国内需要と輸出採算の見通し上方修正で、企業の業況判断は東日本大震災前の水準を上回る所まで回復(H25.10.1)
―9月調査「日銀短観」の注目点
【大企業製造業の「業況判断」DIは東日本大震災直前を上回ったが、リーマン・ショック直前よりはかなり低い】
本日(10/1)公表された9月調査「日銀短観」によると、9月時点の企業の業況判断は、3か月前の前回(6月)調査時に予測していた状況よりも上振れしている。
これを大企業について見ると、製造業の「業況判断」DIは、「良い」超12%ポイントと、前回調査時の予測(「良い」超10%ポイント)よりも上振れし、前回調査時の現状である「良い」超4%ポイントに比して、大幅に好転した。この水準は、東日本大震災直前のピークである10年9月調査の「良い」超8%ポイントを大きく上回る所まで回復したことになるが、リーマン・ショック前のピーク(04年6月同26%ポイント)よりは、まだかなり低い。
とくに「良い」超幅が大きく好転した業種は、土木建設関連の材木・木製品(39→48%ポイント)と窯業・土石製品(15→29%ポイント)、および消費・輸出関連の自動車(16→27%ポイント)である。住宅投資と公共投資の伸び、および自動車に対する内外需の立ち直りが、本年度の成長を支えている姿が反映されている。
【全規模全産業の「業況判断」DIはリーマン・ショック以来6年振りの「良い」超】
また大企業非製造業の「業況判断」DIも、「良い」超14%ポイントと前回調査時の予測(同12%ポイント)よりも上振れし、前回調査時の現状である同12%ポイントよりも好転した。しかし、この水準は、東日本大震災前のピークを上回っているものの、リーマン・ショック直前のピーク(07/6、同22%ポイント)よりは、まだかなり低い。
業種別に見ると、前回に比して好転幅がとくに大きいのは建設(「良い」超14→20%ポイント)と物品賃貸(同20→31%ポイント)で、前回に引き続き水準が高いのは不動産(同24%ポイント)、通信(同32%ポイント)、対事業所サービス(同25%ポイント)である。ここにも、住宅投資と公共投資の影響が見られる。
中堅企業、中小企業の「業況判断」DIについても、概ね同様の傾向が窺われる。その結果、全規模全産業を合計した「業況判断」DIも、9月調査は「良い」超+2%ポイントと、前回調査時点の「悪い」超-2%ポイントから大きく上振れして、07年12月調査以来ほぼ6年振りの「良い」超に転じた。
【業況判断の好転をもたらした売上計画の上方修正は、輸出よりも国内需要の見通し好転による面が大きい】
このような業況判断の好転は、3か月前の前回6月調査に比して、企業の売上高と経常利益の計画が大きく上方修正されたことと表裏の関係にある。
これを全規模全産業の合計について見ると、3か月前に比べて、本年度上期の売上計画は前年比+0.8%ポイント上方修正されて同+2.1%増、下期は同0.6%ポイント上方修正されて同+3.5%増となり、年度全体も同0.7%ポイント上方修正されて同+2.9%増となった。これを大企業製造業について国内と輸出に分けて見ると、国内の上方修正は上期+0.9%ポイント、下期+1.1%ポイントとやや加速しており、通期では+1.0%ポイントとかなり大きくなっている。これに対して輸出の上方修正は、それぞれ+0.5%ポイント、+0.4%ポイント、+0.4%ポイントと国内を下回っており、海外経済の見通しは国内経済の見通しほどには好転していないことを窺わせる。
以上のことから見て、業況判断を好転させた売上計画の上方修正は、輸出よりも国内の売上計画好転による方が大きく、それが非製造業や中堅・中小企業にも同様の傾向をもたらしていると見られる。
【収益計画も上方修正されたが、とくに大企業製造業の好転幅が大きい】
このような売上計画の上方修正を反映して、収益計画も各規模の製造業・非製造業で上方修正されたが、例外は中小企業製造業で、前回調査に比べ通期ベースで-2.6%ポイント下方修正され、+3.3%の増益にとどまった。また中堅企業非製造業は通期で1.0%ポイント上方修正されたものの、依然として-3.2%の減益にとどまっている。この二つのケースを除けば、各規模の製造業、非製造業で収益計画は上方修正され、増益幅は拡大したが、売上計画とは異なるのは、大企業製造業の収益計画の好転が目立ったことである。大企業製造業の経常収益の計画は、通期で前回比+8.0%上方修正され、増益率も+24%に達した。
この結果、大企業製造業の本年度売上高経常利益率は5.48%へ急上昇し、戦後最長景気のピーク(06年度6.76%)には及ばないものの、バブル期のピーク(89年度5.75%)に迫っている。
これは、前記の表に揚げたように、下期(前年度比+8.3%)を中心に輸出が回復するうえ、為替相場が企業の想定(前回調査1ドル=82.21円、今回調査1ドル=91.20円)よりも円安に振れているため、輸出収益が伸びていることによると見られる。
【「生産・営業用設備判断」と「雇用人員判断」は緩やかに改善、本年度設備投資は前年比+6.9%と小幅上方修正】
業況の好転を反映して、「生産・営業用設備判断」DIの「過剰」超幅はジリジリと縮小している。全規模全産業ベースで見ると、前回の「過剰」超5%ポイントから今回は同3%ポイントに縮小し、先行きは同1%ポイントと予測されている。
このような需給の緩やかな改善を背景に、本年度の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み土地投資を除く、全規模製造業・非製造業・金融機関合計)は前回調査比+0.8%ポイント上方修正され、前年比+6.9%増となった(前年度は同+4.3%増)。
他方、「雇用人員判断」DIは、全規模全産業ベースで、前回既に「不足」超-1%に転じていたが、今回調査では同-5%、先行きは同-8%と不足基調が拡大する予想となっている。ただし、「不足」超は各規模の非製造業であり、製造業では各規模ともまだ「過剰」超である(大企業・中堅企業は「過剰」超+4%、中小企業は+6%、全体で+5%)。
現実の雇用者数は、各規模製造業・非製造業・金融機関の合計で、13年6月末現在、前年比+0.7%となった。
【大企業製造業の「販売価格」DIが「上昇」超へ】
以上のような需給基調の緩やかな変化の中で、先行きの賃金・物価はどう変化して行くのであろうか。
残念ながら「短観」には、「賃金」の調査項目が無い。
「物価」については、「販売価格判断」と「仕入価格判断」の調査があるが、前者は「下落」超、後者は「上昇」超の強いバイアスを持つ。しかし、そうした中でのトレンドの変化に注目して行くと、大企業非製造業の「販売価格判断」DIが、前回の「下落」超-2%から今回は「上昇」超1%に変わり、先行きは「上昇」超2%となっていることが注目される。これがデフレ脱却の兆しかどうか、今後の調査に注目していきたい。