政権交代に思う (H24.12.29)
―2012年の年末所感と2013年への希望
【全有権者の16%、投票総数の28%の支持で単独過半数となった自民党】
2012年12月16日の第46回衆議院議員選挙の結果、自民党が294議席を獲得し、公明党が得た31議席と合わせて衆議院定数480の3分の2(320)以上を確保した。参議院では自民・公明を合わせても過半数に達しないが、参議院で否決された法案でも衆議院の3分の2以上の賛成で再可決すれば、成立する。実際にそうするかどうかは状況によるが、自公はその態勢を整えたことになる。
12月26日に召集された特別国会で民主党・国民新党の野田佳彦内閣は総辞職し、新たに自民党・公明党連立による第2次安倍晋三内閣が発足した。
既に多くの人が指摘しているように、今回総選挙における自民党圧勝と民主党惨敗は、前回の民主党支持票が今回の自民党支持票に戻ったからではない。自民党が獲得した比例得票数は、全有権者の16%、投票総数の27.7%に過ぎない。この自民党得票数(1635万票)は、1996年の小選挙区比例代表制が始まって以来、第一党となった党の獲得票の中で最低である(最高は2009年8月の民主党2984万票)。
【新しい自民党は旧自民党とそれを否定した民主党の双方を更に否定し新しい境地を拓くことが出来るか】
このような結果になった主因は、民主党に失望したものの、自民党は支持しない人が、①大勢棄権し、投票率が戦後最低の59.3%(前回2009年は69.3%)に落ち込んだこと、②民主党、自民党以外の第3極に投票したが、第3極が多党化したために票が分散し、相対的に自民党が有利になったこと、の2点である。
従って安倍政権は、決して驕ることなく、2009年以前の自民党政権を深刻に反省し、また3年間の民主党政権の失敗を反面教師として、新しい自民党政権を創らなければならない。そうしなければ次回の総選挙で再び惨敗することにもなりかねないであろう。
辯証法でいう「テーゼ」(旧自民党政権)、「アンチ・テーゼ」(民主党政権)、「ジンテーゼ」(新自民党政権)であり、元に戻るのではなく、「否定の否定」による「止揚(アウフへーベン)」が、いま自民党に求められているのである。
【安倍政権のマクロ経済政策とその指令塔はかなり明白】
3代に及ぶ民主党政権は、多くの失敗をしたが、その中の一つとして、マクロ経済政策についての党内の合意が確立せず、またその指令塔である国家戦略室も「局」に格上げされないままほとんど機能していなかったことが挙げられる。そのため民主党政権のマクロ経済政策は市場に信頼されず、また企業の先行き不透明感は改まらなかった。
これに対して、今回安倍首相が打ち出した「アベノミックス」は、その是非は別として、内容はかなり明確であるため、市場は直ちに円安・株高方向に反応した。
また指令塔も、マクロ経済を担当する経済財政諮問会議(首相・経済関係閣僚・日銀総裁・民間議員)を復活させ、またミクロ経済を担当する日本経済再生本部(首相・全閣僚・有識者)を新設し、その下に産業競争力会議(関係省庁・有識者)を置き、全体を甘利経済再生担当相が総括するなど、少なくとも指令塔の形は整った。
【マクロ経済政策で民間有識者を使うことにトラウマがあった民主党】
民主党は小泉首相のバックアップを得て経済財政諮問会議で活躍した竹中平蔵氏の新自由主義を厳しく批判してきたため、民間有識者を加えたマクロ経済政策の指令塔そのものも、政治主導に反するとして退け、経済財政諮問会議を休眠状態にした。そのため、マクロ経済政策がはっきりせず、指令塔もあいまいとなった。
私は2011年に菅直人氏に面会した際その事を指摘したが、彼は「竹中批判がトラウマとなって、民主党の中ではマクロ経済政策の立案で民間有識者を使うことに抵抗感があるのだ」と述べていた。しかし、これは民間有識者を使わなくとも、自分達政治家でマクロ経済政策をやれるという一種の驕りである。このために、民主党政権の3年3か月は、マクロ経済政策が不明確となり、市場に横を向かれ、企業に信頼されなかったといえよう。
【2013年は安倍政権のお手並み拝見の年】
安倍政権は、経済財政諮問会議を復活させ、そこに4人の民間有識者を入れることを決めた。4人のうち2人は、日本経済の現状を熟知した新感覚の現役経営者(東芝の佐々木則夫社長、三菱ケミカルHDの小林喜光社長)であり、あとの2人は高橋進氏(日本総研理事長)、伊藤元重氏(東大教授)というバランスのとれたエコノミストである。
あとは、この器が本当に機能するかどうかである。日本経済再生のためには、需要側では①金融政策に頼りすぎず、中期的財政再建計画に縛られない機動的な短期財政出動、供給側では②規制緩和、EPA・FTA網拡大、財政措置などによる成長産業中心の生産性の向上、③女性・高齢者の就業率引き上げによる就業人口の増加、の3点が最も重要である。
民主党政権にも成長産業を育てる政策はあったが、実を挙げることは出来なかった。安倍政権は、掛け声だけではなく、本当に上記①~③を実現出来るのか、2013年が楽しみである。
また財政出動、とくに公共投資の増加は、政治家の利権と結び付き易い。利権がらみの旧自民党政権に戻らないかも、2013年の見所である。