予測・計画を中心に徐々に出てきたアベノミクスの好影響(H25.7.1)
―6月調査「日銀短観」の注目点

 本日(7/1)公表された6月調査「日銀短観」によると、業況判断、売上・収益計画、設備投資計画など、予測や計画を中心に、3か月前の3月調査に比べて、アベノミクスのポジティブな影響が徐々に出てきているように見える。
 しかし、生産・営業設備判断と雇用人員判断では、非製造業は「不足」超となってきたものの、製造業では引き続き「過剰」超が改まっていない。製品需給もなお「供給超過」の状態にあり、デフレ脱却の目途は見えない。

【「業況判断」は一斉に好転】
 まず「業況判断」DIは、各規模企業の製造業と非製造業で、一斉に前回(3月)調査比大きく好転しており、とくに大企業製造業は2011年9月調査以来1年9か月振りに「良い」超に転じ、また大企業と中堅企業の非製造業は「良い」超幅を拡大した。
 前回調査比好転幅の大きい業種は、製造業では鉄鋼、非鉄、金属製品、窯業・土石、各種機械、造船・重機等であり、非製造業では建設、不動産、運輸・郵便、宿泊・飲食サービスである。大規模建設投資、住宅投資、公共投資、家計消費などの立ち直りを反映しているように窺われる。


【物価の下落幅は徐々に縮小する見込み】
 国内における製造業の「需給判断」DIを見ると、依然として「供給超過」の状態にあるが、その幅は昨年12月調査をピークに徐々に縮小している。
 また製造業の「販売価格」DIも、依然として「下落」超であるが、その幅はやはり昨年12月調査の「下落」超幅が最大であり、その後急速に縮小し、大企業では先行き下落がほとんど止まる(「下落」超は-1)と見ている。
 他方、製造業の「仕入価格」DIは、円安を反映して急速に「上昇」超幅を拡大している。
 総じて見れば、国内需給の緩和基調の後退と円安による輸入物価の上昇を反映して、期待インフレ率はジリジリと高まっているように窺われるが、まだプラスに転じるとは予測できない。


【本年度売上計画は内外需共に上方修正】
 本年度の売上計画は、各規模の製造業と非製造業で前回調査よりも上方修正され、全規模全産業の合計で前年比+2.2%となった。これは前年実績(同+0.6%)を上回り、3か月前の前回調査よりも1.1%上方修正されている。
 本年度の増加率も上方修正率も、製造業の方が非製造業よりも大きい。大企業製造業によって内外需の内訳を見ると、国内売上高は2.0%上方修正されて前年比+3.4%、輸出売上高は1.9%上方修正されて前年比+6.1%となった。伸び率は外需の方が内需よりも高いが、上方修正の幅は両者がほぼ等しく、内外需の見通しが揃って好転していることを示している。
 また本年度の売上高を上期、下期に分けて見ると、下期に向かって加速しているが、下期の上方修正率は国内が2.4%と輸出の2.2%をやや上回っている。下期の売上高加速は、米国景気の立ち直りと円安による輸出の改善だけではなく、消費税率引き上げ前の駆け込みも含め、国内需要の回復に期待しているように窺われる。


【本年度の売上高経常利益率は東日本大震災直前の水準を上回る見通し】
 このような売上計画の大幅上方修正と円安に伴い、経常利益の計画も、大企業製造業を中心に3か月前の前回調査に比べ大きく上方修正された。
 すなわち、本年度の経常利益計画の前年比は、大企業製造業で+17.9%上方修正されて前年比+14.6%の増益、全規模全産業で+6.1%上方修正されて+5.2%の増益となった。
 これに伴い本年度の売上高経常利益率の計画も、大企業製造業で5.11%、全規模全産業で3.76%となった。これは、東日本大震災直前の水準を上回り、リーマン・ショックで経済が失速する直前の2004~2007年度の水準に次ぐ高水準である。



【本年度設備投資は前回調査の微減から+6.1%の増加に修正】
 本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く。製造業・非製造業・金融機関の合計)は、前回3月調査では前年比-0.2%と微減の計画であったが、3か月後の今回6月調査では、同+6.1%とかなり上方修正された。これは、製造業、非製造業、金融機関が一斉に上方修正した結果であるが、とくに中小企業製造業は前回調査に比べて+14.5%上方修正し、前年度の前年比-6.1%から本年度は同+17.1%と大きく変わった。
 背後にある「生産・営業用設備判断」DIを見ると、全規模ベースで見て、製造業はまだ12%ポイントの「過剰」であるが、非製造業は「過剰」「不足」トントンの0%ポイントとなり、先行き-2%ポイントの「不足」に変わろうとしている。
 「過剰」は徐々に縮小しているものの、「不足」に転じるのは非製造業で、製造業は当分「過剰」のまままの見込みである。従って、本年度の製造業の設備投資増加の内容は、能力増加よりも、新製品開発や合理化を目的にした計画と見られる。

【製造業は引き続き人員過剰、非製造業は徐々に人員不足拡大】
 最後に「雇用人員判断」DIを見ると、製造業ではなお「過剰」の状態で、その幅が徐々に縮小しており、非製造業では小幅の「不足」で、先行きは「不足」が拡大する見通しとなっている。
 本年3月末の雇用者数は、製造業・非製造業・金融機関の合計で前年比+0.6%の増加となったが、格別増加率が加速する気配は見られない。
 また、同じベースの本年度新卒採用計画は、前年比+5.0%増の計画と12年度の同+7.0%増の実績よりは増加率がやや鈍化した。また、14年度の計画については、金融機関が同+9.8%の大幅増員計画を持っているが、全体は-1.8%の減少となっている。
 目先、本年度下期までの景気上昇加速は見込んでいるものの、14年度以降については、企業は判断をためらっているように見える。