安全停止原発の再稼働を目指せ(H23.3.31)

―大震災復興需要に対する供給制約を除くために―


【東日本大震災のマクロ経済に対するインパクト】
 東日本大震災のマクロ経済に対する最初のインパクトは、被災地の資産(社会資本、企業設備、個人家屋など)破損に伴う生産、流通、支出活動の低下という供給ショックの形をとり、GDPが低下する。次に破損した資産の再建に伴う生産、流通、支出活動の上昇という復興需要が起こってGDPが増加する。
 この復興需要をもたらす計画が単なる復旧計画ではなく、新しい防災と環境を備えた21世紀型モデル地域を創造する計画になれば、不幸な大震災に挫けず、大震災の跡にしか創れない世界の最先端をいく次世代型地域経済・社会を創造することが可能になる。
 国内経済の内部に目標を見失い、「デフレ」と「失われた」時代をさ迷っていた無気力な日本経済が、新しい地域の建設という目標に向かって、猛然と立ち上がることが出来る。

【マクロ的には復興需要を賄う供給余力はあるのだが・・・】
 これを実現するには、政府と民間が知恵を出し合い、@被災者の生活支援、A被災地のライフラインを始めとするインフラの再建、B最先端を行く21世紀型の東日本経済・社会の建設、Cそれに伴う日本経済の再構築などについて、戦略と戦術を練り、持てる力を十二分に発揮しなければならないが、その過程では当然多くの克服すべき問題が出てくる。
 ここでは、その中の一つ、マクロ的な供給制約を取り挙げてみたい。
 前述のように、大震災の初期的供給ショックの後、次世代型経済・社会の建設に向かって全力を挙げて努力する過程では、公共投資、住宅投資、設備投資などの復興需要によってポテンシャルな経済活動は高まるが、その時供給側に需要増加を賄う余力がないと経済成長率は高まらず、ボルトネックが方々に生じてインフレ傾向が強まる。
 日本の現状は、リーマン・ショックによる経済の落ち込みから立ち直る過程にあったので、マクロ経済の需給バランスはかなりの供給超過であり、マクロ的に見る限り供給余力が十分にある。また今回の被災地に多くの工農漁業の拠点があるとは言え、日本全体の6〜8%であり、その供給力の喪失はマクロ需給の供給余力の範囲内である。

【ミクロ的には東京電力の供給限界などの制約がある】
 しかし、実情はマクロの観点で考える程単純ではない。被災地の工場から部品の供給を受けている日本全体の組み立て工場が、部品調達の切り換えを完了するまでは生産がストップしたり低下するという問題がある。また被災地の工場が特定の素材・部品の生産で高いシェアを占めているため、日本の中で代替が効かない例もある。
 一番深刻な問題は、電力の供給である。日本の経済活動で極めて高いシェアを占める関東地方に電力を供給している東京電力が、福島第1原発、同第2原発の発電停止に伴い供給能力が大きく落ち、節電を呼び掛け、また計画停電を実施し始めたため、多くの業種の経済活動に支障が生じている。
 中部地方以西の電力会社には発電能力に余裕があるが、周波数が60Hzと東京電力の50Hzとは異なるため、周波数を変換しないと関東地方に送電出来ない。現在、3か所の周波数変換所が全能力(100万kw)を挙げて西から東京電力に送電しているが、それが限界である。変換所を増設すればいいようにも思えるが、その建設コストは火力発電所の建設とあまり変わらないので、後者に力を注いだ方がよいという判断のようだ。

【今夏の需要ピーク時に850万kwの不足予想】
 このようにみてくると、復興需要による経済成長の回復を阻害する最大の供給制約は、東京電力の供給能力の限界にあるようだ。
 東京電力のホームページに掲載された伊達浩二氏の署名記事によると、3月24日の東京電力の供給電力は3650万kwであるが、電力需要がピークに達する今夏までに供給能力を約1000kw増やし、約4650万kwに高める予定という。しかし、今夏の電力需要のピークは5500万kw(1日平均は約4800万kw)と予想されるため、ピーク時には850万kwの不足が見込まれるという。
 このため、今夏には現在以上に大幅な計画停電が実施される恐れがあるという。
 もし、これが本当なら、折角の復興需要が高まってきても、電力の供給制約によって供給が追い付かず、GDPは復興需要ほどには高まらないことになる。

【電力供給の増強はもっぱら火力発電に頼り、安全停止中の原子力発電は使わない計画か】
 この記事によると、今夏までの1000万kwの電力供給力の増強は、総て火力発電所の@震災による停止からの復旧、A長期計画停止の運転再開、B長期点検からの復帰、などによるものである。
今回の東日本大震災後、東京電力の原子力発電所のうち、4基が運転中、13基が運転を休止している。
 被災して制御不能に陥っている福島第1原子力発電所の1〜3号機や、損傷や一時出火した4号機は、最も古い型の出力の小さい原子力発電機であり、これらの4基の運転再開は考えられず、廃炉となるであろう。
 他方、比較的新型で発電容量の大きい福島第1原発の5号機と6号機、福島第2原発の1〜4号機、柏崎刈羽原発の2〜4号機の合計9基は、震災発生時に定期検査で運転停止中であったり、震災発生に伴い自動停止したため、現在は冷温停止中で水位は制御され、冷却材の漏洩はなく、圧力制御室の平均水温は100℃未満を維持している。これらの発電設備は、地震に対応する安全停止装置が予定通り機能し、また津波をかぶることはなかったからである。
 この9基の出力合計は、958.4kwであるから、今夏のピーク時の推定不足電力850万kwを上回っている。

【東北電力は原子力発電の再稼働を考えている】
 現在、福島第1原発の1〜4号機が制御不能に陥り、国民、とくに原発周辺の住民に大きな生活上の損害や不安を与えている時に、原子力発電設備の再稼働を口にするのは不謹慎の誹りを免れないかもしれない。
 そのような国民感情を十分考慮しなければならないが、日本の将来を考えた時、使える原子力発電能力を使わず、復興需要を賄えず、電力不足による経済活動の停滞が続くことを放置しておいてよいものであろうか。
 東京電力の隣りの東北電力は、女川原子力発電所に3基、東通原子力発電所に1基の原子力発電設備を持ち、全号機共、東京電力の残存9基と同じ理由(安全維持機能が想定通り作動、津波被害の防止に成功)により、安定した状態で運転停止中であるが、東北電力は女川・東通両原発について追加安全対策(@非常時の電源確保のため発電所構内に電源車を常時配備、A海水くみ上げポンプの故障に備え予備部品の用意、B備え付け消防車を利用した使用済み核燃料プールへの注水ルートの確保、など)を講じることとした。
 東北電力として正式に発表はしていないが、夏の電力需要ピーク時には、この4基の原子力発電を再開することを目指していると見られる。

【東京電力は安全停止中の原発を点検し、安全対策を追加した上で、今夏の需要ピーク時に再稼働出来ないのか】
 そうだとすれば、東北電力にやれることがどうして東京電力には出来ないのであろうか。現在はそれどころではなく、福島第1原発1〜4号機の制御と、被災者に対する謝罪で手いっぱいかも知れない。それは分かるが、やはり震災後の日本経済の復活、ひいては日本国民全体の生活立て直しを考えれば、電力供給の不足は何としても回避しなければならないのではないだろうか。
 柏崎刈羽原発は、4年前の中越沖地震による運転停止で、周辺住民に大きな不安、心配をかけ、ようやく運転再開にこぎ着けたばかりだという事情があることも分かる。
 しかし、ここは冷静に考え、福島第1原発の5、6号機、同第2原発の1〜4号機の点検を念入りに行い、東北電力の女川・東通原発と同じように、今回の震災、特に津波の影響を十二分に学んだ新しい対策を講じた上で、安全停止中の設備を今夏の電力需要ピーク時に間に合うように運転再開するため、最善の努力をすべきではないか。

【政治家は感情的な反原発ムードに流されず、日本の将来のため冷静に勇気ある決断をせよ】
これは東京電力の一存では出来ない。政府(政治)の賢い決断が必要である。感情的な原子力発電反対のムードにおもねず流されず、「既存の原子力発電設備はマグニチュード9の大地震にはほぼ耐えたが、10メートルを超す津波に無防備であった」ことを反省し、津波対策を中心に新しい対策を追加し、勇気を持って国民の理解を得る努力をするべきだ。地球温暖化対策を考え、また目先の今夏の電力不足対策を考えて、政治は極端な反原発ムードにおもねず、勇気ある決断をすべきである。
 太陽光、風力、地熱などのクリーンな新エネルギーの開発努力には大いに努めなければならないが、そうだからと言って極端な反原発ムードに流されることは、冷静に賢明に避けなければならない。