国内を基盤とする非製造業や中小企業は好転、海外依存度の高い大企業製造業は悪化(H23.12.16)
―12月調査「日銀短観」のメッセージ
【製造業と非製造業、大企業と中小企業に対照的な変化】
昨日(12/15)公表された「日銀短観」は、製造業と非製造業、大企業と中小企業で業況の変化方向が異なるという珍しい結果となった。
前回(9月)調査よりも、「業況判断」「下期売上高計画」「雇用人員判断」などが悪化しているのが大企業・製造業で、好転しているのが中小企業や非製造業である。
これは、大企業製造業は輸出依存度が高く、事業の海外展開も多いので、ユーロ圏の財政金融危機と景気後退気配、米国の経済停滞と新興国の成長減速、対米ドル・ユーロの円高定着、タイの洪水被害などの悪影響を強く受けたこと、他方国内依存度の高い非製造業や中小企業は、東日本大震災からの立ち直りの好影響を強く受けていること、によるものと見られる。
【大企業製造業の業況は悪化、各規模非製造業の業況は好転】
個々の指標を見ていくと、まず「業況判断DI」では、大企業製造業が前回調査比6%ポイント悪化して−4%ポイントと「悪い」超に陥った。製造業の中で悪化が著しい業種は、電気機械をはじめとする各種の機械と非鉄金属などの素材である。逆に大きく好転した例外的ケースは、大震災に伴う被災やサプライ・チェーン寸断から立ち直った自動車で、前回調査比7%ポイント好転して20%の「良い」超となった。
他方、各規模の非製造業の「業況判断DI」は揃って前回比好転し、非製造業全体では5%ポイント好転して「悪い」超の−7%まで改善した。また中小企業は製造業、非製造業共に前回比それぞれ3%ポイントと5%ポイントイ好転した。
非製造業で好転の著しい業種は、宿泊・飲食サービス、対個人サービス・対事業所サービス、通信、物品賃貸など復旧復興がらみのサービス業が中心である。
また中小企業の製造業で好転が大きいのは、窯業・土石、木材・木製品、鉄鋼など復旧関係の資材である。
【売上高と経常利益の計画も製造業が下方修正、非製造業が上方修正】
本年度下期および本年度全体の売上高計画は、各規模製造業が前回調査比下方修正、各規模非製造業が同上方修正となり、全体としては下期が0.2%ポイントの下方修正で前年比+3.8%、年度全体が0.1%ポイントの下方修正で前年比+1.9%と大きな変化はない。
しかし、業種別にみると、下期の製造業は−1.3%ポイントの下方修正で前年比+6.1%に低下、非製造業は+0.3%ポイントの上方修正で前年比+2.8%に上昇と対照的な動きを見せている。
とくに下方修正が著しいのは、大企業製造業の輸出計画で、下期は前回調査比−3.6%ポイントの下方修正で前年比+4.8%に低下、年度全体では−2.7%ポイントの下方修正で前年比−0.4%の減少に転じた。
このような売上高計画の下方修正に伴い、本年度の経常利益計画は、各規模製造業と大企業非製造業で下方修正されたが、中堅企業と中小企業の非製造業では上方修正され、増益それぞれ2.3%、10.3%の計画となった。
【設備投資も製造業と非製造業は逆方向の修正】
次に本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資額を除く)は、製造業・非製造業・金融機関の合計で前回調査比−0.6%ポイント下方修正され、前年比+3.9%となった。
業種別にみると、製造業が−2.5%ポイントの大幅な下方修正、金融機関が−0.2%ポイントの小幅下方修正、非製造業は中堅・中小企業を中心に+0.6%ポイントの上方修正となった。
「生産・営業用設備判断DI」は、製造業ではほとんど変化はないが、非製造業では徐々に「過剰」超幅が縮小しており、とくに大企業非製造業では先行き判断が現状より2%ポイント「不足超」に振れ、久方振りに−1%の「不足超」に転じた。
【非製造業に雇用人員不足の走り】
最後に「雇用人員判断DI」を見ると、製造業では前回調査に比して「過剰超」が2%ポイント増えて8%となったが、非製造業では逆に「不足超」が2%ポイント増えて「不足超」の1%に転じた。
規模別にみると、中堅企業と中小企業の非製造業は今回調査から2%の「不足超」に転じており、先行きは大企業の非製造業も1%の「不足超」に転じる予想となっている。