日本経済はスタグフレーションの瀬戸際に(2024.2.18)

【昨年下期は物価の高騰下で2四半期連続のマイナス成長】
 日本の実質GDPは、昨年7~9月期の前期比-0.8%に続いて、10~12月期も同-0.1%と、2四半期連続のマイナス成長となった。改善しかけていたマクロ需給ギャップも、これで再び供給超過に逆戻りした。
 他方GDPデフレーターは、7~9月期(前期比+0.8%)も10~12月期(同+0.3%)も上昇しており、名目成長率は2四半期通計でプラス成長を続けている。
 実質成長率の2四半期連続マイナスは、国によっては景気後退と定義される。つまり昨年下期は、国によっては景気後退下の物価上昇、つまりスタグフレーションと定義する状況だ。今日の日本は、大目に見ても「スタグフレーション」の入り口に居ると言ってよい状況である。

【第2次石油ショック後、強い金融引き締めをためらった国はスタグフレーションになった】
 かつて第2次石油ショックの後、景気が停滞しているにも拘らずインフレーションを持続し、「スタグネーション」と「インフレーション」を合わせた造語である「スタグフレーション」の状態と呼ばれた国は、英、佛などヨーロッパ諸国である。
 第2次石油ショックに伴う国際原油価格の4倍増に直面し、米欧日の先進国経済は一斉にトリレンマに陥った。輸入コスト・プッシュ・インフレ、国際収支悪化、景気後退の同時発生である。
 米、日、西独の3か国は、国内の金融引き締めでインフレと国際収支悪化の是正に取り組み、インフレ鎮静、国際収支の黒字回復を実現した後に、金融を緩和し、落ち込んでいた景気の回復を図った。
 しかし、西独以外の欧州諸国は、既に悪化している国内景気を金融引き締めで一層悪化させることをためらい、強い引き締めを行わなかった。このため、インフレと国際収支悪化と景気停滞のトリレンマが長引いたのである。

【輸入インフレの国産インフレ転化のメカニズム】
 石油ショック後の先進国のインフレーションは、輸入コスト・プッシュ・インフレである。輸入原油価格の高騰は、輸入原料値上がりに伴う国内販売価格の引き上げを招き、国内インフレを招く。しかし、この値上げは本来一回限りであって、輸入原油高騰の転嫁が一巡してしまえば、やがて国内物価の上昇は収まっていく道理である。
 それが収まらずに、いつ迄もダラダラと続いたのは、輸入コスト・プッシュによる価格上昇が、国内企業の予想インフレ率と賃金上昇率の上昇を招き、新たなホームメイド(国産)・インフレを発生させたからである。
 強い金融引き締めで国産インフレへの転化を防いだ米、日、西独は、原油価格上昇の転嫁が一巡した後、インフレは収まり、国際収支改善と景気回復を図ることが出来た。
 しかし、強い金融引き締めをためらった国々は、輸入コスト・プッシュに伴う国内の予想物価上昇率と賃金上昇率の上昇を許し、新たな国産インフレの発生を招き、いつ迄もダラダラと続くトリレンマに悩んだ。

【植田日銀が放置する高インフレが国内民間需要の減少を招いている】
 さて、現在の植田日銀は、輸入コストに誘発されて国内の予想物価上昇率と賃上げ率が上昇し、国産インフレに転化することによって、長い間続いた物価停滞(デフレ的状態)から脱却することを狙っているように見える。
 7~9月期と10~12月期に、輸入デフレーターの前年比は、-7.2%、-3.6%と低下しているが、国内需要デフレーターの前年比は、+2.5%、+2.1%と上昇している。輸入コスト・プッシュの転化は既に一巡したので、これは典型的な国産インフレである。
 その結果、個人消費や設備投資などの国内民間需要は、名目では個人消費が7~9月期前年比+3.2%、10~12月期同+2.2%と増加しているにも拘らず、実質では同-0.2%、同-0.5%と減少している。設備投資も同じで、名目では7~9月期同+2.1%、10~12月期同+2.3%と増加しているにも拘らず、実質では7~9月期同-1.0%、10~12月期同-0.7%と減少している。

【輸入インフレを奇貨として国内のデフレ的状態から脱出しようとした植田日銀の行過ぎ】
 輸入インフレを1つのチャンスとして、長い間続いた国内物価の停滞から脱出しようという植田日銀は、国産インフレの高進が行き過ぎて今や実質個人消費や実質設備投資の減少を招いている。
 長い間の物価停滞(デフレ的状態)を脱出するために、輸入インフレを奇貨として、国内の予想物価上昇率と賃上げ率を高めること自体は間違った政策とは言えないが、現状のように、それがスタグフレーションの入り口に来てしまったことは行過ぎであったと言わざるを得ない。
 それは、政策転換(マイナス金利政策、長期市場金利コントロールのYCCなどの異次元金融緩和からの転換)が遅すぎたためである。植田日銀は春闘の賃金上昇率を確認することに目を奪われすぎて、本来の物価安定(高インフレの抑制)の重要性を忘れかけていないか。

【植田日銀への期待】
 植田日銀は、異次元金融緩和からの政策転換を図り、行き過ぎた国内インフレと円安の修正を図るべきであろう。それによってスタグフレーションを回避する固い決意を国民に示すべき時であろう。