大規模で高度の内容を持つ震災復興計画を作ろう(H23.3.14)

―まず23年度予算関連法案の協議、成立を急げ―


【与野党は国民の生命、財産を守る責任を忘れていたのではないか】
 東北関東大震災が発生した今日、改めて振り返ってみると、今年の通常国会は、国民の生命と財産を守り、国民生活を向上させるために、どれだけの事をして来たのであろうか。
与党民主党は、小沢排除の権力闘争に夢中で、政策は役人への丸投げが増え、「国民の生活が第一」というマニフェストの原点から無原則に離れて行くように見える。野党自民・公明党は、日本をどのように良くするかという政策論争を挑まず、予算関連法案の修正協議にも応じず、閣僚のアラ捜しで倒閣、解散に追い込むことに狂奔している。このため、国民の与党支持率は下がり、野党支持率も上がらず、支持なし層ばかりが増えて、過半数に達している。
 この情けない国会が、国民の生命、財産を守るという本来の使命を思い出したとすれば、今回の東北関東大震災は大変不幸な出来事ではあるが、奇貨と言うべきであろうか。政府・与党提出の震災対策補正予算の成立に、野党は「救国のため」協力すると言っている。
 しかし、現在の日本には、「挙党・救国」で臨むべき課題は、ほかにも山積している。それを認識せず、与野党は政争に明け暮れしてきた。

【予算関連法案修正可決の道を探るのは国会議員の責務だ】
 11年度予算案は本年度内に成立することが決まっているが、予算関連法案の参議院可決、あるいは否決された場合の衆議院の3分の2の再可決、の見通しが立っていない。倒閣に夢中の参議院野党は、菅首相では修正の話し合いに応じて修正可決に回ることはないと言っている。権力闘争に夢中の衆議院民主党では、16人の会派離脱希望者が現れ、3分の2の確保は絶望的だ。
 しかし、今回の大震災の被災者の生命、財産を守り先行き不安に脅える一般国民の生活を守るためには、予算関連法案の修正可決の道を探るのが、国会議員の責務ではないのか。

【予算関連法案成立の遅れでこれ以上国民生活の不安を高めるな】
 予算関連法案のうち公債特例法案が通らないと、税収と20兆円の政府短期証券枠で金繰りをつけられる限界が6月にくるので、今回の被災者の救援を含む政府の機能が止まってしまう。その前にも国債の下落=長期金利の上昇が起こり、景気の先行き不安が国民生活を脅かす。
 税制改正法案が通らないと、中小企業の法人税率優遇など日切れ法案による多くの租税軽減措置が失効し、増税による食料品、運賃などの値上がりが国民生活を圧迫する。つなぎ法案で泳ぐとしても、不安感はつきまとう。また、法人実効税率の引き下げなど11年度税制改正の本体の成否が見通せず、企業の経営計画は戸惑わざるをえない。
 更に子供手当法案や地方交付税改正法案が通られないと、子育て家計の生活設計や地方自治体の本年度財政計画が不確かになる。

【「救国」のため「挙党」で政策決定を急げ】
 以上のように、菅内閣では予算関連法案修正の話し合いには応じないとして、いわば予算関連法案を人質に取って菅内閣の退陣、衆議院の解散に追い込もうとする野党の戦略は、東北関東大震災の被災者の悲惨な生活を更に追いつめることになる。
 そればかりではなく、政府の機能を制約し、経済活動に悪影響を及ぼし、日本国民一般の先行き不安を高めることになる。
 野党はすみやかに修正協議のテーブルに着き、予算関連法案のつなぎ法案という姑息な手段ではなく、一刻も早い関連法案本体の修正可決に協力すべきである。
 その上で、大規模で高度の内容を持つ震災復興補正予算の与野党協議に入り、その成立、施行を急ぐべきである。
 ダウン寸前の菅内閣が、「火事場泥棒」的に予算関連法案の修正可決を追っていると見る野党の見解が支障になるとすれば、次元が低過ぎる。国民の生命、財産を守るという最高の責務に照らせば、ここは
「救国」のため「挙党」で政策協議を急ぐべき時である。

【大震災前にも「救国」「挙党」で取り組むべき課題は山積していた】
 昨年10〜12月期に足踏み状態となった日本経済は、年明け後再び回復軌道に乗ってきたが、大震災が起きる前にも、先行きにいくつかのリスクはあった。
 最大のリスクは、中東の騒乱に伴う原油価格の高騰である。最近の資源・食糧価格の上昇傾向がこれで拍車され、輸入価格の高騰でコスト・プッシュ型の物価上昇となろう。企業収益は圧迫され、それを販売価格に転嫁すると国民の実質購買力が低下する。コア消費者物価の前年比は2月にマイナス0.2%まで縮小しているので、これでデフレは解消するが、景気にはマイナスだ。マクロ的に見れば、輸入価格が輸出物価を大きく上回って上昇し、交易条件の悪化によって日本の所得が海外に奪われる。
 これらのリスクを克服し、持続的成長軌道を確かなものにするためには、新成長戦略の策定やTPP参加への取り組みなどの中期的課題を与野党で真剣に協議、決定し、企業が前向きの中期経営戦略を立てられるようにすることが大切だ。これも「救国」「挙党」で協議、推進すべきことである。

【日本の知見と技術をフルに発揮した震災復興計画を作ろう】
 今回の大震災による生産、流通、支出活動へのダメージは、他のリスクとは比較にならない程大きな影響を日本経済に与えるであろう。3月11日以降の実質GDPが一時的に低下する。
 しかし逆に言えば、落ち込んだ生産、流通、支出活動をどのように立て直すかが、今後の日本経済の動向を決する。
 当面は被災者の生活を支援する救援活動と被災地の後始末が中心となるが、そのあと失われた家屋、生活インフラなどの都市機能再建、破壊された生産、流通設備の復旧投資など、本格的な復興活動が始まる。
 当面の救援活動の予算は、予備費である程度賄えるであろうが、本格的な復興活動の予算は、建設国債と赤字国債を財源として、大規模な23年度補正予算を組み、「救国」のため、「挙党」ですみやかに成立させることが最も大切である。
 このような一時的な支出は、国債増発で賄うべきであり、増税をすべきではない。一時的な国債発行で、その後は行われない国債発行であるから、市場がそれを理解すれば金利の上昇はあまり起こらないであろう。大型の復興需要で成長率が高まることを確信すれば、企業の投資活動も刺激を受けるであろう。
 震災復興補正予算が、「災いを転じて福となす」よう、量質共に充実し、日本の技術をフルに発揮した計画にして、日本経済の底力を示そうではないか。国民生活のための都市計画や環境計画、産業構造の在り方は、既存の旧い姿にとらわれ、普通は白紙に絵を描くようには行かない。しかし、これだけ破壊された更地の復興計画は、21世紀の最先端の知見と技術をフルに活かして、白紙に絵を描くように決められる。世界が驚嘆するような復興計画を作り、実現しようではないか。