「平和と安全を考えるエコノミストの会」のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関する提言(H27.5.22)


鈴木淑夫が理事として参加している「平和と安全を考えるエコノミストの会」(Economists for Peace and Security、略してEPS)は、本日(5月22日)午後3時、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に関する提言を下記の通り公表した。



提言「日本のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加:中国の意図を見極めて検討せよ」

骨子

1. 中国が主導するAIIBは、途上国が中心になって自らのインフラ整備を進めようとするものであり、国際社会として歓迎すべき潜在性をもっている。中国がその拡大する経済力、金融力を多国間の枠組みの中でアジアのインフラ構築という国際公共財の目的のために用いるとすれば、それは望ましいからだ。
2. その一方で、中国はアジアにおける経済的・政治的な影響力を拡大させるための外交上の道具の一つとしてAIIBを利用しようとするのではないか、AIIBの設立を通じて世界銀行やADBなど既存の国際金融機関の秩序に挑戦するのではないか、といった懸念が持たれている。
3. 日本・米国からは、AIIBは公正かつ透明性の高いガバナンス(統治)を確保できるか、インフラ事業のもつ環境や住民・社会に対する影響に対しどこまで配慮するか(セーフガード)、債務の持続可能性などの面で国際的に確立したスタンダード(標準)に基づく組織運営を行えるか、といった問題点が指摘されている。
4. AIIBの設立協定交渉に参加してこなかった日本としては、57か国による交渉の結果に基づき、参加の是非を検討すべきだ。その際、重要な考慮点は以下の点である。
(1) AIIBはどのようなアジアつくりをめざすのか、その理念・ビジョンは日本の基本的な考え方と合致するか。とりわけ、中国はAIIBを通じて国際公共財を提供してアジア地域・国際社会の繁栄と安定に貢献しようとするのか、それとも地政学的な経済圏拡大など自国本位の経済・外交政策を追及しようとするのか
(2) 各国間のAIIBへの資金拠出シェアの配分はどこまでバランスのとれたものになっているか、中国など一国が過度の発言権をもたないか、日本が今後参加することでガバナンスやセーフガードのあり方に影響を及ぼせるほど大きな発言力を確保できるか
(3) 理事会は常設のものとなるか、それはAIIBの本部である北京に設置されるか、そしてそれは最大限の意思決定の権限を持ちうるか、とりわけ少なくとも主要な個別インフラ融資案件(及び理事会が重要だと認める案件)を審議し諾否を決定する権限をもつか
(4) AIIBはどこまで高い環境・社会基準をめざすか、その基準が国際的なスタンダードに満たない場合にはどのような方策で環境・社会リスクに対応するのか
(5) AIIBはどこまで世界銀行やADBなど既存の国際金融機関と協調融資(とりわけ、同じプロジェクトの融資額を一定の割合で分担する共同融資)を行う用意があるか
5. 日本は、同時にADBが打ち出しつつある改革を支援すべきだ。
(1) 事務手続きを簡素化して融資までの期間を短縮すること
(2) インフラ融資を拡大するために通常資本財源とアジア開発基金を統合したが、さらに増資も視野におくこと
(3) 新興国の経済力拡大を反映したかたちで加盟国間の出資金・発言権の配分を徐々に見直すこと
6. 日本はアジアのインフラ整備に大いなる責任を負う立場にある。中国が国際公共財の提供を重視する行動をとり、日本がAIIBの内部でそれをよりよい国際金融機関にできるのであれば、日本は参加すべきだ。そうでない場合には、AIIBの外部からAIIBがよい国際金融機関になるよう促していくべきだ。


本文

中国主導でつくられる予定のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー候補国として57か国が確定した。日本と米国は候補国入りを見送ったが、英国、ドイツ、フランス、イタリアをはじめとする欧州などアジア域外からも多数の諸国が加わった。これらの諸国はAIIB設立趣意の覚書(MOU)を結んだ後、設立協定の作成に向けた交渉に入っており、6月末までに設立協定を結び、2015年内の設立をめざしている。

資本金は最終的には1000億ドル(約12兆円)とし、出資比率や議決権の配分は基本的に各国の経済規模に応じて決まるとされる。中国が最大の出資国となり、本部は北京に置かれ、初代総裁ポストも中国が握るとされる。

AIIB設立に向けた動きは、膨大なインフラ投資を必要とするアジアの途上国の間で歓迎されている。しかし米国は、みずからが主導してきた国際通貨基金(IMF)や世界銀行を軸にした国際金融秩序に中国が挑戦していると受け止めている。歴代総裁をアジア開発銀行(ADB)に送ってきた日本も、AIIBの設立の動きに戸惑いを示している。

中国は同時並行的に、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカとともに、BRICS新開発銀行や緊急外貨準備アレンジメントの設立もめざしている。そしてIMFの特別引き出し権(SDR)に人民元を採用するよう働きかけを加速させている。世界金融危機を契機に、新興国の経済的なシェアが高まり、主要先進7か国(G7)だけでは世界の経済・金融問題に対処できず、新興国を含む20か国・地域(G20)が国際政策協調の場として重要な役割を果たすようになっている。こうした状況を反映して、国際金融システムも米国とG7を中心とした先進国が主導する体制から新興国も一定の役割を果たす多極化の方向に向かいつつある。AIIBの設立は、こうした変化を象徴する出来事だといえる。

中国はなぜAIIBを創設するのか?

中国がAIIBの創設に動いた理由として4点挙げることができる。第一に、アジアには膨大なインフラ需要があるが、世銀やADBなどの既存機関だけではアジアのインフラ需要を満たせないことだ。ADBは、2010年から2020年の間のアジアのインフラ需要を総額8.3兆ドル(996兆円)、年間7500億ドル(約90兆円)と見積もっているが、実際のインフラ投資額はこれよりもはるかに小さい。AIIBが新たに加わることで、より多くのインフラ資金を、途上国の視点から投入できる。

第二に、中国をはじめ新興諸国は経済力を高めてきたにも拘わらず、既存の国際金融機関で十分な発言権が与えられていない。既存の機関は欧米主導の枠組みであり、新興国がより多くの資本を拠出して発言力を高めようとしてもそれを阻まれてきた。たとえば、2010年に新興国の発言権強化で合意したIMF改革は、拒否権を持つ米国の議会が承認せず、いまだに実現していない。そのため、既存機関の内部で途上国の視点を重視した改革を行おうとしても限界がある。既存機関では、インフラ案件や融資基準が先進国の意向で決められがちであり、かつ融資の決定までに時間がかかり、必ずしも途上国のニーズや現実に合致していないと考える途上国も多い。

第三に、世界第二の経済大国になった中国は、みずから得意とするインフラ開発を通じてアジアの経済発展を主導したいという欲求をもっている。欧米諸国はIMFや世銀を主導し、日本は米国の支持の下でADBを主導しているが、中国は経済力・資金力が高まってきたにも拘わらず、みずからが主導する国際金融機関をもっていない。中国はAIIBを通じて、アジアのインフラ開発・経済発展で主導権をとれると考えている。

第四に、国内の成長力が鈍化する中国は、インフラビジネスや過剰生産物の輸出の増大、資源の確保などアジア全域に活路を求めており、かつアジアにおける経済的・政治的な影響力を拡大させようとしている。中国にとっての対外的な経済環境を強化し、二国間協力に加えて、多国間機関を位置づけようとしている。たとえば中国の「一帯一路」政策、つまり中国から欧州まで周辺国と共同で陸と海の二つのルートで交通インフラ網を整備する「シルクロード」構想実現のために、「シルクロード基金」とAIIBを補完的に利用しようとしている。

要するにAIIBは、中国がみずからの増大しつつある経済力・政治力に見合うかたちで、かつ多国間の枠組みで、アジアの経済発展を主導しようとする試みである。中国の経済規模は今後も着実に成長を続け、2030年前後には米国の経済規模と並び、いずれ追い越す可能性が高い。そうした中国はますます国際的な影響力を高めていくことになる。日本・米国をはじめとする国際社会は、こうした中国の台頭を直視して、その経済力と意欲を積極的に活用する方策を見出すべきだ。AIIBは建設的にみれば、途上国が中心になって自らのインフラ整備を進めようとするものであり、国際社会として歓迎すべき潜在性をもっている。中国がその拡大する経済力、金融力を多国間の枠組みの中でアジアのインフラ構築という国際公共財の目的のために用いるとすれば、それは望ましいからだ。長期的な観点からは、中国が国際的な標準・ルールに従った責任ある行動をとるよう促していくことで、その影響力を国際的な秩序に取り込むことをめざすべきだ。

こうした途上国自身による、途上国のためのAIIBの設立は、途上国の自助努力の現れとして歓迎すべきことだ。途上国自らが大半の資本金を拠出して、みずから債券発行を行い、インフラ整備を進めることは悪いことではない。その一方で、中国がAIIBを主導することで、それを自らの外交政策の道具にする可能性があることを指摘できる。中国はアジア(とりわけ中央アジアや南アジア)における経済的・政治的な影響力を拡大させるための手段としてAIIBを利用しようとするのではないか、AIIBの設立を通じて世界銀行やADBなど既存の国際機関の役割に挑戦するのではないか、といった懸念が持たれている。

AIIBを国際秩序に取り込む

設立協定交渉への参加を見送った日米は「AIIBは公正なガバナンス(統治)の確保、環境や社会に対する影響への配慮、債務の持続可能性などの面で国際的に確立したスタンダード(標準)に基づくことが重要だ」との認識を共有している。この考え方こそ、AIIBを既存の国際金融秩序の中に取り込んでいく具体的な方策だろう。日米はAIIBに関与して、ガバナンスや融資政策・基準が国際的な標準に近づけるようにしていくことが望ましい。

第一に、AIIBのガバナンスについては、基本的に議決権を決める現状の出資比率をある一定の想定の下で推計すると、中国の比率は30%近くと圧倒的に大きく、それに続くのはインド(8.3%)やロシア(6.4%)などで、中国に対抗できる国はいない(表の2013年データを参照のこと)。中国の出資比率は他の主だった国際金融機関(米州開発銀行を除く)での主要国の出資比率と比べるときわめて高い。例えば、IMFにおける米国の出資比率は17%、ADBにおける日・米の出資比率はそれぞれ16%程度である。これらと比べ、AIIBの現状は中国の意のままになる国際機関だと言わざるを得ない。

だが日本がAIIBの創設メンバー候補国に加わっていたとすれば、出資のバランスは変わっていたはずだ。日本の出資比率は11%となり、中国のそれは25%にまで下がる。したがって、日本は単独では中国と対抗できないが、欧州と組めば35%になり中国の比率を上回ることになる。つまり、日本が参加することで、日・欧連携を通じて中国の行動をある程度チェックできることになったはずだ。1 ただし、AIIB設立後に日本が参加する場合には、日本が11%の出資比率を確保できるかどうか明らかでない。他の国際金融機関の例にならえば、本来よりもはるかに低い出資比率で参加することになるはずで、十分な発言権は確保できない。

AIIBの組織運営・業務の透明性の問題については、たとえば世銀やADBは個々の融資案件を本部常設の理事会で決めることになっているが、AIIBは理事会を置くものの本部に常設とはせず、総裁の権限を強める方向だ。これにより、運営コストは削減できるが、融資案件や融資基準が中国の意向に左右される懸念が残る。AIIBの意思決定の透明性を高め、かつ業務や経営陣を効果的に監視するためには、やはり常設の理事会に大きな権限(とりわけ重要と認められる融資案件の決定権など)を与え、かつそれを本部に設けることが重要だ。

第二に、AIIBのインフラ事業に関わる環境基準や社会基準は明確でなく、融資を受ける途上国で乱開発が進んで環境悪化が深刻化したり、開発地域の住民の人権が脅かされたりする懸念がある。途上国を中心に組織されるAIIBは、世銀やADB並みの高い融資基準をもつ必要はないという考え方もあろう。しかし、途上国にとって環境面で持続的かつ社会的に包摂的な経済発展を進めていくことが喫緊の課題になっている今日、AIIBが極めて低い環境・社会基準の下でインフラ融資を進めることは問題だ。そうなれば、資金に色がない以上、いままで世銀やADBが維持してきた基準も崩れることになりかねない。AIIBは、各国にとってモデルとなるようなインフラ開発を支援することで、途上国の長期・安定的な経済発展につなげるべきだ。AIIBには原則として世銀やADB並みの環境・社会基準を求めることが望ましい。

その一方で、途上国の間には、世銀やADBの融資基準は厳しすぎるという声があるのも事実だ。実際、途上国が世銀やADBの厳格な環境・社会基準をクリアするには、制度・能力・資金の制約から難しい場合がある。そのため、途上国にとって本来望ましいプロジェクトでも、厳格な基準のために実現しないケースが生じうる。AIIBがこうしたギャップを埋めることに意味はあるが、その際、当該国の制度・能力を引き上げてより高い基準をクリアできるようにするための技術支援と組み合わせて事業を行うことが望ましい。AIIB内部に、技術支援を行うトラスト・ファンドを設置するなどして、対応すべきだ。

AIIBと既存の国際金融機関の間の協力を促すことも不可欠だ。世銀・ADBとAIIBが同時に資金を出す協調融資(とりわけ、同じプロジェクトの融資額を一定の割合で分担する共同融資)を進めることで、AIIBの基準が国際的なスタンダードを維持することにもなる。かつ世銀やADBは、資金を節約できる分、質の高いプロジェクト・パイプラインをさらに開発できるというメリットを受けることになる。

第三に、途上国が国際金融機関からインフラ事業のための借り入れを行うと、対外債務が積み上がる。問題は、途上国がみずからの債務負担能力を超えてAIIBから融資を受けることになると、世銀やADBなど他の金融機関への返済が滞るおそれが生じることだ。債務の持続可能性については、IMFが各国を横断的に分析している。AIIBはそうしたIMFの分析を利用することで、持続可能な範囲でインフラ事業を進めるべきだ。

日本はどう対応すべきか

日本は設立協定に向けた交渉には参加してこなかったが、仮に参加したとすれば、交渉の場で以上のような懸念や問題点を指摘し、AIIBがガバナンス、環境・社会基準などの点でしっかりした国際金融機関になれるかどうか判断することができたはずだ。その交渉の結果を踏まえて、最終的なAIIBの設立協定に署名するか否かを6月の時点で決断するというオプションをとりうる立場にもあった。 2日本の交渉不参加により、AIIBがどのような国際機関になるかは、日本を含まない57か国の交渉次第で決まることになる。

この現状を前提にして、日本はこれからどのような決断をすべきだろうか?米国の場合は、対中強硬派の多い米議会がAIIBへの出資を認める可能性は低く、参加は当面難しいものと思われる。しかし、AIIBはアジアの国際金融機関であり、地域の経済大国である日本が米国とは独自にアジアのインフラ整備のルールづくりに積極的に関与し、経済発展に貢献することは当然のことだろう。また東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国にとっては、中国は一国では対抗できない大国であり、日本の参加で中国の影響力が相対化され均衡が図られることが望ましい。つまり日本がこれらアジア諸国の協力相手として汗をかくことが日本の国際的信頼に結び付くことになり、逆に日本が不在のAIIBができれば日本の存在感は弱まる可能性がある。かつAIIBに参加することで、日本の企業がアジアのインフラ事業から締め出されないようにすることも重要だ。このように、日本がAIIBに参加することの意義には大きいものがあると考えられる。

その一方で、中国はAIIBを通じて何を実現させようとしているのか、その意図を見極めて検討することが重要だ。仮に中国が自国本位の政策を遂行しようとした時に、日本の参加によってそれをブロックしたり中国の影響力を相対化できるようなガバナンス構造になっているのかどうかを見定める必要がある。

日本としては、57か国による交渉の結果に基づいて、AIIBへの参加の是非を検討すべきだ。その際、重要な考慮点は以下の点である。
 AIIBはどのようなアジアつくりをめざすのか、その理念・ビジョンは日本の基本的な考え方と合致するか。とりわけ、中国はAIIBを通じて国際公共財を提供してアジア地域・国際社会の繁栄と安定に貢献しようとするのか、それとも地政学的な経済圏拡大など自国本位の経済・外交政策を行うのか
 AIIBへの資金拠出シェアの各国への配分はどこまでバランスのとれたものになっているか、中国など一国が過度の発言権をもたないか、日本が参加することでガバナンスやセーフガードのあり方に影響を及ぼせるほど大きな発言力を確保できるかどうか
 理事会は常設のものとなるか、それはAIIBの本部である北京に設置されるか、そしてそれは最大限の意思決定の権限を持ちうるか、とりわけ少なくとも主要な個別インフラ融資案件(及び理事会が重要だと認める案件)を精査し諾否を決定する権限をもつかどうか
 AIIBはどこまで高い環境・社会基準を設定するか、その基準が国際的なスタンダードに満たない場合にはどのような方策で環境・社会リスクに対応しようとするのか。たとえば、途上国の制度や能力強化のための技術支援が同時に供与される仕組みになっているか
 AIIBはどこまで世界銀行やADBなど既存の国際開発機関と協調融資(とりわけ共同融資)を行う用意があるか

要するに、中国が自国本位の政策を抑え、国際公共財の提供を重視することに価値を見出しそのための具体的な行動をとるのであれば、日本としても今後参加することを考えるべきだろう。日本が参加することでガバナンスが強化され、インフラ事業の基準や質が高まり、中国と国際社会との融合が進む可能性が高くなるからである。しかし、中国がAIIBを自国本位の国際金融機関として位置づけて利用しようとするのであれば、日本が参加してもガバナンスの透明化やインフラ事業の基準・質の引き上げは望むことができず、日本が参加することの意義は大きくない。3 この場合は、AIIBの外部からAIIBがよりよい国際金融機関になるよう、既存の機関(世銀やADB)とAIIBとの協調を促していくべきだ。

既存の国際機関の改革

第二次大戦後欧米中心で形成されてきた国際金融秩序は、アジアをはじめとする発展途上・新興諸国のニーズに充分に対応しきれておらず、様々な面で既存の国際金融機関の改革も必要になっている。

既存の国際機関は、融資能力の拡大や業務の効率化をめざすことが求められている。実際、ADBは2015年5月の年次総会でいくつかの方向を打ち出した。第一は、中所得国への融資を行う「通常資本財源」と低所得国への無償支援や超低利融資を行う「アジア開発基金」の大部分とを統合することで自己資本を厚くし、2017年には融資枠を現行の1.5倍の200億ドルに拡大することだ。第二は、従来2年近くかかっていた融資手続きの審査期間を、現地事務所の権限強化などで6か月ほど短縮させることだ。第三は、教育・保健分野への融資比率を高めていくことだ。第四は、民間金融機関との連携を深め、官民パートナーシップ(PPP)事業に共同で助言したり、協調融資を増やしたりする態勢を整えることだ。こうした動きは歓迎すべきものだ。今後はさらに増資も視野に置くべきだろう。

同時に既存の国際機関は、新興国の経済力の拡大に応じて発言権を調整していかないと、自らの正当性を問われることになる。まず米国はIMF改革の国内承認手続きを早く進めるべきだ。ADBも出資比率や議決権の見直しを始めるべきだ。

日本はアジアのインフラ整備に大いなる責任を負う立場にある。中国が国際公共財の提供を重視する行動をとり、AIIBがよい国際金融機関になるという兆候が見られるのであれば、日本は参加すべきだ。そうでない場合には、AIIBの外部からAIIBがよい金融機関になるよう促していくべきだ。同時に、中国に対して、アジア地域全体の繁栄と安定を目指す理念やビジョンを共有し実現させるという長期的な視野を持つよう迫っていくべきだろう。最後に日本は、AIIBに参加するか否かを問わず、アジアの経済秩序づくりに深く関わり、世銀やADBを通じてアジアにおける質の高いインフラ構築に貢献すると同時に、中国にルールに沿った行動を促していく役割を果たすことが期待される。

1 その一方で、日本が参加し、日欧(プラス・オーストラリア)の出資比率が中国のそれを上回ったとしても、日本と欧州が同一の歩調をとれるかどうか明確でないところもある。実際、英国はG7の結束から最初に離れ、経済的な誘因からAIIBへの参加を表明した。かつ、中国はロシア、イラン、中央アジア諸国およびその他の途上国と連携すれば、日欧豪の出資比率を上回るグループをつくることができる。そのため、日欧豪の先進国対アジアの途上国という構図になり、決して望ましくない状況が作り出されることも考えられる。つまり、日本が参加した場合、ある程度中国の行動にチェックをかけられようが、公正・透明なガバナンスを確立することや、高い融資基準を求めることが困難なものになる可能性も残されている。

2 設立協定に向けた交渉に参加するには、設立趣意の覚書(MOU)を結ぶ必要があったが、これは法的に拘束力のある文書ではない。しかし、設立協定(Articles of Agreement)は法的拘束力のある文書である。つまり、MOUを結んでも最終的な設立協定に署名する義務は発生しない。

3 これに対して、日本は設立協定を結んでひとまずAIIBに参加し、その後、中国が国際公共財の供給ではなく自国本位の政策を実現させるためにAIIBを使うということが確認された段階で脱退するという考え方もありえよう。しかし、この考え方はとるべきでない。というのは、設立協定は国際協定であり、かつ出資のためには国会の承認が必要とされることから、一旦加盟した場合は軽々に脱退すべきではないからだ。つまり加盟するにあたっては、半恒久的に脱退することはないという十分な確信をもつべきである。この点は、MOUの取り扱いとは異なる。