市場は日銀を馬鹿にしているのか(2024.3.23)

【市場の円安と株高は、日銀の政策転換後に更に進んだ】
 日銀は3月18~19日の政策決定会合で、マイナス金利政策とYCC(イールド・カーブ・コントロール)を3月21日から中止し、政策金利を0~+0.1%のプラス領域に誘導することを決定し、実施した。
 これは、短期金利をマイナスからプラスへ引上げ、市場長期金利の低目誘導をやめたのであるから、金利水準の引き上げであり、当然、円高と株下落が生じると思われていた。
 ところが、政策決定の中身が新聞で伝えられた19日と、決定後実施に移された21~22日(20日は休日)の市場では、逆に円安が更に進み、株価が市場最高値を更新した。
 何故、市場は日銀の政策転換を馬鹿にしたように、逆に動いたのであろうか。

【今回の日本の利上げは無視し得るほど小幅】
 これは、考えてみると当然の反応かもしれない。利上げと言っても、政策金利を従来の0~-0.1%から、新たに0~+0.1%へ動かしただけで、0%に近かったこれ迄のマイナス市場金利が、0%をやや上回るプラス水準へ動いたに過ぎないのだ。考えられる最大限でも僅かに0.2%の上昇である。
 現在の欧米や異次元金融緩和導入前の日本では、政策金利変更は最小でも0.25%刻みで行われている。22年3月から始まった今回の米国の利上げでは、1回に0.25~0.75の幅で引上げられ、1年4か月の間に5.25%幅の利上げが行われた。これに比べると、今回の日本の利上げは、無視し得るほど小幅なのである。

【“今後当分再利上げはない”との対外説明が効いた】
 加えて、今回の政策変更に際し、日銀は今後当分再利上げのつもりはないと、総裁が記者会見で述べた。これでは、米欧と日本の著しい金利差は、大きく開いた現在の水準のまま、当分続いていくと言ったようなもので、円安修正とバブル的株高の反転が起きる筈はない。
 恐らく日銀は、政策転換で急激な市中金利の上昇と円高が生じ、万が一にも金融機関や金融市場に波乱が起きることを避けたかったのであろう。その気持ちは分かるが、政策転換をしてもまだゼロ金利近くにいる日本が、今後当分利上げをしないと明言するのは行き過ぎである。行き過ぎた円安と株高が改まらないのは、当然の成り行きと言えよう。
 更に、2%の物価目標実現を揚げている日銀が、今後再利上げが当分無いと言うことは、日本の実質金利がマイナス2%弱で当分続くことを目指していると、日銀自らが語っているようなものである。これも、円安の行き過ぎとバブル的株高が収まらない原因だ。これでは、日本経済は更に弱体化し、将来市場が逆転した時の波乱を大きくする種をまいているようなものだ。

【今後も更なる利上げを志向せよ】
 日銀は、つらくても、金融機関と金融市場に大きな波乱を起こさないように充分注意しながら、今後も金利水準をジリジリと引上げ、実質金利のプラス転換を目指すべきである。
 その際、物価目標の2%が高過ぎると気づいたならば、現実的な物価目標に下方修正するのをためらってはならない。日本では、基準時の固定に伴う物価指数の歪み(上方バイアス)は1%程度である。真の物価安定が日本経済の発展にとって望ましい以上、物価指数で測った物価安定の目標は1%程度の筈である。それが2013年の政府・日銀の共同宣言で、実証もなしに2%とされたのである。
 日本経済の長期的発展と両立する物価「指数」の上昇率と自然利子率の関係から、今後目指すべき名目金利水準をよく考え、金融機関と金融市場に波乱を起こさないように充分注意しながら、徐々にではあっても、更なる利上げを志向すべきである。