景気立ち直りのテンポは遅い―3月調査「日銀短観」のメッセージ(H24.4.2)


【「業況判断」は総じて横這い】
 本日(4/2)公表された3月調査「日銀短観」によると、原油など輸入原材料高による素材業種の収益圧迫、およびユーロ圏などの景気悪化と2月初めまでの円高による輸出業種の売上減退から、製造業の業況判断が好転せず、復興需要に伴う非製造業の業況好転もさして大きくないことから、全体として足許の景気回復は事前の予想よりも緩やかであることが明らかとなった。
 まず「業況判断」DIを見ると、大企業製造業は−4%ポイント(以下%ポイントは省略)の「悪い」超と12月調査と変わらず、先行きは−3と引き続き「悪い」超のままで僅かの好転しか見込まれていない。このうち素材業種は、化学、鉄鋼、非鉄金属などを中心に、12月調査の−6の「悪い」超から−11の「悪い」超に大きく悪化した。
 他方、大企業非製造業は、+5の「良い」超と12月調査より1ポイント好転したが、先行きは更に好転せず、+5のまま横這いの予想である。

【原油高騰による収益圧迫と世界景気停滞・円高による輸出減少】
 このような「業況判断」の背景を探ると、大企業の素材業種では、「仕入価格判断」DIの「上昇」幅が、12月調査の+10から今回は+19に上昇し、更に先行きは+25と更に上昇している。このため、大企業素材業種の経常収益の前年同期比は、11年度上期の+28.3%から下期に−30.7%に急落し(前回予想比−23.4%の下方修正)、12年度上期も−29.8%と予想している。
 しかし、このような原油高騰は、さすがに頭を打つと見ているためか、12年度下期の経常収益は+22.7%の予想となっている。
 次に大企業製造業の輸出の前年同期比を見ると、前回調査では11年度上期の−4.7%から下期は+4.4%の増加に転じると見られていたが、今回調査の11年度下期は−6.8%も下方修正され、−2.4%となった。2月初までの想定外の円高の影響と、ユーロ圏のソブリン危機に伴う景気停滞、中国など一部アジア諸国の景気減速の影響と見られる。
 しかし、12年度については、最近の円高修正や米国、中国などの減速底打ちを反映して、上期は+0.3%、下期は+4.1%と徐々に回復に向かう予想となっている。

【売上、収益の立ち直りは緩やか】
 このような輸出の立ち直りと、国内の復興需要の下支えによって、12年度の大企業製造業の売上高と経常利益は+2.0%の増収、+0.6%の増益と、前年度の夫々+0.4%、−17.9%からは立ち直る予想となっている。
 他方、大企業非製造業の売上高は、既に復興需要の恩恵を受けているため、11年度に前年比+2.6%の増収となったあと、12年度には+1.5%の増収に鈍化する予想となっている。
 また、各規模企業の製造業と非製造業を合計すると、11年度の売上高は前年比+1.5%の増収、12年度は同+1.4%の増収と増収率はほぼ横這いの見込みであり、景気回復が加速する形とはなっていない。ただし収益ベースでは、経常利益の前年比が前年度の−9.4%の減益から本年度の+2.1%の増益に変わって利益の減少傾向は下げとまり、当期純収益ベースでは、−3.0%減益から+20.9%増益へと大きく好転する計画となっている。

【本年度の設備投資は小幅増加の計画】
 次に設備投資の計画(ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)を見ると、全規模製造業・非製造業と金融機関を合算したベースで、前年度の前年比+2.3%増から12年度は+1.6%増へ増加率はやや鈍化する計画となっている。
 本年度の計画を上期と下期に分けて前年同期比を見ると、上期が2桁の増加率となっているのに対し、下期は逆に2桁の減少率となっている。このことからも分かるように、3月時点では翌年度の下期の計画はまだ固まっていない企業が、中小企業を中心に少なくない。従って、本年度の計画は今後の景気の推移に依存して変化すると見られる。
 背後にある「生産・営業用設備判断」DIを全規模製造業・非製造業の合計について見ると、「過剰」超幅は前回+6、今回+5、先行き+5とほとんど横這いで、過剰の解消は遅れており、能力増強投資のニーズは少ないと見られる。

【雇用改善は遅々としている】
 最後に雇用状況を見ると、全規模全産業の「雇用人員判断」DIの「過剰」超幅は、前回+2、今回+1、先行き+1と、過剰の幅は小さいものの、改善は遅々としている。
 全規模全産業に金融機関を合算した現実の雇用者数の前年比を見ると、11年3月末−0.7%、6月末0.0%、9月末+0.1%、12月末+0.7%と徐々にではあるが増加に転じている。