輸入インフレの国産インフレ転化よって高インフレが続いているにも拘らず異次元金融緩和を転換しない日銀(2023.12.21)

【異次元金融緩和を維持したまま越年する日銀】
 植田日銀は、マイナス短期金利とYCC(イールド・カーブ・コントロール)を枠組みとする異次元金融緩和を維持したまま越年することを、12月19日の政策決定会合で決めた。
 発表文(12月19日「当面の金融政策運営について」)によると、このままでも「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、来年度にかけて」輸入コストプッシュの影響が残ることから「2%を上回る水準で推移」した後、「これらの影響の剥落から、次第に前年比プラス幅は縮小すると予想」している。
 他方、「消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率が高まるもとで、物価安定の目標(2%)に向けて徐々に高まっていく」と考えている。

【物価上昇は今でも輸入インフレと考える日銀】
 12月19日当日の植田総裁の記者会見と合わせて整理すると、日銀は消費者物価の上昇を輸入コストプッシュ(第1の力)による部分と国内の予想物価上昇率と賃金上昇率の上昇(第2の力、賃金と物価の好循環)による部分に分けて考えており、当面の2%を大きく超える消費者物価の上昇は第1の力によるもので、これは来年度まで続いた後、放っておいても次第に衰えていく。しかし第2の力による上昇率(日銀の言う「基調的な上昇率」)はまだ弱く、今後次第に強まって、2%に高まっていく迄の間は、慎重に政策を運営していきたいと考えているようだ。
 つまり、第2の力を弱めないため、早すぎた政策転換を行わないよう、慎重に構えているということになる。

【輸入コストプッシュの減衰にも拘らず物価上昇率は高止まりしている】
 この日銀の認識には問題がある。
 消費者物価の総合と除生鮮食品(コアCPI)の前年比は、世界インフレが日本の輸入物価を押し上げ始めた22年4月から2%を超えて上昇し始め、23年1月の4.3%と4.2%をピークに下降に転じて現在に至っている。この前年比の上昇とピークアウトは、明らかに日銀の言う第1の力(輸入コストプッシュ)によるものだ。円ベースの輸入物価指数の前年比は、22年7月に+49.2%まで上昇し、その後低下して本年9月現在は-13.9%である。
 ところが、消費者物価の総合と除生鮮食品(コアCPI)の前年比は、本年10月になっても3.3%と2.9%に高止まりしたままである。日銀は、その理由を、輸入価格上昇の国内価格への転嫁が予想外に長引いていることと、最近の原油価格が上昇しているためと説明している(23年10月の「展望レポート」)。

【輸入インフレから国産インフレに入れ替わった】
 しかし、CPI総合から生鮮食品と輸入コストプッシュの中心であるエネルギーを除いた所謂コアコアCPIの前年比は、総合とコアCPIの前年比が低下し始めた本年2月以降も上昇を続け、本年4月から最近まで4%台に達したまま高止まりしている。
 これは日銀の説明とは異なり、輸入コストプッシュと直接関係のない国内価格一般が上昇しているからにほかならない。つまり、日銀の言う「第1の力」による国内物価上昇が、日本特有の適合的期待を通じて予想物価上昇率と賃金上昇率を高め、「価格は上がらない」と考えてきた企業のノルムを変えて、さまざまの価格の値上げに踏み切らせたことによる「ホームメイド(国産)インフレ」であり、日銀の言う「第2の力」による物価上昇の高止まりである。

【国産インフレの進行で実質所得の減少は来年も続く】
 このまま政策転換をせず、マイナス短期金利とYCCを枠組みとする異次元金融緩和を続けていくと、国内の予想物価上昇率と賃金上昇率の高まり(日銀の言う「第2の力」)によるホームメイド(国産)インフレは続いて、物価上昇率は来年になっても2%を下回らないであろう。それによって、給料生活者や年金生活者など庶民の実質所得の減少は、3年目に入る。
 物価安定を使命とする日銀は、この事態をどう説明するのであろうか。