野田佳彦総理に政策提言を手渡し懇談(H24.6.6)
―「平和と安全を考えるエコノミストの会」を代表して


【改革実現の戦略的基盤は持続的経済成長】
 本日(6/6)午後、「平和と安全を考えるエコノミストの会(EPS)」を代表し、河合正弘、宮崎勇、早房長治と私の4人が野田佳彦総理大臣と総理官邸で面会し、「日本経済の再生は可能だ:大震災と高齢化・人口減少を乗り越えて」と題する提言を野田総理に手渡し、15分間懇談した。
 この提言全体の目次と主な提言内容は下記の通りであるが、その主要点を簡単にまとめれば次の(1)~(8)のようになろう。
(1)政府が直面している主な経済的課題は、大震災からの復旧・復興を別とすれば、①社会保障と税の一体改革、②TPP加盟交渉、③停止原発再稼働であるが、この①~③については、基本的に推進すべしとの立場をとっている。その上で、これらの課題を実現するための戦略的、長期的基盤は、持続的な経済成長であることを強調して、「2.持続的な経済成長に向けて」に提言書全体の3分の1以上を割いている。

【全要素生産性(TFP)を引き上げる諸施策】
(2)成長率引き上げのためには、ICT(情報通信技術)投資加速による技術革新の促進、無形資産(知的財産、人的資本、組織価値の包括的資産)投資の促進、有望な独立系企業の参入促進のための規制緩和・法人税の損金算入期間の延長・M&A市場活性化、FTAの促進、労働市場改革などによる技術革新の加速を具体的に提案し、その成長率引き上げ効果の試算を紹介している。
(3)女性、健康な高齢者の労働参加率を高め、また技能を持つ外国人労働者を積極的に活用することも、成長率引き上げにとって大切であると主張。
(4)具体的な発展産業としては、低炭素指向型エネルギー・環境関連産業(グリーン産業)、高齢者をターゲットにしたシニア産業、農業の活性化などを挙げている。
(5)震災からの復旧・復興も、新しい発展産業を育てるためのビッグプッシュとしてとらえるべきだと主張。

【消費増税、TPP、原発再稼働への提言】
(6)①社会保障と税の一体改革の必要性を十分に認めた上で、消費税引き上げに際しては景気に十分な注意を払い、景気が弱い時は1%ずつ小刻み引き上げて様子を見るなど持続的成長を崩さないよう慎重な配慮も必要と指摘。
(7)②TPP加盟交渉は、そこで締結されるハイレベルの貿易自由化・投資協定・知的財産の保護などのルールを、将来的には、ASEAN+3、+6にも広げ、最終的にはハイレベルのルールを持つアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を目指すべきだと主張。
(8)性急な脱原発政策をとるのではなく、十分な安全性が確保された停止原発から再稼働することは、再生可能エネルギーの限界、火力発電の温室効果ガス排出、原発の安全性強化の技術・知見の国際的共有などの観点から考えて、短中長期的には妥当である。しかしその場合地域住民に対して原発の安全性に関する情報の透明性を高め、また原子力規制委員会(ないし庁)の独立性を高めるなど、管理システムの強化が必要。


当日の模様はこちらから



Ⅰ.提言の目次

日本経済の再生は可能だ:大震災と高齢化・人口減少を乗り越えて

1.はじめに:経済成長が必要な日本

2.持続的を経済成長に向けて
(1)GDPギャップの解消
(2)必要な労働生産性の上昇
(3)新たな成長市場の開拓
(4)日本経済のさらなる国際化:TPPと新興アジア連携
(5)経済成長に向けての提言

3.東日本大震災の衝撃と被災地の復旧・復興
(1)日本の経済社会への衝撃
(2)復旧・復興のための財政支援
(3)被災地の復旧・復興
(4)被災地の復旧・復興に関する提言

4.社会保障と税の一体改革
(1)財政破綻を回避するために
(2)持続的な社会保障制度の確立を
(3)消費税率の引き上げと財政再建
(4)社会保障と税の一体改革に関する提言

5.エネルギー政策
(1)新たなエネルギー政策の展望
(2)再生可能エネルギーの普及拡大
(3)効率的な電力システムの構築
(4)電力・エネルギー改革に関する提言

6.大規模災害に強靭なリスク管理システムの構築
(1)統一的、包括的なリスク管理システム
(2)原発事故のコスト負担
(3)アジアでの地域協力
(4)災害・事故リスク管理に関する提言

7.まとめ:東日本大震災からの復興を経済再生の契機に


Ⅱ.主な提言

(1)持続的な経済成長に向けて
• 日銀は、デフレや急激な円高解消のために、より積極的な非伝統的金融政策を採用し続けよ
• 労働生産性の向上と労働参加率の拡大に寄与する政策を打ち出せ
• 低炭素型「グリーン産業」と高齢者向け「シニア産業」を育成せよ
• 農業の生産性向上のために、「戸別所得補償制度」を改め、経営規模拡大と離農を目指す農家にターゲットを絞るよう改めよ
• TPPの交渉に参加し、日本国民の利益を守るかたちでアジア太平洋地域の貿易・投資のルールつくりに影響力を及ぼせ。そのためのネックになっている農業改革を断行せよ。
• 日・中・韓のEPAを結び、ASEAN+6の枠組みで東アジア広域的なEPAつくりをめざし、将来的にはTPPと結合してアジア太平洋地域大での経済圏つくりに努めよ
• 国家戦略会議を経済政策運営のための中核的な司令塔にせよ

(2)被災地の復旧・復興を迅速に進めるために
• 政府は郵政民営化法改正によって可能になる郵政株の売却を行って、復興財源の税外収入部分を拡大させよ
• 復興庁に強い権限と独立性を与え、「復興特区制度」が被災自治体にとって使い勝手のよいかたちで運用でき、短期間で効果的な復興が行える態勢にせよ
• 被災自治体は全国の他の地域にとって、新たな地域振興のモデルになるような革新的な復興事業を興せ

(3)社会保障と税の一体改革を断行するために
• 日本発のソブリン債務危機を回避するために、危機感を国民全体で共有できるようにし、「社会保障と税の一体改革」の第一歩を踏み出せ
• 社会保障の負担と受益のバランスを考慮し、現役世代への過大な負担を避けよ。安心できる持続的な社会保障制度を構築するために、制度改革のための国民会議を設けて幅広い合意形成を図れ
• 消費税率を10%に引き上げて、それをすべて社会保障の目的に使うことを制度的に担保せよ。ただし消費税率10%では財政再建は見込めないことから、将来的には少なくとも18%までの引き上げを視野に入れて検討を開始せよ
• 消費税引き上げにあたっては経済情勢を的確に判断すべきだが、厳格な景気弾力条項を適用すべきでない。ただし、景気が弱いときには、税率を毎年1%づつ引き上げるなどの方策を考慮にいれるべきだ
• 社会保障・税の共通番号(マイナンバー)制の導入に全力を挙げ、歳入庁を設置せよ。消費税率が8%になったときに導入する簡素な給付措置は、生活保護世帯およびそれ以下の生活水準にある所帯に限れ。消費税率が10%以上になる時点で、共通番号制度が効果的に機能していないときには、一時的に軽減税率の導入を検討せよ

(4)安全・効率的・安定的な電力・エネルギー源を確保するために
• 長期的に「脱原発依存」をめざして、再生可能エネルギーを主要エネルギー源・電源とすべく、政策を強化せよ
• 短中期的には性急な「脱原発政策」をとるのではなく、原発の再稼動は十分な安全性が確認されたものを優先して進め、老朽化した原発は安全性の高いことが証明された新型炉に更新することも視野に入れよ
• 原発の安全性に関する透明性を高めるために、フランス型の「地域情報委員会」を導入して情報公開を徹底し、地域住民を安全性の策定に参画させよ
• 発送電分離や地域独占の見直しを行い、オープンで競争的な電力市場を構築せよ
• 原子力規制委員会ないし規制庁は、独立性の高い第3条委員会方式で設置せよ

(5)大規模災害・事故リスク管理強化のために
• 国内において、大規模・複合的な過酷災害・事故に対処できるよう、「日本版FEMA」をつくり、包括的な大災害・事故リスク管理システムを導入し、防災・減災・災害対応の世界的なトップランナーになれ
• アジアにおける災害リスク軽減のための国際協力体制を強化せよ
• 今回の震災と原発事故から十分な教訓を学び、複合的な大規模災害・事故リスク管理の重要性や復興に関する知見をまとめて国際社会に発信せよ