2010年の日本経済は米・EUを上回る3%台成長になる(H22.11.15)

―7〜9月期GDP公表のインプリケーション

【7〜9月期は国内民間需要のみで+0.9%<年率+3.8%>成長】
 本日(11/15)公表された本年7〜9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比+0.9%(年率+3.9%)と大方の予想を上回る高い成長率となった。純輸出と公的需要(政府消費支出+公的投資)の成長寄与度はいずれもほぼゼロで、もっぱら国内民間需要の増加による成長である。この点は私も含め大方の予測通りであったが、年率+3%台成長という高い成長率は予測されていなかった(このHPの<月例景気見通し>2010年11月版参照)。
 大方の予測を上回る高い成長率となった原因は、家計消費が前期比+1.2%(年率+4.7%)と大幅な伸びとなり、これだけで成長寄与度が前期比+0.7%(年率+2.7%)に達したためである。私自身を含め、多くの民間予測は、エコカー補助金の打ち切りに伴う駆け込み需要、タバコ増税前の買いだめ需要、猛暑効果などで家計消費が大きく伸びるとはみていたが、これ程高い伸びは予想していなかった(上記HPの予測参照)。

【本年1〜9月の実質GDP年率は09暦年比+3.5%の高成長】
 マスメディアはあまり伝えていないが、7〜9月期の実質GDPの公表と同時に、本年1〜3月期の実質GDPが、家計消費、住宅投資、在庫投資などの民間需要を中心に上方修正され、前期比+1.2%(年率+5.0%)から同+1.6%(同+6.6%)となった。
 この結果、本年初めからの3四半期は、年率で+6.6%、+1.8%、+3.9%の高成長となり、本年1〜9月の実質GDPの平均年率は、09暦年の実質GDPに比べ、+3.5%の高水準に達している。
 これは、IMFの本年の世界経済見通し(2010年10月改訂値)の中の日本の成長率+2.8%を大幅に上回っている。同見通しによれば、本年の米国の成長率は+2.6%、ユーロ圏の成長率は+1.7%であるから、本年の先進国・地域の成長率の中で、日本の成長率が唯一3%台に達し、一番高くなる可能性がでてきた。



【家計消費急増には雇用者報酬増加の裏付けもある】
 もっとも、7〜9月期の消費増加の反動と世界経済の成長鈍化に伴う輸出の頭打ちによって、10〜12月期がマイナス成長になるのではないかという見方が多い。その場合には、本歴年の成長率は上記の+3.5%を下回ることになる。
 10〜12月期の家計消費に7〜9月期急増の反動減が現れることは間違いないが、それがどの程度になるかは、10月の消費指標もでていない現時点では予測は難しい。
 ただ、一つ見落とされていることがある。それは、雇用と賃金がジリジリと改善し始めているため、下表のように実質雇用者報酬の前期比は本年1〜3月期から増加に転じており、消費が急増した7〜9月期の消費性向は、下表の通り昨年第2〜4四半期よりも低いということである。つまり7〜9月期の消費増加には雇用者報酬増加の裏付けがあり、10〜12月期の反動減はあまり大きくないかもしれないのである。自動車、タバコ、エアコンなどの需要の反動減を、冬物商品の需要増加がある程度埋める可能性も、所得面からはあるということである。


【アジアの新興国・途上国が世界経済の拡大を牽引】
 もう一つ見落とせないことは、今後米国やユーロ圏など先進国の成長鈍化は予想されているものの、新興国・資源国経済は景気過熱が心配される程国内需要が強いことである。
 かつて先進国がクシャミをすれば途上国は風邪を引くと言われる程世界経済の成長は先進国の肩に懸っていたが、今は逆で、途上国・資源国が世界経済の成長を牽引し、その恩恵に先進国があずかっている。
 IMFの世界経済予測によると、2010〜11年の世界経済の成長に対する寄与率は、下表のように先進国が28%にすぎず、アジアの新興国・途上国が48%、その他の新興国・途上国が24%である。
 従って、米欧の成長が、バランスシート調整が長引くことによって停滞が続いたとしても、それによって日本の輸出環境が大きく悪化するとみるのは、やや行き過ぎであろう。





【本年の成長率が3%台に乗る蓋然性は高い】
 以上のように、本年7〜9月期の実質成長率が予想外に高かったからといって、10〜12月期以降の反動減を強調する見方は、やや悲観的に過ぎるように思われる。
 日本経済は世界経済発展の機関車となってきたアジアに存在し、また米欧のようなバランスシート調整の重荷を背負っていないので、先進国の中で高めの成長をすることは、決して不思議ではない。
 本年の日本経済の成長率が3%台を割るためには、10〜12月の実質GDPが前期比−2.6%以上落ち込まなければならないが、このように大幅なマイナス成長は、リーマン・ショック直後の08年10〜12月期と09年1〜3月期に経験しただけである。
 予想外の攪乱要因が発生しない限り、10〜12月期に家計消費の反動減と輸出の停滞持続があったとしても、−2.6%以上のマイナス成長になるとは考えにくい。
 従って、本年の成長率が3%台に乗る蓋然性は、かなり高いと見られる。