3月調査「日銀短観」とアベノミクス
―企業の経済回復見通しのテンポは緩やか、投資行動は意外と慎重、金融機関にはやや動意 (H25.4.1)
【業況判断の改善は事前の予想よりも緩やか】
本日(4/1)公表された「日銀短観(3月調査)」によると、企業の業況判断や13年度売上・収益計画は揃って改善の傾向を示しているが、その好転幅は緩やかである。
まず製造業の「業況判断DI」は、大企業で「悪い超」幅が前回の-12から-8に縮小したが、中堅、中小企業では逆にやや拡大した。もっとも、前回12月調査の先行き予想に比べれば各規模企業とも「悪い超」幅が縮小しているし、先行きについても揃って現状より「悪い超」幅は縮小する予想である。これらのことから判断すると、アベノミクスが打ち出された影響もあって業況判断は前回12月時点で考えていたよりも良くなっており、今後も良くなると見られているが、そのテンポは大方の予想よりも緩やかである。
業種別に見て好転が目立つのは、円安の恩恵を大きく受けている自動車で、前回の「悪い超」-12、先行き「同」-10から、今回は「良い超」10へ大きく好転した。
次に非製造業は、大企業が「良い超」6、中堅企業が「同」4と好転したが、とくに改善が著しいのは、不動産と対事業所サービスである。超金融緩和下の不動産の動きとやや動意を示す企業活動を反映していると見られる。
【13年度を通じて売上増加率は高まる計画ながら、増加率の水準は低い】
2013年度の売上計画と見ると、12年度下期まで前年を下回っていた売上高は、13年度上期から前年を上回り始め、下期には上期に比して前年比上昇幅が更に拡大する計画である。
この改善傾向は、国内向けと輸出、製造業と非製造業、各規模企業に共通して見られるが、とくに著しいのは、世界経済の立ち直りが本格化してくると見ているためか、大企業製造業の今年度下期輸出である(13年度下期の前年比+4.3%)。また、円安などアベノミクスの影響が大きいためか、製造業の方が非製造業よりも改善幅が大きく、伸び率も高い(下表参照)。
なお、13年度の売上高増加計画(前年比、製造業+1.2%、非製造業+0.9%、全体+1.0%)は、12年度(同-0.5%、+1.3%、+0.7%)を製造業と全体で上回っているものの、10年度(全体+4.5%)や11年度(同+1.5%)よりはまだ低い。
【13年度の売上高経常利益率はほぼ10年度並みまで回復】
経常利益は、大企業製造業を中心に、12年度下期に大幅な増益に転じ、13年度は非製造業や中堅・中小企業の改善も加わって、上期、下期を通じて増益幅を拡大する計画である(下表参照)。
この結果、11年度、12年度と低下した売上高経常利益率は、13年度に再び上昇に転じ(全規模全産業で3.58%)、ほぼ10年度(同3.6%)並みに回復する見通しである。
【13年度の大企業の設備投資計画は慎重】
13年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、全規模の製造業・非製造業・金融機関の合計で前年比-0.2%にとどまっている(12年度の前年比は+5.4%)。これは、金融機関が前年度の+2.0%から本年度は+11.3%と大きく増加するにも拘らず、中小企業非製造業が計画未定の企業が多いため+27.1%から-9.3%に落ち、また大企業もアベノミクスの実体経済への効果を見定め難いためか、前年度の+4.7%から本年度は-0.5%にとどまっているためである。
今後、アベノミクスの展開を見て、大企業の設備投資計画がどう動くかによって、13年度の経済動向は大きく左右されることになろう。因みに、「生産・営業用設備投資判断DI」は、「過剰超」のままほとんど変らずに推移している(全規模製造業14→14、同全産業6→6)。
「雇用人員判断DI」は、製造業・非製造業の全規模合計で、前回の「過不足」ナシから「不足超」-1となり、先行きは「同」-2となる。労働力の需給は、極めて緩やかながら引き締まる方向へ動いている。
【金融超緩和の影響は徐々に浸透】
超金融緩和の影響は全規模全産業で、「金融機関の貸出態度判断DI」が、前回の「緩い超」9から今回は同10に変わり、「借入金利水準判断DI」が「低下超」-7から-8へ変わり、「CPの発行環境判断DI」が「楽である超」2から3に変わるなど、揃って企業金融緩和の方向へ僅かに動いている。
また金融機関の「業況判断DI」は、前回の「良い超」2から今回は同20と大きく好転した。株高など経営環境の好転によるものと見られる。前述のように、金融機関の13年度設備投資計画が前年比+11.2%と大きく増加することと合わせて考えると、アベノミクスは取り敢えず金融機関の行動にはかなり前向きの影響を与えているように見える。