2011年の内外経済の予測(H23.1.24)
―本年第1回の昼食勉強会の討論を踏まえて―
【オバマ減税で米国の目先の失速リスクは解消】
米国の8580億ドルの財政刺激には、昨年12月末に期限が切れるブッシュ減税の延長のほか、新たに給与税の引き下げ(オバマ減税)が含まれている。このため、本年前半にかけて懸念されていた景気の失速リスクは解消し、逆に成長率は2010年10〜12月期を底にこれ迄の予想よりも上振れしてくるとみられる。
しかし、これは問題(失速リスク)を2012年に先送りしたに過ぎない。
【高失業率と住宅価格の下落が続き2012年に下振れリスクを先送り】
何故なら、@労働参加率が低下しているので、失業率の実勢は公表されている10%弱よりも高く、12%前後とみられ、これが高止まりすることに伴って賃金に下押し圧力が加わり続け、CPIコアインフレ率の低迷(12月現在前年比+0.8%)は続く(「デフレ化」)、A新築住宅の6倍の販売件数を持つ中古住宅の在庫率が正常在庫の6か月に対し、10か月と高く、当分住宅価格の下落は続くので、この逆資産効果が支出を抑制する、という二つの問題をオバマ減税は解消できないからである。
このため、2011年の初めに高まった成長率は、2012年に向かって再び低下しよう。
2012年は大統領選挙の年なので、この年は景気失速を防ぐため、再度財政刺激が図られるかも知れないが、この場合はオバマ減税で上昇した財政赤字の対GDP比率(2009年現在既に11.0%)を更に上昇させ、長期金利の上昇で効果が限定されよう。
【ユーロ圏内の問題国は悪循環に陥っている】
ユーロ圏は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルと飛び火してきた財政問題が、更に大国のスペインに飛び火するかどうかが今後の鍵を握っている。飛び火すると、現在の支援策ではとても足りない。さりとて、ドイツを中心とする支援国の国民が、自分達の税金を更に大量に拠出してこれらの国を援けることを認めるかどうかは、大きな政治問題となり、困難に直面しよう。
財政問題を抱える国々では、国債のデフォルト・リスクから金利が大きく上昇し、それが一方では国の金利負担を拡大し、他方では景気後退を招いて税収を一層落ち込ませているため、両面から財政赤字を更に拡大させることとなり、それが一層の金利上昇を招くという悪循環に陥っている。
【ユーロ圏内は3極化し、問題国の解決シナリオは見えない】
ユーロ圏の内部では、仮にユーロが存在せず、個々の国が通貨を持っていれば、財政問題を抱える国々の通貨が下落し、ドイツのマルクは上昇し、前者から後者に輸出が伸びて再建の目途がつく。しかし、ユーロという共通通貨を持っているためにこのメカニズムが働かず、前者の問題国は上述のように所得収縮の悪循環に陥り、後者のドイツは問題国のパフォーマンスを反映したユーロ安でユーロ圏外への輸出を伸ばし、順調に拡大している。このため、ドイツとドイツ以外のコアメンバーと問題国の間で3極化が起こり、問題国解決の目途が立っていない。
2011年のユーロ圏は、2010年に続いて1%台の低い成長率(その中でドイツは3%前後)が続き、問題国のデフォルトで金融危機が発生するリスクを抱え続けることとなろう。
【アジア新興国はインフレ、資産バブルなど上振れリスクが課題】
中国、インド、インドネシアなどアジアの新興国では、産業化の進展とインフラ整備で成長ポテンシャルは高く、インフレと資産バブルの発生を早めに抑えることが最大の課題である。
このため、金利の引き上げなどによって金融政策を緩和から中立に戻しているが、名目金利水準はインフレ率を上回っていないので(実質金利はゼロ)、引き締めの効果は不十分である。
しかし、金利の一層の引き上げは、一方では為替相場を上昇させて輸出にブレーキを懸け、他方では投機資金の流入を増加させて資産バブルをあおるので、限界がある。
このため、新興国では流入外貨を市場介入で買い上げて為替相場の上昇を抑えようとしているが、その結果外貨準備の急増と国内マネーストックの増加が起こっており、後者はインフレと資産バブルをあおるという矛盾に直面している。
2011年の新興国のリスクは、成長の下振れではなく、インフレやバブルによる上振れをどう抑えるかにある。
【日本の10年10〜12月期、11年1〜3月期における成長率の反動減は小さい】
こうした海外環境の中で、2011年の日本経済は、昨年鈍化傾向を辿っていた輸出の伸びが、対米と対アジア新興国向けを中心に再び高まってくるであろう。
他方、国内では09年10〜12月期から10年7〜9月期までの1年間+5.3%の高成長を支えた家計消費(寄与度+1.7%)が、エコカー補助金の打ち切り、エコポイント制度の対象絞り込みなどの政策効果息切れの影響で、反動減となることが懸念されている。
しかし、実質ベースでみて、この1年間の家計消費の増加が+2.8%であるのに対し、雇用者報酬の増加は+3.0%である。消費性向は若干下がっており、需要先喰いの跡はみられない。従って、乗用車など政策息切れの影響が大きい特定品目で需要先喰いとその反動減がみられるとしても、家計消費全体としては10年10〜12月期、11年1〜3月期に大きな反動減は起こらないのではないか。
【10暦年の4%台成長に続き11暦年も2〜3%成長になるのではないか】
10年7〜9月期までの1年間、+5.3%成長に対する寄与度が家計消費の+1.7%に次いで大きいのは、純輸出の+1.5%、在庫投資の+1.0%、設備投資の+0.9%である。
純輸出については、既に輸出の見通しで述べたように、10年10〜12月期が輸出の伸び率鈍化の底で、11年初から回復してくると見られる。
また企業の設備投資、在庫投資については、10年に比し11年の伸びが弱くなるとみる根拠は、格別見当たらない。
従って、日本の成長率の鈍化は10年10〜12月期が底で、11年初から回復してくるのではないか。また10年10〜12月期も、一般に言われているほど大きなマイナス成長にはならないのではないか。
10暦年の4%台成長に続き、11暦年も一般に言われている1%台成長ではなく、2〜3%成長になる可能性がある。