屈だ。諸外国の物価上昇率に合わせる必要は、変動為替相場制下にはない。
【物価上昇は不公正と非効率を生む】
基本にたちかえって考えてみれば、物価上昇は不公正と非効率を生み、経済的福祉に反する。物価上昇は目に見えない所得税増税効果で国民の所得減少と税収増加を生み、ヘッジの有無によって庶民と高所得者・企業の間に所得格差を生む。その企業もインフレ下では個別価格の上昇がインフレの反映か価格体系の変化か明確に区別がつかず、販売・投資計画が非効率化する。中央銀行に物価安定を図る使命が課されているのは、これらの不公正、非効率を防ぐためだ。
【2%の物価目標を引き下げよ】
日本は真の物価安定に見合った物価指数の上昇率まで、物価目標を引き下げるべきである。また政策金利は金融システムの安定に配慮しつつ、もう少し早いテンポで引き上げた方がよい。自然利子率の水準をピンポイントで把握することが難しいので(前記「展望レポート」BOX5参照)、利上げの目標は予め定めず、実質金利のマイナス幅を縮小していくのがよいだろう。利上げによって、インフレ率の引き下げと円安の是正を進め、国内民間需要を建て直して、トリレンマ脱出を定着させ、新たな日本経済の発展を図るべきである。