本年度下期の売上高は大きく回復するが、仕入価格上昇・販売価格下落から収益は圧迫される(H23.10.3)
―9月調査「日銀短観」のポイント
【業況判断は大きく好転したが先行きの見方は慎重】
本日(10/3)公表された9月調査「日銀短観」によると、企業の業況判断は、前回6月調査時点に予測していた「先行き」よりも大きく好転した。しかしこの先本年度下期については、売上高は6月時点の予測よりもかなり伸び率が高まるものの、経常利益は仕入価格の上昇・販売価格の下落から6月時点の増益予測をやや下回ると見ている。
まず、9月時点の「業況判断」DIは、大・中堅・中小の各規模製造業・非製造業において、前回6月時点よりも+6〜11%ポイントとかなり大きく好転し、大企業製造業・非製造業では2四半期振りに再び「良い」超に戻った。
しかし、先行きについては、更に好転を予想しているのは大・中堅企業の製造業のみで、大企業非製造業は横這い、中堅非製造業と中小の製造業・非製造業は小幅の悪化を予想している。
【本年度下期の増収率予想は大幅に上方修正】
このような先行きの慎重な見方の背景を見るため、本年度下期の売上収益計画を調べてみると、本年度下期の売上高計画は、各規模の製造業・非製造業において6月時点の計画を今回は大幅に上方修正し、いずれも前年比プラスに転じている。
とくに大企業製造業の下期売上高計画は、前年比で国内が+9.5%、輸出が+8.7%、合計+9.3%と上期のマイナス(それぞれ−0.1%、−4.0%、−1.2%)から一転して大幅なプラスに転じた(下表参照)。
【本年度下期の増益率予想はやや下方修正】
このような下期売上高の大幅な立ち直りにも拘らず、下期の経常利益の予想を見ると、上期の減益から増益には転じるものの、その増益幅は6月調査時点よりもやや下方修正されている。その下方修正幅は、大企業製造業の素材業種(−7.4%)が最も大きい(下表参照)。
【仕入価格上昇・販売価格下落が下期収益を圧迫】
本年度下期の売上高増加率(増収率)の予想が上方修正されているにも拘らず、経常利益増加率(増益率)の予想が下方修正されているのは、企業が下期の交易条件悪化を予想しているためと思われる。
大企業製造業の「仕入価格判断」DIは、9月調査時点の「上昇」超22%ポイントから先行きは同24%ポイントに高まる予想となっており、とくに素材業種では24%ポイントから30%ポイントとかなり大きく高まると予想されている。これは素材業種の仕入価格が、国際商品市況の上昇基調や海外諸国のインフレ基調を敏感に反映するためと見られる。
反面、大企業製造業の下期の「販売価格判断」DIは、9月調査時点では「下落」超9%ポイント、先行きも同7%ポイントと下落傾向を改めないと予想されている。これは海外向けは円高基調、国内向けはデフレ基調が改まらないと見ているためであろう。
もっとも、企業の価格予想とそれに基づく収益予想には、かなり不確実性も含まれているといえよう。最近の海外経済の減速傾向を反映し、国際原料市況には高値修正の動きも出ているし、海外のインフレ傾向もかなり抑えられてきている。また、円高に伴う輸入品の値下がりもある。
従って、企業の仕入価格が今回の短観のように上昇し、下期の企業収益が圧迫されるかどうかは、もう少し慎重にみていく必要があると思われる。
【設備と雇用の過剰は除々に後退】
本年度下期の売上計画の高い伸びを反映し、企業の「生産・営業用設備投資」DIと「雇用人員判断」DIは、ジリジリと好転を続けている。
これを全規模全産業ベースでみると、前者は6月調査の「過剰」超7%ポイントから今回は同6%ポイント、先行きは同4%ポイントと過剰超幅は徐々に縮小しており、後者も同じく「過剰」超8%ポイント、同3%ポイント、同1%ポイントとやや早いテンポで改善している。とくに非製造業の中堅・中小では、先行き1〜2%ポイントの「不足」超に転じる予想となっている。
このように過剰感が少しずつ後退する中、本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資額を除く)は、製造業・非製造業・金融機関の合計で前年比+4.5%と前回調査(+4.6%)とほぼ同じ伸びとなっている。
また雇用者数は、同じベースで、本年6月末に前年比0.0%とようやく前年水準並みとなった。