9月までの回復は緩やかだが10月以降大企業製造業の業績はV字型回復の計画(H23.7.1)
―「6月短観」のメッセージ―
【9月までの業況回復は小幅の予想】
本日(7/1)公表された2011年6月調べの「日銀短観」は、東日本大震災の影響で足許の業況は大きく悪化し、先行き3か月後の回復幅もあまり大きくないが、10月以降の本年度下期には、大企業製造業を中心に大幅な増収増益の計画となっている。
まず「業況判断」DIを見ると、大企業製造業で−9%ポイントと6四半期振りに「悪い」超に転落したのを始め、各規模の製造業・非製造業が軒並み「悪い」超となった。東日本大震災に伴う被災やサプライ・チェーンの寸断で生産活動が低下し、投資、雇用情勢も悪化していることから、当然予想された結果といえよう。
先行きについては、中小企業非製造業を除き、各規模の製造業・非製造業で「業況判断」DIが現状より好転する。とくに大企業製造業は現状に比べて+11%ポイントと大きく好転し、+2%ポイントと僅かではあるが「良い」超に戻る。しかし、その他は先行き好転はするものの、なお「悪い」超の範囲内にとどまる。電力供給制限により、7〜9月期の回復幅が制約されているためであろう。
【本年度下期の大企業製造業の業績はV字型回復の計画】
このような足許と先行き3か月の業況を反映し、2011年度上期の業績は、全規模製造業・非製造業の合計で、売上高が前年比−0.2%、経常利益が同−15.1%と3半期振りの減収、4半期振りの減益となる計画である。
しかし、減収減益は上期にとどまり、下期は再び前年比+3.1%の増収、同+10.0%の増益に戻る計画となっている。
とくに下期の大企業製造業は、被災工場の復旧、サプライ・チェーンの回復、電力制約の緩和などから、売上高は前年比+6.4%、経常利益は同+21.4%と急回復し、2011年度全体としても、+2.9%の増収、+0.4%の増益と小幅ながら2010年度に続き増収増益を維持する計画である。
また、3か月前の3月調査に比べると、2011年度下期の大企業製造業の増収率は+3.5%、増益率は+22.0%の上方修正となっており、大震災直後の予想に比べ、復旧の予想テンポが3か月の間に大きく好転したことが窺われる。
この結果、大企業製造業の下期の売上高経常利益率は、4.94%と2007年以前の高水準に戻る予想となっている。
【本年度の設備投資計画の伸びは上方修正】
2011年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、各規模の製造業・非製造業・金融機関の合計で、前年比+4.7%と、前回3月調査に比べ+1.3%ポイントの上方修正となった。
増加率のとくに高いのは、中堅企業製造業+27.3%、金融機関+12.0%、大企業製造業+10.5%である。反面、非製造業は、中小企業の−32.6%を中心に、全規模合計で0.0%の横這いにとどまっている。中小企業の年度投資計画は、6月時点ではまだ固まっていない向きが多いので、今後経済全体が急回復していけば、年度末に向かって上方修正されるものと思われる。
【大企業と金融機関は世界同時不況以来初のまとまった新卒採用計画:2012年度】
次に雇用計画をみると、全規模製造業・非製造業の「雇用判断」DIは、+8%と「過剰」超幅が4%ポイント拡大したが、先行きは再び4%ポイント縮小し、+4%に戻る予想となっている。
同じベースに金融機関を加えた雇用者数全体の実績は、本年3月末現在、前年比−0.7%と9四半期連続の減少となっている。
2012年度の新卒採用計画は、全規模製造業・非製造業・金融機関の合計で、前年比−3.3%と4年連続で減少する計画となった。しかし、このうち大企業は同+2.2%、金融機関は同+1.7%と世界同時不況以来初のまとまった採用増加を計画している。
【大企業製造業の急回復がいつ、どの程度非製造業や中小企業に浸透するか】
以上にように、東日本大震災発生直後の3月調査「短観」に比べると、大企業製造業を中心に、本年度下期以降の業績回復にかなり自信を取り戻したように窺われる。しかし、3か月後の見通しは、夏場の電力制約のためか、今一つ回復見通しに勢いがない。
今後は、大企業製造業の本年度下期以降の回復の勢いがどこまで経済全体に広がり、非製造業や中小企業の回復を促すかが注目される。